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「愛の夢とか」 川上弘美

2016年06月27日 | 本(その他)
一時の夢を共有する二人

愛の夢とか (講談社文庫)
川上 未映子
講談社


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あのとき、ふたりが世界のすべてになった―。
ピアノの音に誘われて始まった女どうしの交流を描く表題作「愛の夢とか」。
別れた恋人との約束の植物園に向かう「日曜日はどこへ」他、
なにげない日常の中でささやかな光を放つ瞬間を美しい言葉で綴った七つの物語。
谷崎潤一郎賞受賞作にして著者初の短編集。


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川上弘美さんの短編集です。


表題の「愛の夢とか」
「愛の夢」はリストのピアノ曲。
"わたし"は、隣家の老婦人と知り合いますが、テリーと呼ぶように言われます。
間違いなく日本人なのだけれど。
そこで自分のことは「ビアンカ」と呼んでもらうことにする。
"ビアンカ"である"わたし"は、“テリー”の家に足繁く通い、
彼女のピアノの挑戦に付き合うことになります。
「愛の夢」を一度もつかえずに最後まで引き終わること。
時は、あの大震災後の夏。
ほんのささやかな日常も、人の命も、何かの一瞬で消えてしまうことがある。
そんな思いを味わい、しかし、毎日の生活の中でそんな思いも薄れていったころ。
同じ所をつかえながらも、何度も何度も繰り返し引くピアノ曲。
それは二人がすでに忘れかけた少女時代の夢とロマンなのかもしれないし、
過ぎゆく者たちへの祈りなのかもしれない。
そして、ついに完璧にすべてを弾き終えた時―――。
夢の様な時間はいつか終わらせなければならない。
ほんのいっとき共有した美しい想いは、
まるで、どんなに美しく清らかに咲いたバラも散る時が来るかのようでした。


ラストの「十三月怪談」
時子はまだ十分に若いと言える妻。
ところが、不治の病を得てあっけなく他界してしまいます。
残された夫は、しばらくは呆然としたまま悲しみに沈み、
しかし時が次第に心を癒していく。
そして、しばらくして、再婚。
夫は新たな結婚生活を始める。
・・・ところがです。
ここまでは妻の意識で書かれています。
彼女は死後、誰にも見えない姿で、夫のそばに残り続け、
夫の「その後」を見ている。
しかし、その次に夫の意識でまた別の彼の「その後」が始まります。
それはまた全く別のストーリー。
妻の妄執は、死後もまたありつづけるのか。
サスガ怪談というだけあって、ちょっぴり怖いのでした。

「愛の夢とか」川上弘美 講談社文庫
満足度★★★★☆


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