永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(133)

2008年08月11日 | Weblog
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【蓬生(よもぎう)】の巻  その(8)

 それでも、末摘花は別れの記念になるものと、お探しになりますが、普段着の着物は垢じみており、長年の奉公に対して慰労の志を示す物とてなく、

「わが御髪(みぐし)の落ちたりけるを取り集めて、鬘にし給へるが、九尺ばかりにて、いと清らなるを、をかしげなる箱に入れて、昔の薫衣香のいとかうばしき、一壺具して給ふ」
――御自分の髪の抜けたのを取り集めて、鬘(かづら)になさったのが9尺ほどで、たいそう見事なものを、趣のある箱にお入れになり、昔の薫衣香(くんえこう)のとりわけて香ばしいのを、一壺添えてお与えになります――

末摘花のうた
「たゆまじき筋を頼みし玉かづらおもひも外にかけはなれぬる」
――永久に離れないものと頼っていたあなたも、思いがけず遠くに行ってしまうのですね。――
(筋は、血筋と毛筋の掛けことば)

 亡くなった乳母(侍従の母)が、いつまでも姫君をお世話するようにと、遺言をして死んだのでした。末摘花は、このあと誰に頼んだらよいのでしょう、と激しく泣かれます。

侍従も、
「ままの遺言はさらにも聞えず。年頃の忍び難き世の憂さを過ぐし侍りつるに、かく覚えぬ道に誘はれて、遙かに罷りあくがるることとて、うた」
「玉かづら絶えてもやまじ行く道のたむけの神もかけてちかはむ、命こそ知り侍らね」
――母の遺言は申し上げるまでもございません。年来苦しい世をご一緒に過ごして参りましたのに、このような思いがけない旅に誘われて、遠いところへ流浪するのが悲しいことです。お別れしましても、お見捨て申しはいたしません。行く先々の道祖神にも堅くお誓いいたしましょう。ただ、命はあてになりません。無事に帰ってこられますかどうか――

叔母は、
「いづら、暗うなりぬる、とつぶやかれて、心も空にて引き出づれば、顧みのみ、せられける。」
――さあ、さあ、侍従はどこです、日が暮れてしまったのに、と文句を言いますので、心も空に車に乗り、そのままお屋敷から出ましたものの、後ばかり振り返って行かれたのでした。――

◆鬘(かづら)を贈る=旅に鬘をおくることは良くあったそうで、旅の道祖神と関係があるらしい。

◆薫衣香(くんえこう・くのえこう)=古き時代から、ある種の香木の香りを虫が嫌うという性質を利用し日本人は、衣類の保存などに香木を刻んで調合したお香を使用してきました。

ではまた。




源氏物語を読んできて(道祖神)

2008年08月11日 | Weblog
道祖神

 道祖神(どうそじん、どうそしん)は、路傍の神である。集落の境や村の中心、村内と村外の境界や道の辻、三叉路などにおもに石碑や石像の形態で祀られる神で、村の守り神、子孫繁栄、あるいは交通安全の神として信仰されている。元々は中国の神であるが、日本に伝来してからは、日本の民間信仰の神である岐の神と習合した。さらに、岐の神と同神とされる猿田彦神と習合したり、地蔵信仰と習合したりした。

 各地で様々な呼び名が存在する。賽の神、障の神(さいのかみ、さえのかみ)など。

源氏物語を読んできて(住い・貴族の屋敷)

2008年08月11日 | Weblog
貴族の屋敷
 
 平安朝も中期頃になると、受領でも「一町」の邸を持つ者も出てきますし、公卿の中では、一人で「一町」あるいは、それ以上の邸宅をいくつも持つ者が出た。
 
 この物語で見る、源氏の邸宅の二条の院は、母の父・按察使の大納言のものだから、「一町」はあったであろう。父帝の故桐壺院から伝領した二條の院の東の院もそれくらいであろう。

 六條御息所の邸宅も「一町」だった。巧みに不動産を増やしていく源氏のしたたかさが、物語の背面にあることも見逃せない。
 
 今後の展開で示される「六条院」は、六條御息所の邸の一画に取り込んで「四町」にも及ぶものと、物語はいう。