映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

明日へのチケット

2008年04月24日 | 映画(あ行)

(DVD)

カンヌ国際映画祭のパルムドール受賞監督3名のコラボレーション作品です。
ローマ行きの急行列車に乗り合わせた人々のドラマ。
オムニバスとして別れた作品集でなく、3つのエピソードが互いに重なり合う、一つの長編作品となっているところがミソ。
確かに、列車というのは、全くさまざまな人々がさまざまな理由で旅行する、ドラマの宝庫であります。

私は、最後のサッカーチャンピオンズリーグの試合を見に行く3人の若者のストーリーも勢いがあって好きですが、はじめの大学教授の話も好きです。

初老の大学教授。
飛行機が思いがけず欠航となってしまい、やむなく列車の旅となりました。
そのチケットの世話をしてくれた女性に、ちょっとボ~ッとなってしまうのです。
ほんの短時間の出会いであり別れでした。
ただ、とても親身に親切にしてくれた女性。
単調な列車の震動に身を任せていると、次第にその女性との出会いが重大のことのように思い出され、
その女性との更なる展開を夢想し始めるのです。
退屈で平凡なこれまでの人生・・・、しかし、心の中でなら、どんなことも想像自由。
初恋の女性を思うような物思い。
列車の単調なリズムはそんな心の取り留めもない思いを増長させる働きがあるようです。
しかし、それにしても、物思いにふけりつつ、目に入ってきて、どうも気になってしまう、移民らしい赤ちゃん連れの家族。
彼らは指定席の切符も取れなかったらしく、列車のデッキに立っている。
何しろ大学教授の一人旅ですので、夢想シーンの中以外はほとんど会話らしい会話もなく、
良く見かける日常の列車内のシーンが続くばかりです。
しかし、人々の思いが手に取るようにわかってしまう。
これぞ、名監督の手腕というものなのでしょう。
夢と現実を目の当たりにしながら、教授はやはり現実のために行動を起こすのです。
ここのところが実にいいですねえ。
こんな風に、よくある日常を丹念に描きながら、
ほんのり暖かい感動が沸き起こってくる。
まさに上質の作品です。

2005年/イギリス=イタリア/110分
監督:エルマンノ・オルミ、アッバス・キアロスタミ、ケン・ローチ
出演:カルロ・デッレ・ビアーネ、 バレリア・ブルーニ・テデスキ、シルバーナ・ドゥ・サンテス、フィリッポ・トロジャーノ