ふろむ播州山麓

旧住居の京都山麓から、新居の播州山麓に、ブログ名を変更しました。タイトルだけはたびたび変化しています……

電子書籍元年2010 №15 「本が売れない!」

2010-09-20 | Weblog
 東京から出張で来られた出版社の方が、開口一番「本がさっぱり売れません!!」。彼の社は専門書、それも高額な多巻冊本が多い。そのような本だから、低調なのは仕方ないかとも思った。しかし「どこの出版社の連中に聞いても、みな同じように嘆き、悲鳴をあげています」。一般書版元も苦しいが、図書館や大学の購入に頼る出版社は、危機的状況を迎えているという。それらの本の印刷部数はたいていが、わずか数百部である。それが売れない。近ごろ出版業界には、悲壮さを感じることが多くなってしまった。

 「週刊ダイヤモンド」9月18日号が、私立大学特集を組んでいます。「壊れる大学・大学財務状況一挙公開」。全国私大が実名で、危機度順にランキング掲載されている。この特集に載った私大各校の教職員に、衝撃が走りました。壊れかけている学校、倒産解散寸前、身売りしそうな大学…。そのような評価特集号です。
 在籍学生や親や卒業生、学校近隣の住民や行政や交通機関、正門前のコンビニや学生マンション経営者などにも、閉校や移転してしまうかどうかは大問題です。
 私立大学の多くが定員割れ状態にあり、財務内容が急激に悪化しています。まだまだ続く18歳人口の減少。苦しい大学は教職員を減らし、無駄な出費(図書館や教員の書籍購入費など)を削減してしまいました。役にもたたぬ本など、これまでのように潤沢に買っていられない、そのような大学が増えています。
 この傾向は、私大だけではありません。国公立大も予算が減り、また来年度からは一段の引き締めがはじまりそうです。官立では人件費を減らさずとも、無駄で不用不急の図書購入など、適当でいいとされる。大学の文化や学術、教育そして研究はどうなってしまうのでしょうか。

 公共図書館は1970年ころ、全国にわずか800館しかなく、あまりの少なさに「ウソ800!」と揶揄されたものです。しかしその後、新設ラッシュの時代を迎え、1990年代に2000館をこえ、2006年に3000館を達成。しかし増加傾向もこのあたりまでで、3100余館でほぼ止まってしまいました。
 町村合併も図書館に逆風でした。これまで村町に図書館がなく不便な地域があった。またわが町や村の文化度の低さに、恥ずかしい思いをしてきた住民が、合併によって「わが町には図書館がある!」。突然、図書館が誕生?してしまったのです。笑えない笑話です。
 新設が珍しくなり、公共図書館数が3100館そこそこで止まってしまったのは残念です。しかし問題はむしろ、各館の予算が減らされていることです。出版各社は図書館需要にも頼っていました。全館が1冊ずつ購入すれば、3000冊以上が見込める。3分の1でも1000冊である。
 また指定管理者制度の導入が最たる例ですが、図書館はコスト削減にばかり眼が向いているようです。これまで順調に伸びてきた利用者増、もったいないほどの高度なサービス、貸し出し冊数の増加、どれもが頭打ちあるいは減少してしまいそうです。
 たいていの図書館は学校も公共も、予算の不足で本が十分には買えないのです。出版不況の原因は、ここにもあります。ほとんどの自治体にとって、図書館サービスなど大きな課題ではないのが現状です。

 神戸に「みずのわ出版」があります。柳原一徳さんが実質ひとりで営む、良書発行で定評のある、こだわりの出版社です。柳原さんが8月に送ってこられた文を紹介します。
 「元々大して売れなかった(それでも、そこそこ売れてきたはずの)本がますます、否、劇的に売れなくなった。商業出版として成り立たなくなってきた。これは事実です。いつまでもつか、わかりません。町の本屋同様、地方・零細の版元もまた絶滅危惧種です。」

 ところで、電子出版はなぜ騒がれるのでしょうか? ひとつには、苦境にある東京の大手出版社が、「もしかしたらアイパッドやキンドルが、われわれ出版社の救世主になるかもしれない」。ワラをもつかむ気持ちで神仏相当のPDA携帯情報端末にすがる、そのような姿にもみえます。「生き残るためには何でもやる」、危機感が出版業界を覆っています。

 みずのわ出版が危機を突破し、安定と発展を取り戻されることを祈ります。見守り応援します。ほかの同様の出版社にも、書店にもエールを送ります。打開策を考え抜きましょう。おそらく、進化するよりほかに道はない。環境の激変に対応できなかった恐竜は、滅び去りました。しかし、わたしたちの祖先であるネズミがごとき哺乳類は、生き残ったのです。そしてわたしたちは、いまここにある。
<2010年9月20日>
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