イギリスの名門校イートン校に学んだ、この男第二次大戦ではイギリス海軍に属し、その後イギリス秘密情報部に勤務。
スポーツを好むダンディなプレイボーイで美食家でヘビースモーカー。酒にはうるさく、「ステアせず、シェイクしたウォッカ・マティーニ」を愛飲する。
格闘術に優れ、自動車や銃の扱いに長けるスーパーヒーローと言えば、おなじみ007のジェームス・ボンド。
007ジェームス・ボンド役は誰かと問えばその答えによって歳がばれる。
筆者の世代では007と言えばショーン・コネリー。
髪のふさふさした(実はその当時もカツラだったという説もあるが、そんなことはどうでもいい)ダンディなショーン・コネリーのボンドが完全に刷り込まれており、他の役者がどんなに名演技をしても「ショーン・コネリー・ボンド」を脳裏から削除することは不可である。
たまにロジャー・ムアの姿も出てくるがその頃はストーリー自体にバカバカしさを感じるようになっており007も遠くなって行った。
一番新しいボンド役・ピアース・ブロスナン主演の作品も見たが自分より若いボンドには今ひとつなじめず時の移り変わりを007に感じてしまった。
ショーン・コネリーのボンドの頃は東西冷戦時代を反映して、西側と東側のスパイ合戦も映画のテーマであった。
ジェームス・ボンドの故郷イギリスで元ロシアのスパイが毒殺されたと言う。
東西冷戦は終わったはずだが、ソ連崩壊は「偽装倒産」だったと言う人もいる。
そういえば最近のプーチン・ロシアには時代を逆行しているような動きも見える。
そのロシアのプーチン大統領が元スパイ毒殺事件に関わっているといったら、007ジェームス・ボンドの登場を期待したくなる。
久しぶりに「007」が映画化されるという。
007シリーズは今回で21作目で主演のジェームス・ボンド役も7代目だと言う。
(※)第21作『007 カジノ・ロワイヤル (CASINO ROYALE) 』(2006年11月16日(日本2006年12月1日)公開予定/マーティン・キャンベル監督)
イギリスの元スパイ毒殺事件に関連した各紙のコラムを以下に
◆毎日新聞 余録:スパイ小説で「ウエットワーク(ぬれ仕事)」といえば…
スパイ小説で「ウエットワーク(ぬれ仕事)」といえば、諜報(ちょうほう)員への暗殺指令だ。78年にロンドンで起きたブルガリアの亡命作家マルコフの怪死は東側スパイのウエットワークとして語り継がれてきた。それが傘に偽装した特殊な凶器による毒殺だったからだ▲ある日バス停でマルコフが足に痛みを感じて振り返ると傘を持つ男が「失礼」と立ち去る。彼は原因不明の高熱を出し4日後に死亡した。その後、遺体からは白金とイリジウムの合金でできた直径1ミリほどの球が撃ち込まれているのが見つかった▲球の微細な穴には猛毒リシンが仕込まれていたが、同様の未遂事件がなければ死因は謎のままだった。ソ連の協力を受けたブルガリア政府の仕業と分かったのは冷戦後だ。そんな陰惨なウエットワークの記憶を呼び起こす怪死がまた欧州を騒がせている▲ロシアのプーチン政権批判を繰り返し、亡命先のロンドンで毒を盛られた疑いで重体になっていた元同国保安庁員リトビネンコ氏が死亡した。薬物中毒かどうかをふくめて死因の特定は困難という。疑いはロシア政府に向けられているが、むろんプーチン政権は全面否定である▲だが疑惑には背景がある。先月はロシア国内で反政府の言論で著名な女性記者が殺害され、過去にリトビネンコ氏が告発する政府の疑惑を追及した議員も暗殺された。プーチン氏はこの夏、情報機関に「テロリスト殺害」--ウエットワークを指示できる大統領権限を手に入れている▲プーチン氏にすればそれはぬれ仕事ではなく、ぬれぎぬだといいたいかもしれない。ならば疑惑の温床となってきた政権の強権的姿勢への欧州諸国民の不信をぬぐい去るよう手を打つことだ。つまり言論の自由と人権の尊重である。 毎日新聞 2006年11月25日 東京朝刊
◆朝日新聞【天声人語】2006年11月28日(火曜日)付
夫婦で研究を進めるうちに、放射性の新しい元素の発見を公表できるまでにこぎ着けた。夫のピエールが言う。「きみが名前をつけてやりなさい」。祖国のポーランドに思いを致した妻・マリーが遠慮がちに答えた。「〈ポロニウム〉というのはどうかしら?」(エーヴ・キュリー『キュリー夫人伝』河野万里子訳・白水社)。
発見から約1世紀を経て、思いがけない所でポロニウムが注目されている。亡命先のロンドンで変死したロシアの反プーチン派の元情報将校の体から「ポロニウム210」が検出された。
ロシアの情報機関の関与がとりざたされる一方で、大統領への打撃を狙った反プーチン派によるたくらみではないかとの主張もあるという。いずれにせよ、何者かが口封じに出た疑いは濃い。
