ふろむ播州山麓

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貸本という文化インフラ (3) 団塊世代の読書

2013-12-15 | Weblog
 電子雑誌「Lapiz」ラピス12月号が発売になりました。知名度はまだ低いようですが、内容はかなりのハイレベルだと思います。MAGASTOREマガストアの扱いで300円。今号では図書館特集も読み応えがありそうです。「椋鳩十と島尾敏夫」、「武雄市図書館」、「貸本という文化インフラ」。
 実は「貸本という文化インフラ」をわたしが執筆担当しました。編集長の了解を得て、連続5回にわたって転載します。今回は3回目。これを機会にぜひ季刊e誌「Lapiz」をご購読ください。



 幕末と明治10年代の貸本屋事情をみて来ましたが、上村松園が画家として誕生したのは貸本屋のお陰のようです。次は時代を一気に下って昭和の戦後期はどうだったのか? やはり同様に、貸本屋は隆盛でした。ただし期間は短く十余年でしょうか。
 筆者は戦後間もない生まれ、団塊世代の一員です。といっても昭和25年(1950)出生ですので、新生人口のピークは過ぎかけていました。少年時の貸本漫画屋事情を知っているべき世代なのですが、残念ながら地方の田園地帯の出身です。紙芝居のおじさんは自転車でやって来ましたが、田舎なので近くに新本屋も貸本屋もありませんでした。また小学校に図書室もなければ、まともな公共図書館も存在しません。
 戦後、日本国民は押し並べて貧乏でした。生活に余裕が出るのは、高度経済成長のはじまる昭和30年代後半からです。言論出版の自由から、戦後は新思想の本がたくさん発売されましたが、食うのが精いっぱいの一般庶民はむやみやたらに書籍や雑誌を買うこともままなりません。そこで都市部で普及したのが安価で本を貸し出す貸本屋です。小中学生や集団就職で都会に出た若者たちも、彼らは金の卵とよばれましたが、みな貸本屋を愛用した。

 昭和33年と翌34年は、西岸良平原作の映画「ALWAYS 三丁目の夕日」が設定した年です。33年末に東京タワーが完成し、34年3月17日にはふたつの週刊マンガ雑誌が発売になりました。「週刊少年サンデー」と「週刊少年マガジン」の同日発売です。手塚治虫「スリル博士」、横山隆一「宇宙少年トンダ―」、石森章太郎「怪傑ハリマオ」、寺田ヒロオ「スポーツマン金太郎」、藤子不二雄「海の王子」、ちばてつや「リカのひとみ」などの連載が同時にはじまりました。
 少年たちには垂涎のマンガ雑誌ですが、どちらも高額でした。ともに定価30円! 毎号買えば月に百数十円も小遣いが消えてしまいます。わたしは確か当時の小遣いが一日五円、月合計百五十円ほどだったと思います。小学低学年の子どもはどちらか片方の雑誌を毎号買えば、もう駄菓子屋に行くこともできないのです。
 そこで貸本がはじまりました。といっても無料です。中学生など上級生が買って読み終えた雑誌のお下がりが廻って来るのです。しかし貴重な一冊が年功序列順に移動して行きます。幼い少年にはかなり遅れて、あるいは行方不明で届かなかったりしました。毎号続けて読まないと面白みは失せてしまいます。幸か不幸か、わたしはマンガ読書が習慣にならず、もっぱら活字人間になってしまいました。原因はお下がりの無料貸本マンガ雑誌が、希望通りに読めなかったためでしょうか。
<2013年12月15日>
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