映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ダンス・ウィズ・ウルブズ

2008年07月06日 | 映画(た行)
(DVD)
これは1990年作品。
劇場公開後、しばらくして、テレビ放映を見た記憶があります。
これがまた、結構印象深く残っていたのですね。
ぜひとももう一度見たいと思いまして、このたびの鑑賞となりました。

舞台は南北戦争時、意図せずに「英雄」とされてしまったジョン・ダンバー中尉は、
自らの希望で西部の最前線の砦に向かいます。
砦とは名ばかりのあばら家には、しかし誰もいない。
彼はこれも任務として、そこに一人でとどまることにします。
とてつもなく広い大地にたった一人。
友は、愛馬のシスコと、なぜか時々やってくるはぐれ狼のツーソックス。

しばらくして、近くに村を構える、ネイティブ・アメリカンのスー族と出会います。
この出会いは双方及び腰。
これまでも、会えばお互い殺しあってきたネイティブ・アメリカンと白人です。
しかし、ある日ジョンが、怪我をした村の女性を助けたことから、交流が始まります。
まずは、言葉が全く通じないのですが、
実はこの女性、子供の頃に家族を他の部族に殺されさまよっていたところをこのスー族に拾われ、村の一員として生活していた。
ほとんど忘れかけていた英語を徐々に思い出し、通訳を務めたことから、双方の意思疎通がかなりスムーズになるのです。
孤独で話し相手もいない生活の中で、スー族との交流は彼に希望を灯します。
村に行き語り合い、時には共にバファローの群れを追い、
また時には、敵の部族と争いもする・・・、
このスー族との交流がかなり丁寧に描かれています。
そのため、この作品はほぼ3時間たっぷりの長さ。
実は更には4時間の拡大バージョンもあるとのこと。

ネイティブ・アメリカンの名前の付け方は、その人物の描写から来るのです。
「蹴る鳥」、「風になびく髪」、「拳を握って立つ女」・・・、
そして、ジョンに付けられた名前が「ダンス・ウィズ・ウルブズ」。
つまり、「狼と踊る男」です。
あるとき彼が、おなじみの狼「ツー・ソックス」と追いかけっこ(?)をしていたところを見られていたので・・・。
でも、いい名前ですね。
彼も、気に入ったようです。
そういえば、この狼の名前、前足の先のほうが白くて靴下を履いているように見えることから、ジョンが付けた名前なのですが、
ネイティブ・アメリカン流。
狼は普通群れで行動するのものだと思うのですが、ここでは一匹だけのはぐれ狼。
こんな人里はなれた荒野のど真ん中に、
たった一人で住んでいる、ジョンの身の上と重なるところがあります。

さて、このようにじっくり丁寧にジョンがスー族の生活になじんでいく過程を描いているには、実は理由があるのですね。
まもなく、砦に軍隊が戻ってくる。
彼らはスー族を狙ってくるに違いありません。
このとき、すでにジョンはスー族とともに生活しようと決心しているのですが、
砦に、彼の日誌を置いてきてしまった。
これを読まれたら、近辺にスー族がいることがばれてしまいます。
ところが日誌を取りに戻ったときにはすでに遅く、軍隊が駐留しており、
彼は反逆者として捕らえられてしまった。

このあたりから、観客は自分の心の中の変化に気付くはずです。
通常の西部劇なら、悪役はインディアン。
軍隊こそ正義の見方。
しかし、この映画のこの場面では、白人たちがとんでもない野蛮人に思える。
もう、私たちは、「ダンス・ウィズ・ウルブズ」としてのジョンの心にすっかり同化しているのです。
このために必要な、「長さ」だったんですね・・・。

ずっと、彼の孤独を支えてきたシスコとツーソックスの運命も残酷です。
彼らとともに、白人としての「ジョン」も消滅したのではないでしょうか。

実際、考えてみれば先住民族を虐殺し、アフリカ大陸から無数の黒人を拉致し、大地を埋め尽くしていたバファローでさえ、絶滅寸前に追いやる。
・・・なんと野蛮な人種なのでしょうね。白人は。
まあ、日本人もえらそうなことは言えませんが。

自然と共に生き、家族、仲間を大事にする。
雄大な自然のなかで、その営みを続けてきた彼らに対して、取り返しのつかないことをしてしまった。
そのような自省をこめて作られた作品。
ますます、印象深く私の中に残ることになりそうです。

1990年/アメリカ/181分
監督:ケヴィン・コスナー
出演:ケヴィン・コスナー、メアリー・マクドネル、グレアム・グリーン