落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

笑っていれば、怖いことは何もないのよ

2008年11月02日 | movie
『Orz ボーイズ!』

「うそつき1号」(李冠毅リー・グァンイー)・「うそつき2号」(潘親御パン・チンユー)と呼ばれるふたりは大の仲良し。気になる女の子がいる1号、タマゴの中のひよこが見たくて懐中電灯で照らして観察するのが好きな2号、それぞれに周囲の大人から見れば手のつけようのないやんちゃだが、彼らには彼らなりの夢と希望があった。

これは設定年齢はいくつなんでしょうね?4年生か5年生くらいかな?ぎりぎり思春期前くらい。
演じてる李冠毅と潘親御は実際には3歳違うそうで、体格的にも人物造形にも相当なギャップがある。1号はすらっとした少年体型で声変わりが始まりそうな声音、自分が周囲からどう見えているか、自分がどうしたいかという社会性を冷静に認識し始める段階にさしかかっている。まだ大人とはいえないけど、その階段に一歩足をかけつつある。一方の2号はちっちゃくてまだ完全な子ども。だが子どもなりの素直さとしたたかさとはちきれんばかりに豊かな感受性がとても魅力的。
現実にこれくらいの子どもは発達状態に個人差があり同年齢には見えないくらい大きい子・小さい子もいるし精神年齢にもバラつきがあるから、そういう意味ではこのふたりの差はリアルである。仲良しといえども単純に対等ではなくて、1号の方がとりあえずのリーダーシップを握っている。でもよく見ると2号が一方的に1号を慕うのではなく、1号も2号を強く必要としているという絶妙なバランス。

監督は是枝裕和の『誰も知らない』が好きでこの作品をつくるにあたって参考にもしたそうだが、ぐり的には岩井俊二の『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の方が近いような気がした。仲良しふたり組の男の子だけの冒険、淡い恋。
ただ、両者ともあくまで大人の目から見た少年時代へのノスタルジーがベースにあるのに対して、この作品はどこまでも子ども目線に徹しているところが素晴らしい。子どもが主人公で、しかもどうやらいろいろと複雑な背景も細かく設定されているらしいのだが、べたべたした感傷や一般論がまったく挟まれていないのだ。そういう子どもだけで完結した世界観は去年映画祭で観た『トリック』にちょっと似ている。日本映画の影響を受けているという台湾映画は数多いが、この作品ではきちんとそれを消化しておいて台湾映画らしいオリジナリティにまでしっかり発展させている。
実はこの映画には登場してしかるべきものがいくつも省略されている。2号の両親はいっさい画面にでてこないし、ハワイに住んでいるという1号の母親も実在そのものが曖昧である。1号の父親は病気という設定だが、具体的にどういう病気なのかは画面では説明されない(金秀吉の『君は裸足の神を見たか』に登場する老婆に似たミステリアスなキャラクターである)。設定だけでなく、ストーリー上あるはずのシーンが映像では表現されなかったりもする。
こういうスパッとドライな省略も、観客が物語に共感する助けになっている。これらをはっきり描いてしまうと、観客は却って画面の向こうとこちら側との境界を意識せざるをえなくなる。描いてないから、共感するはずのないシチュエーションにもするっと入りこめてしまったりする。スパッとし過ぎて展開が乱暴に見える部分もないこともないけどね。

カメラワークや照明、衣装など細部にまできちっと神経の行き届いた、非常に完成度の高い作品。傑作です。アニメパートのデザインもオシャレ。台湾で大ヒット公開中で先だって発表された金馬奨にもノミネートされたのはごく当然のことだと思う。日本でも一般公開してほしい。
上映後のティーチインでは監督・プロデューサーと主演の子役ふたりも登壇。李冠毅はずいぶん背が伸びて既に監督を追い越していて驚いた。潘親御はブルース・リーのファンで大きくなったら武術家になりたいそうだ。長々と続く大人の話に退屈してマイクにイタズラして監督にたしなめられたり、あんぐり口をあけてあらぬ方向をぼけーっと眺めていたり、ふたりとも映画そのままのごくふつうの少年。映画の大ヒットで台湾では有名人になっているだろうけど、ヘンにスレたりしないでこのまますくすく育ってほしいなー、なんて思ってしまいました。
ところでアニメで描かれた「幸福の王子」と学校の銅像はどうリンクしてるんかな?聞こうと思ってたのに忘れた(爆)。


予告編
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エンディングテーマも名曲。