口封じの疑いが濃厚な事件がもう一つ、先月モスクワで起きた。射殺された女性記者は、チェチェン共和国の警察部隊などによる人権侵害を厳しく追及していた。
以前、その著書に書いている。「二〇〇二年が終わりつつある……私は生きていたい……私たちは二〇〇三年を生き抜けるのだろうか?……私には肯定的な答えはない」(『チェチェンやめられない戦争』三浦みどり訳・日本放送出版協会)。
英紙によれば、ポロニウムに倒れた元情報将校は、亡くなる2日前に、こんな言葉を残している。「ひとりの人間を沈黙させることには成功するかも知れないが、世界中からの抗議のうなりが、生涯あなたの耳に響き続けるだろう」。暗殺の深い闇に、光をどう当てるかが問われている。
◆産経新聞 産経抄 平成18(2006)年11月28日[火]
ホテルのメードに変装したソ連の女スパイが、靴の先から飛び出すナイフで、英国情報部員、ジェームズ・ボンドに襲いかかる。映画の007シリーズ2作目『ロシアより愛をこめて』の一場面だ。
▼イアン・フレミングの原作では、実はナイフの刃には日本のフグの毒が塗られており、映画とは違って、ボンドは意識不明に陥る。フグ毒は傷口から入っても有毒なのか。同僚の長辻象平記者はコラム「釣然草」で、「答えはイエスのようである」と書いていた。
▼ロイター通信モスクワ支局長の経験もあるフレミングは、どこで情報を仕入れたのだろう。確かに毒物を使った暗殺は、旧ソ連国家保安委員会(KGB)のお家芸だった。関与が疑われているのは、たとえば1978年にロンドンのバス停で、ブルガリアの亡命作家マルコフが、傘に刺されて死亡した事件だ。
▼傘の先端には、ヒマの種子から抽出した猛毒のリシンが仕込まれていた。2004年9月、ウクライナ大統領選のさなかには、野党候補ユシチェンコ元首相の顔が腫れ上がる毒殺未遂事件があった。このとき使われたのはダイオキシンだ。
▼ロンドン市内で変死したロシアの元情報将校、リトビネンコ氏の尿からは、放射性物質「ポロニウム210」が検出され、英メディアは色めき立っている。リトビネンコ氏は、プーチン政権批判を繰り返して、英国に亡命中だっただけに、疑いの目はロシア政府に向けられている。KGBのスパイの経歴をもつプーチン大統領はもちろん全面否定だ。
▼冷戦の終焉(しゅうえん)とソ連の崩壊によって、スパイの活躍の場が失われる、との見方もあったが、とんでもない。「殺しのライセンス」を持つスパイの暗躍はいまなお猖獗(しょうけつ)をきわめている。
スポーツを好むダンディなプレイボーイで美食家でヘビースモーカー。酒にはうるさく、「ステアせず、シェイクしたウォッカ・マティーニ」を愛飲する。
格闘術に優れ、自動車や銃の扱いに長けるスーパーヒーローと言えば、おなじみ007のジェームス・ボンド。
007ジェームス・ボンド役は誰かと問えばその答えによって歳がばれる。
筆者の世代では007と言えばショーン・コネリー。
髪のふさふさした(実はその当時もカツラだったという説もあるが、そんなことはどうでもいい)ダンディなショーン・コネリーのボンドが完全に刷り込まれており、他の役者がどんなに名演技をしても「ショーン・コネリー・ボンド」を脳裏から削除することは不可である。
たまにロジャー・ムアの姿も出てくるがその頃はストーリー自体にバカバカしさを感じるようになっており007も遠くなって行った。
一番新しいボンド役・ピアース・ブロスナン主演の作品も見たが自分より若いボンドには今ひとつなじめず時の移り変わりを007に感じてしまった。
ショーン・コネリーのボンドの頃は東西冷戦時代を反映して、西側と東側のスパイ合戦も映画のテーマであった。
ジェームス・ボンドの故郷イギリスで元ロシアのスパイが毒殺されたと言う。
東西冷戦は終わったはずだが、ソ連崩壊は「偽装倒産」だったと言う人もいる。
そういえば最近のプーチン・ロシアには時代を逆行しているような動きも見える。
そのロシアのプーチン大統領が元スパイ毒殺事件に関わっているといったら、007ジェームス・ボンドの登場を期待したくなる。
久しぶりに「007」が映画化されるという。
007シリーズは今回で21作目で主演のジェームス・ボンド役も7代目だと言う。
(※)第21作『007 カジノ・ロワイヤル (CASINO ROYALE) 』(2006年11月16日(日本2006年12月1日)公開予定/マーティン・キャンベル監督)
イギリスの元スパイ毒殺事件に関連した各紙のコラムを以下に
◆毎日新聞 余録:スパイ小説で「ウエットワーク(ぬれ仕事)」といえば…
