ふろむ播州山麓

旧住居の京都山麓から、新居の播州山麓に、ブログ名を変更しました。タイトルだけはたびたび変化しています……

天国と地獄

2012-05-03 | Weblog
 親友の前川さん、もう10年余り前に亡くなりました。元気だったころ、彼がよく話してくれたテーマがあります。極楽と地獄です。
 「死んでしもうたら誰も帰って来まへんなあ。なんでやと思う?」
 わたしはまだ向こうに行ったことがない。あるいは行ったときの記憶がありません。「分かりませんねえ」
 彼の返事は「極楽に行った連中は住み心地がよくて、もう帰りたいとは思わへん。地獄に行くと終身刑の刑務所なんで、いくら帰りたいいうても出してもらえへん。そやから誰も帰ってこんのや」
 本当でしょうか。彼はこうも語りました。「向こうで極楽へ行こうが、地獄に缶詰されても、ちょっと抜け出してあっちの様子を知らせに来るから楽しみにしててな」
 しかし死後10年たっても、いまだに手紙もメールも声も姿もありません。あまりに住み心地がよいので忘れてしまったのでしょうか。

 ザ・フォーク・クルセダーズの名曲に「帰ってきたヨッパライ」があります。レコードは1967年に出ましたが、はじめて聞いたときには腹を抱えて笑ったものです。
「♪天国よいとこ一度はおいで 酒はうまいし ねえちゃんはきれいだ ウッハ―ウッハーウハッハ」。天国人にはアル中やメタボやセクハラが多いと、どこかで聞いたことがあるのですが本当かもしれません。病院やトラブルの多い極楽とは、感心できませんね。神も仏もありません。
 
 絵本『じごくのそうべえ』は全世界的な大傑作です。1978年初版ですが今年のはじめに何と123刷り。当然ミリオンセラーですが、著者の田島征彦さんは「この本の印税のおかげで家族全員が無事に、これまで暮らすことができました」といっておられた。この世で地獄が極楽に進化した最たる例かもしれません。
 ストーリーをご存じの方も多いと思いますが、軽業師そうべえと同期3人の死者たちは、閻魔大王の気まぐれのために地獄に落とされる。しかし彼らは協力しあってエンマさんや鬼さんたちをギャフンといわせる。降参した地獄の主は無敵の4人組を現世に追放する。帰ってきたヨッパライ同様にみなが生き返るわけです。

 20年ほども前のことですが、わが家の3人息子たちが幼稚園から小学生のころでした。絵本『じごくのそうべえ』をプレゼントしたところ座右の書になってしまいました。そして10歳にもならぬ子どもたちがいいました。
 「死んでもこわくない。地獄に一度行ってみたいな」
 田島さんにお会いしたときにお礼をいったことがあります。「おかげさんでわが家の息子3兄弟が悟りの境地に達しました。この本は子どもの死生観を一変させるたいへんな名作ですね。宗教の『そうべえ教』を立ち上げて世界中の人々を不幸から救いませんか?」
 田島さんは笑っておられましたが、それにしても新境地に子どもたちが達しても、その父親は救いようがありませんね。

 なお続編の『そうべえ ごくらくへゆく』、これも傑作です。いずれも童心社発行。極楽で騒いでいる「そうべえ」たちは阿弥陀さんに説教されます。「極楽へ来たら、静かにせんならん。花の上で座ってなされ。極楽の掟に従がわんけりゃあかん。極楽にはいろいろ規則がある。規則をちゃんと守ってもらわんならんのじゃ」。ご一読ください。
<2012年5月3日>
コメント