落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

バレるバレないの話じゃない

2008年07月08日 | diary
Youka Nitta's 机の前の生活 2008年7月3日 大変申し訳ありません

ふだんあんまり漫画は読まないぐりでも問題の『春を抱いていた』は読んだことがあるくらいだから(個人的には残念ながら好みではない)、新田祐克自身それなりに売れてる作家なんだよね。たぶん。アマゾンで検索かけたらコミックスは78点もヒットするし、CDやDVDもあるし。
広告写真やファッショングラビアを漫画作家やイラストレーターが作品の参考にするなんてのは常套手段だし、ちょっとやそっと似てるくらいはしょうがないと思う。そんなの何十年も前から漫画作家なら誰もがやってたことで、いちいち全部挙げつらってたら漫画家全員真っ黒けってことになっちゃうし、それじゃあ世界に名だたる日本マンガ界を萎縮させちゃうことにもなる。

アートなんて最初はみんな誰かの物真似から始まる。
ぐりだって小さいころは漫画や雑誌のイラストを一生懸命真似て絵を描いた覚えがある。ただ似てるだけじゃつまらないから、真似たうえで自分流のアレンジを加えて“自分の絵”として仕上げたりした。手が慣れてくるとお手本が要らなくなり、そうして描けたオリジナルの絵を新聞や雑誌の投書欄に投稿してハンカチとかペンとかささやかな粗品をもらったのもいい思い出です。専門的に絵の勉強を初めてからは、ドラクロワやベラスケス、アングルの絵を何点も模写したものだ。
音楽だって、どの演奏家も初めは既存の音楽の物真似から入る。ピアノを習い始めれば先人のつくった練習曲から演奏を教わるし、バンドだってみんな最初はプロミュージシャンのコピーからスタートするはずだ。やがて音楽家として成熟してくれば真似しなくてもよくなり、オリジナルのスタイルが生み出されていく。

だからといって絵描きとして成熟していればトレスなんかしなくてもいい、なんてのは暴論だろう。
漫画は1本の作品に膨大な量のカットを描く必要があり、それを全部100%想像で描いた絵で埋めるのには相当なエネルギーが要求される。作業に与えられる時間だって限られる。絵柄にもよるだろうけど、写実性を求められる作風ならいくらか参考資料もないと描ききれない。『動物のお医者さん』の佐々木倫子なんかはアシスタントなどをモデルに実際にポーズをとってもらって人物を描いたり、自ら現地取材して撮った写真で背景を描いたり、資料にした画像の出典や取材元を記載したりしている。『秘密』の清水玲子も参考資料を欄外か巻末に挙げている。著作権問題がやたらかしましくなるより前から、彼女たちは当り前にそうしていた。
けど新田氏はそういう最低限のルールを守らなかった。ぬかっていたとしかいいようがないし、作家だけじゃなく編集者の方の意識も疑われてしまう。

読者だって鬼じゃない。真似するなとはいわないし、いえない。だって漫画だもん。アートじゃないもん。
でもね、検索したら元ネタとトレスしたイラストを並べて検証したサイトもヒットするんだけどね・・・新田さん、ちょっとそりゃないですよ。コレはムリだわ。似てるどころの騒ぎじゃないもん。モデルのポーズから衣裳から小道具から背景までそっくり同じなんだもん。違うの顔だけ。それも1枚2枚じゃなくて出るわ出るわ、もしかして毎月毎月トレスしてたんかいってくらいゾロゾロ出てくる。権利うんぬん以前に、作家としてのプライドが問われてもしょうがないよ。
気の毒なのは彼女の仕事を支えて来たアシスタントやファンの方だよね。いい迷惑でしょ。
オリジナリティにも限界があることくらいぐりだってわかる。人間の頭脳は無限じゃない。才能だって枯れるときもある。それを認めたって作家としてのステイタスに傷はつかないと思う。黙って他人の作品を盗むよりは、まだその方が勇気や誠実さで評価されてもいいんじゃないかなあ。


待ち犬。スーパーにて。