ちかごろ、庭作りが楽しい。造っているのは、テーブル上の箱庭ではない。またベランダのプランターなどではない。ちゃんとした庭である。といっても坪庭である。
今年のはじめ、東山三条近くの居酒屋「ふくしま」の坪庭を作らせていただいた。昨年末、友人に連れられはじめて行った。庶民的で味もおいしく、気にいった店である。店の方は、いつもだいたいふたり。女将さんと娘さんか、ラーメン屋さんの店長の応援である。
ふくしまのトイレは奥にある。三坪ほどの坪庭の飛石を渡る。燈籠も蹲(つくばい)もあり、手水鉢には水までポトポト垂れている。配置デザインは、作庭教科書通りのようだ。石造物のバランスは完璧に近いと思う。
ところがこの庭には、一本の木もない。正確にはただ一本の枯れかけた南天があるだけ。下草もほとんど枯れる寸前だった。しかしこの庭は枯山水の作りではない。豊かな植栽を前提に作られた庭である。
女将に理由を聞いてみた。「庭全体を覆う天井のために、雨も夜露も当たらない。それと昼間も南隣の家にさえぎられて陽も差さない…」。植物には何とも悲惨な環境の庭である。
しかし草木は、陽光を好むものばかりではない。半日陰の条件をすくものもいる。それら十数種類を選び、正月三日の休日から作業を開始した。休みのたびに、また仕事を終えてからの夜間、延べ十日かかりほどで一応の完成をみた。
この庭は好評である。関東から来た観光客は、「いかにも京都らしい庭ですね」。だいたい、そういわれるらしい。理由は「関東の庭は店の前、玄関あたりにありますが、京都らしい庭は店のいちばん奥にあるのですね」。これでは誉め言葉になっていない。
興味あるかたは一度、ご覧になっていただきたい。「ふくしま」は、三条通東大路東入ル一筋目下ル。古川町商店街を入ってすぐ。日曜休日。
ところでこの庭を気に入った祇園のママさんから、作庭の依頼が来た。先日来、この庭と格闘している。前と違って太陽燦々。また何本もの樹木が繁っている。ただバランスがとれておらず、また格好の悪い大きな岩石が三個、大地を占領している。さてどうするか。かなり考えた。そして最近の休日は毎日、庭との闘いである。店玄関先の三坪の庭だが、店の開店は今月二十四日。もう残り少ない。さあ、これから出向かわねば。
なお当然だが、ギャラは一円もいただいていない。これがわたしの「作庭記」。
本来の『作庭記』は平安時代、千年ほども前に書かれた、世界最古の庭作りの教科書である。いまでも作庭家はこの本を重んじている。原本は重要文化財だが、コロタイプ印刷の精巧な複製本をみることができる。京都府立総合資料館が所蔵しておられる。二巻の巻物だが、長さは延々30メートルをこえる。長いテーブルの上をころがしてみるのだが、素晴らしい教科書である。
さてどのような庭ができあがるか。一応の完成のあかつきには、続編で紹介しよう。場所は、祇園新橋通東大路西入ル。
<2009年4月12日>
今年のはじめ、東山三条近くの居酒屋「ふくしま」の坪庭を作らせていただいた。昨年末、友人に連れられはじめて行った。庶民的で味もおいしく、気にいった店である。店の方は、いつもだいたいふたり。女将さんと娘さんか、ラーメン屋さんの店長の応援である。
ふくしまのトイレは奥にある。三坪ほどの坪庭の飛石を渡る。燈籠も蹲(つくばい)もあり、手水鉢には水までポトポト垂れている。配置デザインは、作庭教科書通りのようだ。石造物のバランスは完璧に近いと思う。
ところがこの庭には、一本の木もない。正確にはただ一本の枯れかけた南天があるだけ。下草もほとんど枯れる寸前だった。しかしこの庭は枯山水の作りではない。豊かな植栽を前提に作られた庭である。
女将に理由を聞いてみた。「庭全体を覆う天井のために、雨も夜露も当たらない。それと昼間も南隣の家にさえぎられて陽も差さない…」。植物には何とも悲惨な環境の庭である。
しかし草木は、陽光を好むものばかりではない。半日陰の条件をすくものもいる。それら十数種類を選び、正月三日の休日から作業を開始した。休みのたびに、また仕事を終えてからの夜間、延べ十日かかりほどで一応の完成をみた。
この庭は好評である。関東から来た観光客は、「いかにも京都らしい庭ですね」。だいたい、そういわれるらしい。理由は「関東の庭は店の前、玄関あたりにありますが、京都らしい庭は店のいちばん奥にあるのですね」。これでは誉め言葉になっていない。
興味あるかたは一度、ご覧になっていただきたい。「ふくしま」は、三条通東大路東入ル一筋目下ル。古川町商店街を入ってすぐ。日曜休日。
ところでこの庭を気に入った祇園のママさんから、作庭の依頼が来た。先日来、この庭と格闘している。前と違って太陽燦々。また何本もの樹木が繁っている。ただバランスがとれておらず、また格好の悪い大きな岩石が三個、大地を占領している。さてどうするか。かなり考えた。そして最近の休日は毎日、庭との闘いである。店玄関先の三坪の庭だが、店の開店は今月二十四日。もう残り少ない。さあ、これから出向かわねば。
なお当然だが、ギャラは一円もいただいていない。これがわたしの「作庭記」。
本来の『作庭記』は平安時代、千年ほども前に書かれた、世界最古の庭作りの教科書である。いまでも作庭家はこの本を重んじている。原本は重要文化財だが、コロタイプ印刷の精巧な複製本をみることができる。京都府立総合資料館が所蔵しておられる。二巻の巻物だが、長さは延々30メートルをこえる。長いテーブルの上をころがしてみるのだが、素晴らしい教科書である。
さてどのような庭ができあがるか。一応の完成のあかつきには、続編で紹介しよう。場所は、祇園新橋通東大路西入ル。
<2009年4月12日>
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