映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

百万円と苦虫女

2008年07月28日 | 映画(は行)

ひょんなことから、前科がついてしまった21歳鈴子。
家族の中にもいたたまれなくなり、家を出る。
彼女は人とのコミュニケーションが苦手なのです。
人と距離を置くことで自分を守ろうとする。
行く先々で、100万円ためたら次の土地に移ろうと、自分の中でルールを作る。
友人も知り合いもいない土地。
そんなまっさらなところから第一歩を踏み出そうとする、そんな気持ちはわからなくもないです。
しかし、彼女が望まなくても、次第に周りの人との関わりは生じるし、関わらなくてはすまなくなってくる。
そうしたら100万円たまって、次の町へ。
でも、これはやはり「逃げ」なんですね。

海辺の町で親しげに声をかけてきた青年。・・・ここからは完全に逃げ。
山の村で、初めはすごく怪しげで怖かったおじさんが、実はとても鈴子を理解してくれて助けてくれる。
次の町では、誠実そうな好青年と出会い、心を開く。

「自分探しなんかしたくない。イヤでも私はここにいる。」という鈴子ですが、
一歩一歩成長しているのがわかります。
中島青年は、「君はいつも困った顔をして笑う」といいます。
その鈴子が、初めて本当の笑顔で笑うのは、彼の部屋の窓辺にあったネギや唐辛子の鉢を見たとき。
本当に、この二人はいい感じですねえ。
おずおずとしていて、ドギマギがこちらまで伝わって来ます。

どうしても好きにはなれない意地悪な人もいますが、
中には気持ちが通じ合える優しい人もいる。
・・・それは、逃げているだけではわからないですからね。
自分から踏み出す勇気も、時には必要。

そしてまた、彼女の弟の存在もこの映画では大きいのです。
小学生の彼はいじめを受けていて、必死に耐えている。
なんだか見ているのもつらいのですが、最後にはついに立ち向かっていく。
このことがまた、鈴子にも最後の勇気を与えるのです。

ラストは、変にハッピーエンドにならないところがまたよかったですね。
鈴子の今度の旅立ちは、多分百万円にはこだわらない。
そういった潔さと希望の見えるラストは心地よいです。
それにしても、鈴子さんは働き者・・・。
カキ氷つくりも、桃もぎも・・・手先は器用なんですね。
あんなに、人前での会話が不器用なのに。
全体的に脱力系の蒼井優、
でも、いまどきのギャルが怖くて近寄りがたい気がしてしまう私には
なんだかとてもなじみやすくて、ホッとします。
そうでありながら、かつてのクラスメートにいじめられかけた時に
毅然とはねつけた強さ、そういうところも、すごく好きです。
ちょっと勇気が出てくる映画です。

現実的な話をすれば、100万円はそう簡単にはたまらないのではないか・・・と思うのです。
バイトをしても一人暮らしでは生活費もバカにならないし・・・、
まあ、ぜんぜん贅沢はしていなさそうですけど。
そう簡単に100万円がたまるなら、こんな格差社会にはならないでしょう・・・。

2008年/日本/121分
監督:タナダ・ユキ
出演:蒼井優、森山未來、ピエール瀧、竹財輝之助

「百万円と苦虫女」公式サイト