ふろむ播州山麓

京都山麓から、ブログ名を播州山麓に変更しました。本文はほとんど更新もせず、タイトルだけをたびたび変えていますが……

農林漁畜産

2013-03-11 | Weblog
 この土曜と日曜、ふる里で農林作業をやってきました。二日間は天気予報通り、暖かな日よりで日曜の昼過ぎからは大粒の雨。雨降りの直前に当面の作業をほぼ完了し、ほっとため息をつきました。天気予報はほんとうにありがたい。
 やり終えた作業は、荒れた2枚の休耕田を果樹園にすること。合計14本の幼木を植えることができました。その内の2本は例外で、実はなりませんが花を愛でるために山桜と染井吉野を1本ずつ植えました。これは同園目印の看板娘です。
 田は長年放置していた荒野ですが、鍬を入れてみると土は実に黒い。豊かな土壌には驚かされました。腐葉土とピートモスを黒土に混ぜましたが、高価大量の有代土は必要なかったのかなあ、そんな気もしました。しかし数十センチ掘りこむと、黒土の下は灰色の粘土質です。稲作で張った水が抜けないのはこの粘土質のせいなのです。先人たちが何百年、あるいは二千年ほどの間、延々と育てて来た土壌かと思うと、弥生時代からの祖先たちの営為に頭が下がります。わたしの頭は稲穂ほどには実っていないのですが、それでも頭は上がりません。
 この地の名は『播磨国風土記』に由来が記されています。村落の地中を掘れば、縄文時代の貝塚が出ます。かつては海岸に近い地で、延々数千年の間、漁業や植物栽培に先人たちが励んだ土地です。また高台には古墳も多い。現在の海岸線は3キロほども後退していますが、古文書では戦国期まで一帯は、石清水八幡宮の領地でした。そして同じ地のささやかな一角が、いま果樹園にかわろうとしています。

 ほとんど植え終えたころ、近所に住んでおられる老婦人が細い畔道を歩いて来られた。わたしが小中学校の同級生だった友人の母上です。数年ぶりにお会いしました。通り一遍の挨拶をしましたらこういわれた。「健康には田仕事がいちばん。しかし根腐れしますよ。黒土の下に水がたまりますから。もっと土を盛って高く植えないと、田の底土は木には向きません」
 これにはにわか百姓はギャフンです。さすがに亀の甲より年の功。次回の作業では、排水を考え、水抜き用に粘土層よりも深い穴と溝を掘りぬくことにしました。作業は延々と続きます。
 それと樹間には何か下草のようなものを育てたい。ホームセンターの種子売り場でにらめっこし、青シソと赤シソとカボチャの種を購入しました。今月末の予定ですが、深穴掘り、溝つくりと同時に、紫蘇と南瓜の種をまきます。宿題は絶えませんよ。別の休耕田はコスモス畑にしよう、また初冬には果樹園にクローバーの種をまこう……。計画だけは延々と浮かびます。考えるだけで楽しいのです。

 ところでTPPですが、JAなどは開国に対して強硬な姿勢を貫いておられる。開国賛成者の意見として「日本の農産物は世界一安全で高品質産品です。コメなど中国の富裕層は高額でも買ってくれる。農業開国は大きなチャンスです」
 わたしが試行錯誤している小さな果樹園も、タケノコ園の竹林も、有機肥料だけで育てる人間にやさしい農場になります。人体に有害な農薬も一切使いません。
 しかし日本の農林漁業と畜産品はほんとに高額でも、海外で望まれているのでしょうか? 大問題が起きています。ちょうど2年前の福島第1原発の事故が原因です。世界の44カ国・地域が、放射線物質汚染を危惧して、輸入禁止や大幅な制限をいまも続けています。3月9日、共同通信が報じました。

 中国では下記都県のすべての食品の輸入を禁止しています。宮城・福島・群馬・埼玉・東京・新潟・長野。汚染国の代表のような中国が、長野や埼玉、新潟までを対象地にしています。
 台湾では福島・茨城・栃木・群馬・千葉県。すべての食品が輸入禁止です。
 韓国では福島・茨城・栃木・千葉の農産物。水産物は宮城・福島・茨城。
 同様に世界44カ国が輸入を禁止し、あるいは検査証明書の提示を求めるという規制を、ずっと続けています。東日本の農産漁業品は、決して安全とは認められていないのです。TPP開国に踏み切っても、本州のほぼ3分の1ほどの面積の農畜産品などは、輸出もままなりません。
 シンガポールの担当者は「放射線物質が減少するには長い年月がかかる。だからたくさんの国が同様に日本からの輸入を規制している」

 日本も30年近く、いまも欧州地域からの食品輸入を制限しています。1986年のチェルノブイリ原発事故以来です。キノコやトナカイの肉とかだそうですが、きびしい食品検査をパスしないと日本国内に持ち込むことはできません。
 昨年の夏のことでしたが、フィンランドのネイティブご夫妻が京都に来られました。手土産はトナカイの肉とか地元の食材でした。ホームパーティにわたしも行って来ましたが、サンタの相棒の肉は実においしかった。

 昨日のこと。妻がわたしにこういいました。「はじめて行ったスーパーですが、肉がめちゃ安かった。産地をみると○○県……。迷ったけど買いませんでした」。わたしは返答に窮した。現地の生産者の困窮を考えると買うべきだ、と明言できませんでした。
 ところが翌日、3月11日の今朝、起きがけに彼女はこういいました。「昨晩はあんなことをいったけど、やっぱり肉も魚も農作物も買うことにします。食べたところでわたしたちはもう結構な歳だし、健康の心配もいらないでしょう。現地の生産者の苦労を思うと、買わないといけませんよね」
 彼女はあの一言を一晩考え、悩んだようです。育ち盛りの子どもがおれば、母として避けるかもしれません。しかしこの歳では心配はもう杞憂でしょう。農なり水産畜産業者の喜びは、たくさんの方が食してくれてからこそです。農作業に従事する端くれのひとりとして、そのように実感します。

 近ごろ読み出した本。福岡正信著『自然農法 わら一本の革命』。1983年に春秋社から刊行されましたが、農、土壌、植物、微生物と昆虫、実に不可解な自然をいくらかでも理解する手立てになる名著です。
<2013年3月11日 もう2年がたちましたね>
コメント (6)
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