落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

赤壁前にて

2008年11月01日 | movie
『レッドクリフ Part I』

漢王朝滅亡前後の乱世を駆け抜けて伝説となり、1800年を経た今も多くの人々の心をとらえて離さない三国志のヒーローたち。
中でもクライマックスとなった「赤壁の戦い」を二部作で描く。
皇帝の座を狙う曹操(張豊毅チャン・フォンイー)の大軍に迫られ窮地に陥った劉備(尤勇ユウ・ヨン)軍の軍師孔明(金城武)は、呉の孫権(張震チャン・チェン)と軍臣周瑜(梁朝偉トニー・レオン)を説得して同盟を結び、ともに曹操軍と戦う決意をする。

うーん。凄い。
ぐりはTVを観ないけど、今回の宣伝がハンパじゃないってことだけはわかるよ。だってネットみててもどこのサイトにもバナー入ってるし、電車に乗っても本屋に入っても、どこにいてもこの映画の広告が目に入らないってことがない。
正直そんなにやって大丈夫かい?と思ったりもしたけど、杞憂でした。
だってホントに凄いもーん。確かに製作費100億円ったって2本分やろ?ロケ8ヶ月ってもやっぱ2本分やし。けどマジでコレ、100億円で8ヶ月で撮れたってかなりお買得じゃない?ってくらい凄いんだよー。
クオリティとしてはたぶんこの手のアクションスペクタクルではハリウッド級です。いや、それ以上かも。とにかく豪華。すんごい豪華。セットはデカイしエキストラめちゃくちゃ大人数だし、出演者はいちいち全員が国際派の大スターばっかりてんこもり。こんなのハリウッドでもつくれないんじゃない?ってくらい、凄い。
ただ、ぶっちゃけ合戦シーン多過ぎ(爆)。全編の半分くらいは合戦とゆーかアクションだったよーな。アクションの質そのものはすばらしーので文句はありませんけども、この点ではこの映画完全に男性向きやなと思ったよ。

しかし呉宇森(ジョン・ウー)はホントに男が好きなんだよね(爆)。かっこいい男をひとりひとり情感たっぷりに思いっきりかっこよく撮る。男が好きな男像で表現する美学ってんですかね?ぐりはあんまりそーゆーのに陶酔できない人なんですが、気持ちはわかる。
でも今回のトニーはちょっと痛々しい。『ラスト、コーション』のダイエットの後遺症か妙に老けこんじゃってるし、台詞は全部吹替え。それこそ『〜コーション』でアクセント直したならそれそのまま使えんかったんでしょーか?訛りがあるはずの張震は地声のまま、同じ台湾出身の金城武は吹替えってのもよくわからない。
そして胡軍(フー・ジュン)はやはりすばらしいー。かっこいいー。すてきー。結婚して(爆)。もう彼が画面に映ってるだけで自動的にニヤニヤしまくり。そして心の中では黄色い声で絶叫しまくり。病んでますね。趙雲って役もおいしいし。キャラが既にかっこいいんだよね。台詞が異常に少ないのは残念ですが(出番は多いけど喋らない。アクションばっかり)。ふー様の美声が聞けないなんてー。

物語としては肝心の赤壁がまだ出てこなかったので、後編に期待するしかないですね。来年4月に公開予定だそーです。
冒頭に日本版オリジナルと思しき「三国志入門」的な説明部分がついてたり、字幕にもこまめに役名をいれたりして三国志・中華映画に疎い観客にすごく気を遣ってる感じがしましたです。吹替え版もやってるみたいだけど、どっちが混んでるのかな?ぐりは字幕版を観たけど、初日にしてはそれほどの混み具合ではなかったです。

砂漠のトスカ

2008年11月01日 | movie
『リダクテッド 真実の価値』

2006年3月、イラクの首都バグダッド南方のマハムディヤで、14歳の少女が米軍兵士にレイプされたうえ一家もろとも殺害され放火されるという事件が起きた。
全米に衝撃を与えたこの事件をもとに、事件が起こり得たシチュエーションをフィクションとして再構成した物語。

9.11の報復戦争として「テロリズムとの戦い」という大義名分のもとにずるずると始まったイラク戦争。
世界中の人々はほんとうにイラクで何が行われているのかを知るすべはない。かつての戦場には戦争ジャーナリストがいた。戦場に先回りして命がけで戦争を世界中に発信した人々。だが彼らはもういない。いるのはお上の許可を得て従軍し、政府や軍隊に都合の良いニュースだけを報道するメディアである。
問題の事件で明らかになった米軍の欺瞞の数々。罪もない市民に暴力をふるい、しかもそのほんとうの目的を教えられることのない米兵たち。イラクがどんな国でイラク人がどんな人たちなのか、知ろうともせず教えようともしないアメリカ人たち。
こんなものは戦争でも何でもない。ただの侵略ではないか。

コンセプトはかなり過激だけど、実際観てみると意外にあっさりした映画でした。ちょっと拍子抜け。もっとギトギトに濃ゆいの想像してたんだけど。
登場人物がすごく少ない。事件に関わった小隊の7人の兵士以外に役名のあるキャラクターはいない。映画では、この7人がそれぞれどんな生活をしてどんな任務に就いていたかをドキュメンタリータッチで描いている。前半の映像は軍隊から支給される奨学金で映画学校に行こうとしているサリー(イジー・ディアス)がビデオ日記を撮っている設定で、後半は駐屯地内の監視カメラの映像。なので一部を除いてほとんどのシーンがワンカット、大半では固定カメラで撮影されている。シチュエーションが限定されているせいもあって、雰囲気は映画というより演劇に近い。
上映時間も90分と短い。だから観ていて息が詰まるような題材ではあっても、全体としてはかなりコンパクトにすっきりとまとまった映画になっている。若干まとまりすぎな感じもするけれど、これはこれでいいと思う。個人的には。もっとクドくすることもできただろうけど、この作品はイラク戦争が続いている今、世に問うことが重要なのであって、そのためにはダラダラ頑張ってつくりこむよりも、さくっと作ってぱっと出してしまうことの方が重要だからだ。

この映画ではアメリカが国民についている嘘、隠している事実が細かいエピソードに分けられて描写される。
たとえば前述の奨学金だが、実際に支給されるのは希望者のうちの4割程度。それも任務中に死んでしまう可能性があることを考えれば、奨学金というエサで志願者を募ることがどれほど卑劣なことか。
またアメリカでは軍隊に入ればアメリカ国籍を取得しやすくなるため、移民の入隊者が非常に多い。入隊すれば服役を免除されるため、軽犯罪経験者も少なくない。2006年の事件で逮捕された主犯格の男はのちに人格障害と診断されている。そんな人間に兵器持たせて派兵するって狂ってるやろ。派遣された兵士には現地情報や作戦内容などの正確な情報が与えられないため、彼らと家族にかかる精神的ストレスは異常なものとなり、これが現地での不幸な事故の原因のひとつといわれている。
間もなくアメリカでは大統領選の投票が行われる。当選確実と目されているオバマ候補ははやばやとイラク撤退を示唆している。撤退すりゃあそれですべてがうまく片づくわけではないだろうけど。

ところでこの映画の字幕翻訳者は海兵隊(マリーン)と海軍(ネイビー)の区別がついてないみたいですけどダイジョーブですか。
つかフツーに考えて海軍がなんで市街地で検問なんかやってんだっちゅーハナシで。おいおいおい。

米海兵隊によるイラク民間人殺害事件(AFP)

関連レビュー:
『アメリカばんざい』
『告発のとき』
『華氏911』