いつのことだったか、ずいぶん前の話です。京都御苑を北から南に突っ切って、丸太町通まで歩いたときのこと。御所の塀のうえで、すこし太めのカラスが「カア」と鳴いたのが印象に残っている。飛翔不足とグルメ過多であろうか。わたしも思わずじぶんの腹をなでてしまった。運動の不足と、アルコール過多であろう。
丸太町通と烏丸通の交差点に交番がある。そのすぐ近くで修学旅行の女学生、たしか四人連れが「ケラケラ」と大声で笑っている。どこの学校でも、旅行で京に来た高校生は、みな少人数で市内を徘徊している。あたらしい発見もあり楽しかろうが、このときの彼女たちの笑いは、常軌を逸していた。箸が転んだというていどの軽々しい喜びようではないのである。
乙女たちのなかでもわたしの体型に似た若干太めの生徒がいちばんうれしそうにこう言った。
「カラスが丸々、太るやて!」
「ガハハ」
「ゲラゲラゲラ」
ほかの仲間たちはみな、腹を抱えんばかりに人目もはばからずに、大声で笑う。
彼女たちの学校は、女子高なのであろう。もしも共学校で男女混成のグループなら、このような話題を持ち出すことは困難である。異性だと太めが傷つく。やはり旅は同性ばかりがいちばんだ。
しかしカラスがどこにいる? 見渡しても「カァ」とも聞こえない。疑問符だらけのわたしは、恥も外聞もなく聞いてみた。
「太いカラス? どこにいる?」
乙女たちは揃ってまた笑い出した。そして交差点横の標識を指差した。
<烏丸丸太町>
烏丸通と丸太町通の交差点だから、京都ではそう呼ぶ。四条河原町なども同様である。
「えっ!」、わたしは絶句した。
<カラス、まるまるふとるまち>
カラスが丸々と太る町、なのである。
そのように読み取り解釈した女性の眼力には驚嘆敬服してしまった。こころのなかで、賛嘆の拍手を送ったほどである。
烏をトリではなく、カラスと読んだのも立派だと感心したが、標識にはルビが振ってあった。
<KARASUMA MARUTAMATI>
国際観光都市京都ならではの笑話エピソードであろうか。いずれにしろ、旅の恥はかき捨てとはよくいったもの。今回は、旅人の恥の書き捨て文とでもしておこう。
<2008年5月3日 課題は運動と酒の過不足>
丸太町通と烏丸通の交差点に交番がある。そのすぐ近くで修学旅行の女学生、たしか四人連れが「ケラケラ」と大声で笑っている。どこの学校でも、旅行で京に来た高校生は、みな少人数で市内を徘徊している。あたらしい発見もあり楽しかろうが、このときの彼女たちの笑いは、常軌を逸していた。箸が転んだというていどの軽々しい喜びようではないのである。
乙女たちのなかでもわたしの体型に似た若干太めの生徒がいちばんうれしそうにこう言った。
「カラスが丸々、太るやて!」
「ガハハ」
「ゲラゲラゲラ」
ほかの仲間たちはみな、腹を抱えんばかりに人目もはばからずに、大声で笑う。
彼女たちの学校は、女子高なのであろう。もしも共学校で男女混成のグループなら、このような話題を持ち出すことは困難である。異性だと太めが傷つく。やはり旅は同性ばかりがいちばんだ。
しかしカラスがどこにいる? 見渡しても「カァ」とも聞こえない。疑問符だらけのわたしは、恥も外聞もなく聞いてみた。
「太いカラス? どこにいる?」
乙女たちは揃ってまた笑い出した。そして交差点横の標識を指差した。
<烏丸丸太町>
烏丸通と丸太町通の交差点だから、京都ではそう呼ぶ。四条河原町なども同様である。
「えっ!」、わたしは絶句した。
<カラス、まるまるふとるまち>
カラスが丸々と太る町、なのである。
そのように読み取り解釈した女性の眼力には驚嘆敬服してしまった。こころのなかで、賛嘆の拍手を送ったほどである。
烏をトリではなく、カラスと読んだのも立派だと感心したが、標識にはルビが振ってあった。
<KARASUMA MARUTAMATI>
国際観光都市京都ならではの笑話エピソードであろうか。いずれにしろ、旅の恥はかき捨てとはよくいったもの。今回は、旅人の恥の書き捨て文とでもしておこう。
<2008年5月3日 課題は運動と酒の過不足>