永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(125)

2008年08月03日 | Weblog
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【澪標(みおつくし】の巻  その(18)

源氏は、
「かうかうの事をなむ思う給へわづらふに、……」
――このような次第で、思案に余っております。(故御息所には、私の好色心(すきごころ)にまかせて、よしない浮き名を流してしまい、つれない男と思われたまま逝かれてしましました。けれども亡くなられる間際に、斎宮の御事を頼まれましたのは、私を一番の依頼者とさすがに見抜いてくださってのことと、何とか償いもしたいのです。今上帝(冷泉帝)は、まだ幼なさの残っているお年頃ですから、少しはものの分別のつく年上の女御がお側においでになるのは、良いことだと…)――

藤壺も同じように、
「……かの御遺言をかこちて知らず顔に参らせ奉り給へかし。」
――(院へは畏れ多いことではございますが)御息所の御遺言ですと、気づかぬ顔で前斎宮を入内おさせ申すのが良いでしょう――

 源氏は、朱雀院のお気持ちはご存じ無かった風にして、前斎宮を二條院にお迎えし、冷泉院への入内をお考えです。

 冷泉院への入内には、兵部卿宮(藤壺の御兄)も中の君を入内させようと大騒ぎしてお世話しておられますが、年齢も権中納言の御娘の弘徴殿女御と変わらぬ年齢の十二歳ですので、雛遊びのようだと源氏はお思いで、この後はぬかりなく冷泉帝の補佐として政はもちろんのこと、日常の細かなことまでも、お心遣いをされます。藤壺は源氏と御兄の間にあって、お心が痛むのでしたが。

 二條院では紫の上が喜んで前斎宮をお迎えします。
藤壺はこの頃、どことなくご病気がちで、参内されても冷泉帝のお側に居られることが難しいので、是非ともしっかりした年上のお側役が必要なのでした。

◆前斎宮を二條院へお迎えし=源氏の養女として迎えるということ。
◆朱雀院と前斎宮はいとこにあたる。この時代、近親結婚がとても多い。
◆年上のお側役=年上の女御・妃

【澪標(みおつくし】の巻 終わり。

ではまた。


源氏物語を読んできて(貴族の生活と財政・貴族の邸宅)

2008年08月03日 | Weblog
貴族の生活と財政

 源氏物語は、天皇家と貴族の世界の物語である。三位以上の公卿と言われる貴族は二十名を越えない。これらの家の経済を覗いて見ることにしました。

◆貴族の邸宅
 不動産としては、宅地および邸宅、荘園、牧場などがある。これらの不動産は、自分の代に得たものもあるが、多くは、親から、妻から、あるいは夫などから相続したものである。従って、邸宅にしても、一人でいくつも所有することになる。
 
 源氏は、二條の院を母から、または祖母から、二條の東(ひんがし)の院を桐壺院から得ている。六條御息所の邸宅を、前斎宮を養女とすることによって預り、須磨へ退居している場所は自分の荘園であり、牧場のようである。それを留守中は紫の上に所有権を示す証券のようなものを預けている。
 
 源氏の政治力を見落としがちだが、美貌と色好みの展開の裏に、当時の人々は当然源氏の経済観念のしたたかさも読みとっていたことと思う。