落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

ホームズ君によろしく

2008年11月30日 | movie
『バンク・ジョブ』

1971年9月11日、ロンドンでロイズ銀行の地下貸し金庫が破られ、400万ポンドともいわれる大金が盗み出された。事件は当初大きく報道されたが数日でマスコミから姿を消し、以後真相はいっさいが闇の中となったままである。
犯人は中古車販売業を営むテリー(ジェイソン・ステイサム)。元モデルのマルティーヌ(サフロン・バロウズ)から強盗計画をもちかけられ、悪友仲間を集めて銀行の地下にトンネルを掘り貸し金庫に押し入ってみると、そこには王女をはじめ高級官僚や警察の黒い秘密の証拠さえもが山のように眠っていた。黒幕は王室スキャンダルをネタに当局を強請りあらゆる刑事罰を逃れ続けていた麻薬密輸商でアナーキストのマイケルX(ピーター・デ・ジャージー)に業を煮やしたイギリス情報局保安部(=MI5)だったのだが、ひきずりだされた他の秘密の持ち主も黙ってはいなかった。

いやーおもしろかった。ウン、最高。これぞオトナのエンターテインメント。
カメラワークもいい、音楽もいい、美術も衣裳もいい、キャスティングもすばらしい。どこといって妥協したような点がまったく見受けられない。完璧でございます。
ビックリするのはこれが実話だってとこなんだよね。まあどこまでが事実に基づいてるのかはよくわからないんだけど、この物語のいちばんの要は、マスコミに流れる情報の多くがどこかで誰かにコントロールされてるという、近代社会における普遍的事実ってことは間違いがないだろう。
そもそもの事件の発端は王室スキャンダルがマスコミに流れることを怖れた当局だし、事件を大きくしたのは自らの保身のために強盗団を追い回した地下組織や腐敗官僚だった。事件を揉み消し闇に葬ろうとしたのも当局である。にも関わらず、ベイカー街周辺の人々は今でも事件のことを覚えているし、当事者の一部は今も健在でこの映画の制作に協力もしている。誰がどうしようとほんとうの真実はそう簡単には死なないし、きれいさっぱりと消えてなくなることもない。

モチーフそのものは犯罪だけど、主人公たちが決して悪人として描かれないところは古今東西の怪盗映画のフォーマットを踏襲している。
だが現実の事件を描いているからには、怪盗が官憲の手から逃げきってめでたしめでたしというわけにはいかない。純粋にカネ目当てに銀行を襲ってみたものの、出て来たのは金銀財宝だけではない。ひと目に触れることのない貸し金庫に預けられていた数々の秘密を取り返そうと、芋づる式にあらゆる魔手が強盗団に迫ってくる。警察も黙っていないしマスコミもまた同様である。初めはMI5とテリーたちだけの「ヤマ」だった事件は、こうして三つ巴、四つ巴の複雑な様相を呈していく。
おそらく実際にはさらに複雑だったであろう事件を、映画ではわかりやすくテンポよく、しかし観念的に陥らないように、実に巧みに描写している。シナリオがほんとうによくできている。テリーとマルティーヌのつかず離れずのスリリングな関係もスパイシーに利いている。
近年観たクライム・サスペンスの中では最高の出来。ブラボー。また時間があったらもう一度観たいです。とりあえずミック・ジャガーがどこに出てたのか確認しないとなー。