永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(138)

2008年08月16日 | Weblog
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【蓬生(よもぎう)】の巻  その(13)

 末摘花は、こうまでして草深い家をお訪ねくださったお志に、お心を引き立てられて、やっとかすかにお返事をされます。

 源氏は、わたしの心は変わることなく、このように露に濡れてお訪ねしたことを、あなたはどう思われますか。ご無沙汰はお互い様で、お許しくださるでしょうね、などと、
「さしも思されぬ事も、情情しう聞えなし給ふ事どももあり」
――それほどにお思いでないことでも、いかにも情けありげに、優しくお話になったようでございます――

「立ち留まり給はむも、所のさまよりはじめ、眩き御有様なれば、つきづきしう宣いすべして出で給はんとす」
――ここにお泊まりになるには、荒れ果てたお屋敷の模様をはじめとして、きまり悪いほどのご様子ですので、上手に言いつくろってお立ち出でなさろうとします――

 松に掛かった藤を見て、素通りし難く思いましたのは、あなたが私を待っていてくださったからです。そのうち、のんびりと須磨でのお話も申し上げましょう。などと源氏はお話になって、末摘花が几帳の向こうで身じろぎなさる気配や、袖の薫物に、昔よりは少し大人びてこられたことよ、とお感じになるのでした。

 室内の調度の飾り付けなどは、荒れ果てたお屋敷の外見にくらべれば、優雅で品良く昔のままで、源氏はあらためて、この姫君を不憫に思われたのでした。
 
 さて、
 源氏は、賀茂の祭りやその前の御禊に、そのお支度のためといって、諸方からの献上物を、しかるべき女方にお配りになります。ことに常陸宮(末摘花)には、細やかにお心を配られて、蓬を苅りはらわせ、崩れている築地を板垣に修繕など、おさせになります。ただ、世間体には不名誉なこととお思いになって、ご自身では姫君のお屋敷をお訪ねにはならないのでございました。

◆8/17(日)~23(土)の1週間お休みします。