映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

カナリア

2014年02月13日 | 西島秀俊
自分の力で羽ばたいて行け



* * * * * * * * * *

これはオウム真理教の事件をモチーフとした作品なんだね。
はい。カルト教団“ニルヴァーナ”に入信した母に連れられ、
 妹とともに教団の施設で育った12才の少年光一(石田法嗣)。
 しかし、教団がテロ事件を起こし解散。
 母は行方不明で指名手配となってしまいます。
 児童相談所へ預けられた光一ですが、祖父がきて妹だけを引き取っていった。
 祖父は、教団の信仰が抜けず反抗心を露わに暴力をふるう光一を見捨てたのです。
 光一は祖父から妹を取り返そうと、施設を脱走し、
 東京へ向かおうとしますが、
 途中で援助交際をする少女由希(谷村美月)と知り合い、
 共に旅をすることに・・・。


子供は親を選べない。
 否応なくこの教団に入信しなければならなかった子どもたちだけれど、
 ある日突然今までのことは間違いだったと言われる・・・
そんな理不尽な状況の中で、その何処に向けていいかわからない怒りを祖父に向けて、
 ドライバーの先を研いでいる少年の姿に、鬼気迫るものがありました。
この感じ、「誰も知らない」の柳楽優弥くんにも似ているよね。
そうだねえ。自分はまだ子供でどうにもならない。
 その怒りを内包した静けさ。 
 少年の頑なな心。
ううう・・こういう少年像が実は好きなんだよなあ・・・



10年前の作品だから、谷村美月さんも、美少女!!
 子供から大人へ向かうほんのひと時のピュアな心・表情。
 そこをとらえた非常に貴重な作品だと思います。
それで、西島秀俊さんは・・・?
教団で子どもたちの教育を担当していた青年信者、伊沢だね。
 彼はテロ事件後信仰を捨てて、元信者たちと共同生活をしていたのだけれど、
 行き倒れ寸前の光一と由希を暖かく迎えてくれる。
彼自身も、一瞬の価値観の転換に戸惑い、悩んできたから、
 光一のことも気にかかるんだね。
彼は言うんだね。
 「おまえはもう神の子でもニルヴァーナの子でもなんでもない。
 自分は自分でしかないんだ。
 だから自分で頑張っていけ」って。
つまりは、信者たちは神や教祖の庇護を受けたいと思っていたのだろう。
 でも実はそんなものは幻想で、
 やっぱり自分のことは自分で決めて自分で生きていかなくてはならない、
 というのが、大人である彼自信が感じ、決意したことでもあったんだろうね。


それで、「カナリア」という題名なんだけど・・・。
作中には「カナリア」という言葉は出てこなかったよね。
これはアレだよ。
 警察がオウム真理教の施設に強制捜査に入るときに、
 カナリアを携えて入ったというんだな。
カナリアが毒に強く反応するから、ということか。
 子供もまた、大人たちの毒の思想にすぐに反応して感化されてしまう
 というたとえなのかもしれない。
それからまた、作中で盲目のお祖母さんが
 由希に羽ばたく鳥の折り紙を折ってくれるよね。
折り紙のカナリアがぎこちなく羽ばたくように、
 少年たちも、自分の方法で羽ばたいて行けっていう願いが込められているようだ。
うん、少し希望の見えるこっちの解釈のほうがやっぱり、いい。

カナリア [DVD]
塩田明彦
バンダイビジュアル


「カナリア」
2004年/日本/132分
監督:塩田明彦
出演:石田法嗣、谷村美月、西島秀俊、甲田益也子、水橋研二

社会問題発掘度★★★★☆
西島秀俊の魅力度★★★★☆
満足度★★★★☆