落穂日記

映画や本などの感想を主に書いてます。人権問題、ボランティア活動などについてもたまに。

踊るおまわりさん

2008年07月05日 | movie
『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』

あまりにも優秀過ぎて上司の嫉妬を買い、ド田舎に左遷された巡査ニコラス(サイモン・ペッグ)。
だが一見のどかそうに見えるサンドフォード村にも彼の目からみれば怪しい住人がてんこもり。新しく仕事仲間になった署員たちはまったくやる気がなく、マジメに仕事しようとするニコラスはバカにされてばかりなのだが・・・。

映画評論家の町山智浩氏があまりに熱くプッシュするもんだから、つい観ちゃいましたよ。初日に。
おもろかったー。わろたー。力いっぱい。ははははははははは。もーーー、全編ギャグ満載ですよ。3分置きに劇場大爆笑の連続よ。マジでマジで。
けどこれ、ただのコメディじゃなくて、刑事モノ、警察モノのパロディでもあるんだよね。だからたぶん、そういうアクション映画が好きでいっぱい観てる人であればもっとおもしろいと思う。元ネタがちゃんとわかるから。ぐりは残念ながらあんましそーゆーの観てないからわからないところが多かった。『男たちの挽歌』とか『ポリスストーリー』シリーズのパロディはさすがにわかったけどね。まあわからなくても笑えるけど。だってああいう警察モノのアクションて現実にはありえないくらいアクロバティックじゃん。ありえないからこそ映画の刑事たちはヒーローなんだよね。

まあとにかく、老若男女誰が観ても心から楽しめる娯楽映画ではあります。オススメよ。
ぐりとしては、舞台になったサンドフォード村の欺瞞─「完璧に平和な村」であり続けるためにジャマなものはしらみつぶしに消してなかったことにしてしまう─が、今の世の中のいろんな欺瞞を象徴してるように見えるとこがちょっと怖かったです。こーゆーのはあんまり笑い事じゃない気がするなあ。
しかしケイト・ブランシェットとピーター・ジャクソンはどこに出てたんやろ?全然気づかんかったわ。

日本の熱い夏

2008年07月05日 | movie
『クライマーズ・ハイ』

1985年8月12日夕方、羽田発伊丹行きの日航機123便が乗客乗員524名とともに行方不明になった。
翌朝、バラバラになった機体が群馬県の山中で発見され、以後日本のマスコミはこの未曾有の大惨事一色に染まっていく。
地元群馬の新聞社を舞台に、世界の航空史上最悪ともいわれる大事故に翻弄される報道マンの奮闘と葛藤を描く。

ぐりは事故当時中学生。速報が流れたの時間帯がいわゆるゴールデンタイムでほぼリアルタイムで報道を観ていたことと、夏休み中でいつでもTVが観られたこともあって、この事故のことはよく覚えている。4人の生存者のひとりが同世代の少女だったせいもあったかもしれない。
ちなみに1985年という年は電電公社と日本専売公社が民営化され、男女雇用均等法が改正になり、豊田商事事件があり、松田聖子と神田正輝が結婚、「ニュースステーション」や「夕やけニャンニャン」の放送が始まり、米ソ首脳会談が初めて行われ冷戦終結に向けて世界が動き出した年である。思春期だったぐりの記憶の中でも、世の中全体がなんだか妙に明るくてみんな浮かれてた、そういう時代だったような気がする。
誰も彼もがイケイケドンドンだったあの年、夏まっさかりのお盆休みの最初の日、日本中に冷水を浴びせかけたのが日本航空123便墜落事故だった。

だがこの映画の物語はあくまで地元紙という一報道機関の中だけで進行する。だから事故は重要なファクターではあるが、主軸はあくまでも、新聞社内部の人間関係と、登場人物たちの報道人としての迷いや苦しみである。熱い熱い男たちの意地と意地のぶつかりあい。
その内面描写はとてもよく再現されている。人間は非常によく描けていると思う。あれだけの異常事態でも、人物たちに感情移入するのにほとんど違和感はない。そこはいいと思う。
でもねー。観終わってみたら意外になんにも残らないのね。結局やりたいこと全部やって全部盛りきっちゃって、トータルすると何がいいたかったのかハッキリしない。劇中で主人公(堤真一)が対立する同僚(皆川猿時)に「(編集の仕事は)マスターベーションだ」と揶揄される場面があるのだが、言葉は悪いがこの映画もかなりそれに似たような作品になってしまっているような気がした。
報道マンとしてのプライドと新聞社員としての立場、人間としての倫理を秤にかけた主人公の出した結論が、ぐりにはどうしてもそう見えてしまった。結局自分に酔ってるだけなんじゃん、みたいな。

あの独特の時代背景や前近代的に封建的な社風、複雑な業界事情などはすごくリアルに表現されてたと思うし、つくり手の頑張りはよく伝わるだけにもったいなかった。
せめて現代のパートを削るなりして、もっと視点を絞ればどうにかなったかもしれない。あのパート、マジでいらんかったと思うもん。他にも社長(山崎努)と主人公の屈折した関係、主人公の複雑な生い立ちや破綻した家庭環境、元社長秘書(野波麻帆)と主人公の過去、販売部員(高嶋政宏)との友情など、本来物語に強くフックしてくるはずの要素がパラパラと登場しては全部中途半端にほったらかしのまま終わってしまうのがものすごく消化不良に感じた。
あとねー、画面が古くさいのはいいとして、音響設計までありえないくらいボロいのはこはいかに。台詞が聞きとりにくすぎる。ただでさえ業界用語が多くてわかりにくい言葉遣いなのに、もっと台詞をクリアに聞こえやすくつくるくらいの親切心だってあってもよかろーに。
全体に美術や衣裳は頑張ってたけど、山崎努がペットボトルでミネラルウォーター飲んでたのにはズルッとなってしまった。1985年てまだペットボトルのミネラルウォーターって一般にはあんまり流通してなかったんじゃないかなあ?
出演者はみなさん非常に頑張ってていい演技してたと思います。ぐり的にはいちばんよかったのはやっぱし堺雅人。この人の演技って観てて安心するね。うまいもん。自然だもん。『アフタースクール』もよかったけど、『ジャージの二人』も観るべきかしらん。

関連レビュー:『墜落遺体─御巣鷹山の日航機123便』 飯塚訓著