昔なつかしい伝言板をみつけました。阪急電車河原町駅、改札のすぐ横にあります。たいていの駅にはかつて、あったものですが、携帯電話の普及とともに役目を終え、駅の板はひとつ、またひとつと消えていきました。10年ほど前のことでしょうか。
ところが京都いちばんの繁華街、四条河原町の駅にはいまも健在なのです。さすがに白チョークは置いていませんが、新品同様なほどにきれいな板です。きっと撤去せずに、あえて残されているのでしょう。乗降客に目立つ位置で、手入れもよくホコリも積んでいません。いつまでも残してほしい、駅の文化遺産のひとつです。
孫娘とおばあちゃんの対話を紹介します。
「おばあちゃん、あの変な黒板は何なの?」と孫娘。
確かに濃緑一色でなく、縦に線が何本も引かれています。
祖母は「あの黒板は、デンゴンバン。ここで逢う約束をしていた友達や家族などに、予定が急に変更になって会えないとき、黒板に伝言を書いて、祈る思いで立ち去るの。必ず見てください!と」
「へぇー、ケータイがない時代は不便やなあ」と孫娘。
「おばあちゃんが、おじいちゃんと結婚したのは、実は伝言板のお陰なのよ」と祖母。
「へぇ~、伝言板が仲人さんなの?」と孫娘は驚く。
「そうなの。あなたのお母さんが産まれる三年前、おじいちゃんとわたしが、はじめてデートする日のこと。この駅の改札前でいくら待っても、おじいちゃんが来ないの。自宅に電話してもだれも出ないし…」。祖母は昨日のことのように語った。
「おじいちゃんは、デートの時間を間違えていたのかしら?」と聞く孫。
「そうだったら、おばあちゃんは『はい、さいなら』。悲しくなって帰ってしまったでしょうね。そしたら、あなたは産まれていなかったかも。ところで気がつくのが遅かったけど、伝言板が後ろにあったの。見ると『交通事故にあって、病院に運ばれました。○○病院です』。おじいちゃんのお母さん、あなたのひいおばあちゃんの字だったの」
「すごい! テレビドラマみたい!」と孫娘は眼を○くした。
「わたしもびっくりして病院に走りました。すると、あなたのおじいちゃんは意識不明」
入院した彼氏の母親(曾祖母)は「病院に運ばれる途中、あなたとのデートの約束のことを、もうろうとしながら、何度も何度も繰り返すの。『12時、河原町、駅の伝言板に、お願い』。それでわたしは、意識不明になった息子を病院に預けて、河原町駅の伝言板に向かってタクシーで飛ばしました。着いたのは確か11時ころです。書き込んで「○子さん、必ず読んでね」と祈ったわ。そして大急ぎで病院に戻ったわけ」
おばあちゃんは孫に話す。「それから毎日、わたしは病室に通ったの。意識が戻ったのは一週間も後。その時、おじいちゃんの手を握り締めて、ふたりして泣いたわ」と語るおばあちゃんの眼には、涙が光った。
孫娘は伝言板を掌でなで「おおおばあちゃん、デンゴンバンさん、ありがとう」と礼をいった。
この挿話はまったくの創作フィクションですが、携帯電話普及の夜明けのころ、ほんの10年ほどの昔です。ケータイはどのような感動を、いま生んでいるのでしょう。ところで今日はなぜかセンチ。㎝ではありませんよ。
<2010年9月12日>
ところが京都いちばんの繁華街、四条河原町の駅にはいまも健在なのです。さすがに白チョークは置いていませんが、新品同様なほどにきれいな板です。きっと撤去せずに、あえて残されているのでしょう。乗降客に目立つ位置で、手入れもよくホコリも積んでいません。いつまでも残してほしい、駅の文化遺産のひとつです。
孫娘とおばあちゃんの対話を紹介します。
「おばあちゃん、あの変な黒板は何なの?」と孫娘。
確かに濃緑一色でなく、縦に線が何本も引かれています。
祖母は「あの黒板は、デンゴンバン。ここで逢う約束をしていた友達や家族などに、予定が急に変更になって会えないとき、黒板に伝言を書いて、祈る思いで立ち去るの。必ず見てください!と」
「へぇー、ケータイがない時代は不便やなあ」と孫娘。
「おばあちゃんが、おじいちゃんと結婚したのは、実は伝言板のお陰なのよ」と祖母。
「へぇ~、伝言板が仲人さんなの?」と孫娘は驚く。
「そうなの。あなたのお母さんが産まれる三年前、おじいちゃんとわたしが、はじめてデートする日のこと。この駅の改札前でいくら待っても、おじいちゃんが来ないの。自宅に電話してもだれも出ないし…」。祖母は昨日のことのように語った。
「おじいちゃんは、デートの時間を間違えていたのかしら?」と聞く孫。
「そうだったら、おばあちゃんは『はい、さいなら』。悲しくなって帰ってしまったでしょうね。そしたら、あなたは産まれていなかったかも。ところで気がつくのが遅かったけど、伝言板が後ろにあったの。見ると『交通事故にあって、病院に運ばれました。○○病院です』。おじいちゃんのお母さん、あなたのひいおばあちゃんの字だったの」
「すごい! テレビドラマみたい!」と孫娘は眼を○くした。
「わたしもびっくりして病院に走りました。すると、あなたのおじいちゃんは意識不明」
入院した彼氏の母親(曾祖母)は「病院に運ばれる途中、あなたとのデートの約束のことを、もうろうとしながら、何度も何度も繰り返すの。『12時、河原町、駅の伝言板に、お願い』。それでわたしは、意識不明になった息子を病院に預けて、河原町駅の伝言板に向かってタクシーで飛ばしました。着いたのは確か11時ころです。書き込んで「○子さん、必ず読んでね」と祈ったわ。そして大急ぎで病院に戻ったわけ」
おばあちゃんは孫に話す。「それから毎日、わたしは病室に通ったの。意識が戻ったのは一週間も後。その時、おじいちゃんの手を握り締めて、ふたりして泣いたわ」と語るおばあちゃんの眼には、涙が光った。
孫娘は伝言板を掌でなで「おおおばあちゃん、デンゴンバンさん、ありがとう」と礼をいった。
この挿話はまったくの創作フィクションですが、携帯電話普及の夜明けのころ、ほんの10年ほどの昔です。ケータイはどのような感動を、いま生んでいるのでしょう。ところで今日はなぜかセンチ。㎝ではありませんよ。
<2010年9月12日>