永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(26)

2008年04月21日 | Weblog
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【若紫】の巻 (8)

 源氏は、「いみじく、らうたき」――大層可愛らしい――若紫の様子をみながら、こんなことを思うのでした。
「さかしら心あり、何くれとむつかしき筋になりぬれば、わが心地もすこし違ふふしも出で来や、と、心おかれ、人もうらみがちに、思ひのほかのこと、おのづから出でくるを、いとをかしきもてあそびなり」
――もっと歳をとって嫉妬心が出来、なにやかや面倒な関係になっていくと、自分の気持ちも変わる点が出てきて、少しは遠慮もおかれるし、女の方でも不平がちで、思いも寄らぬ別れ話などが、自然出てくるものを、今はそんな事はなく、誠に面白い遊びあいてだ――

「女(むすめ)などはた、かばかりになれば、心やすくうちふるまひ、隔てなきさまに臥し起きなどは、えしもすまじきを、これは、いと様かはりたるかしづき種なり、と思いためり」
――実の娘でも、この年頃になると、気安く振る舞ったり、へだてのない起居などは、ちょっと出来ないものなのに、親子でもなく、夫婦でもない、風変わりな秘蔵っ子だ――
ここで、「若紫の巻」終わっています。


【末摘花】(すえつむはな)の巻 (1) 

 源氏18歳~19歳秋  若紫10歳~11歳

 源氏は「ここもかしこも、打ちとけぬ限りの、気色ばみ心深き方の御いどましさに、け近くうちとけたりし、あはれに似るものなう、恋しく思ほえ給ふ」
――葵の上も、六條御息所も、気をゆるさぬ人々ばかりで、互いに気取り競い合って、底意の知れぬ風をなさるにつけても、心惹かれた夕顔のはかない別れを切なくおもわれるのでした。――

 そんな折り、大輔の命婦(たいふのみょうぶ)が、ある姫君の話をします。
大輔の命婦という人は、源氏の乳母(大貳)の次に大事な方の娘で、今は内裏に仕えています。源氏とも幼なじみで懇意な間柄のようです。
その姫君が故常陸宮の姫君で、孤児として淋しく暮らしているというので、源氏は好奇心を持ち、命婦にたずねます。

命婦「心ばへ容貌など、深き方はえ知り侍らず。かいひそめ人疎うもてなし給へば、……琴をぞなつかしき語らひ人と思へる」
――容貌など詳しくは存じません。奥深く、世離れて暮らしておいでです。……七弦の琴を親友と思っていらっしゃるようで――

 源氏はその姫君に是非とも近づきたいものと、命婦と計画をして、朧月夜のおもむき深い時分に出かけます。しかし琴の音も大して上手でもなく、やや興ざめながらも
「なほさやうの気色をほのめかせ」
――わたしが大層気のあることをほのめかしてくれ――

 そして、ある夜、命婦の手引きで忍び入ります。姫君はおっとりとしていらっしゃるのか、子供っぽいのか、何かにつけて気の利いた風がありません。
「さる御心もなきをぞ思ひける」
――姫君には、そのようなご用意もなく――
 
 源氏は訳もなく嘆息されてお帰りになりました。翌日の夕方になって、せめてもと後朝(きぬぎぬ)の文をおくります。(後朝の文は、朝早く遣るのが普通)
姫君の名を末摘花といいます。
ではまた。