スパイ小説で「ウエットワーク(ぬれ仕事)」といえば、諜報(ちょうほう)員への暗殺指令だ。78年にロンドンで起きたブルガリアの亡命作家マルコフの怪死は東側スパイのウエットワークとして語り継がれてきた。それが傘に偽装した特殊な凶器による毒殺だったからだ▲ある日バス停でマルコフが足に痛みを感じて振り返ると傘を持つ男が「失礼」と立ち去る。彼は原因不明の高熱を出し4日後に死亡した。その後、遺体からは白金とイリジウムの合金でできた直径1ミリほどの球が撃ち込まれているのが見つかった▲球の微細な穴には猛毒リシンが仕込まれていたが、同様の未遂事件がなければ死因は謎のままだった。ソ連の協力を受けたブルガリア政府の仕業と分かったのは冷戦後だ。そんな陰惨なウエットワークの記憶を呼び起こす怪死がまた欧州を騒がせている▲ロシアのプーチン政権批判を繰り返し、亡命先のロンドンで毒を盛られた疑いで重体になっていた元同国保安庁員リトビネンコ氏が死亡した。薬物中毒かどうかをふくめて死因の特定は困難という。疑いはロシア政府に向けられているが、むろんプーチン政権は全面否定である▲だが疑惑には背景がある。先月はロシア国内で反政府の言論で著名な女性記者が殺害され、過去にリトビネンコ氏が告発する政府の疑惑を追及した議員も暗殺された。プーチン氏はこの夏、情報機関に「テロリスト殺害」--ウエットワークを指示できる大統領権限を手に入れている▲プーチン氏にすればそれはぬれ仕事ではなく、ぬれぎぬだといいたいかもしれない。ならば疑惑の温床となってきた政権の強権的姿勢への欧州諸国民の不信をぬぐい去るよう手を打つことだ。つまり言論の自由と人権の尊重である。 毎日新聞 2006年11月25日 東京朝刊
◆朝日新聞【天声人語】2006年11月28日(火曜日)付
夫婦で研究を進めるうちに、放射性の新しい元素の発見を公表できるまでにこぎ着けた。夫のピエールが言う。「きみが名前をつけてやりなさい」。祖国のポーランドに思いを致した妻・マリーが遠慮がちに答えた。「〈ポロニウム〉というのはどうかしら?」(エーヴ・キュリー『キュリー夫人伝』河野万里子訳・白水社)。
発見から約1世紀を経て、思いがけない所でポロニウムが注目されている。亡命先のロンドンで変死したロシアの反プーチン派の元情報将校の体から「ポロニウム210」が検出された。
ロシアの情報機関の関与がとりざたされる一方で、大統領への打撃を狙った反プーチン派によるたくらみではないかとの主張もあるという。いずれにせよ、何者かが口封じに出た疑いは濃い。
口封じの疑いが濃厚な事件がもう一つ、先月モスクワで起きた。射殺された女性記者は、チェチェン共和国の警察部隊などによる人権侵害を厳しく追及していた。
以前、その著書に書いている。「二〇〇二年が終わりつつある……私は生きていたい……私たちは二〇〇三年を生き抜けるのだろうか?……私には肯定的な答えはない」(『チェチェンやめられない戦争』三浦みどり訳・日本放送出版協会)。
英紙によれば、ポロニウムに倒れた元情報将校は、亡くなる2日前に、こんな言葉を残している。「ひとりの人間を沈黙させることには成功するかも知れないが、世界中からの抗議のうなりが、生涯あなたの耳に響き続けるだろう」。暗殺の深い闇に、光をどう当てるかが問われている。
◆産経新聞 産経抄 平成18(2006)年11月28日[火]
ホテルのメードに変装したソ連の女スパイが、靴の先から飛び出すナイフで、英国情報部員、ジェームズ・ボンドに襲いかかる。映画の007シリーズ2作目『ロシアより愛をこめて』の一場面だ。
▼イアン・フレミングの原作では、実はナイフの刃には日本のフグの毒が塗られており、映画とは違って、ボンドは意識不明に陥る。フグ毒は傷口から入っても有毒なのか。同僚の長辻象平記者はコラム「釣然草」で、「答えはイエスのようである」と書いていた。
▼ロイター通信モスクワ支局長の経験もあるフレミングは、どこで情報を仕入れたのだろう。確かに毒物を使った暗殺は、旧ソ連国家保安委員会(KGB)のお家芸だった。関与が疑われているのは、たとえば1978年にロンドンのバス停で、ブルガリアの亡命作家マルコフが、傘に刺されて死亡した事件だ。
▼傘の先端には、ヒマの種子から抽出した猛毒のリシンが仕込まれていた。2004年9月、ウクライナ大統領選のさなかには、野党候補ユシチェンコ元首相の顔が腫れ上がる毒殺未遂事件があった。このとき使われたのはダイオキシンだ。
▼ロンドン市内で変死したロシアの元情報将校、リトビネンコ氏の尿からは、放射性物質「ポロニウム210」が検出され、英メディアは色めき立っている。リトビネンコ氏は、プーチン政権批判を繰り返して、英国に亡命中だっただけに、疑いの目はロシア政府に向けられている。KGBのスパイの経歴をもつプーチン大統領はもちろん全面否定だ。
▼冷戦の終焉(しゅうえん)とソ連の崩壊によって、スパイの活躍の場が失われる、との見方もあったが、とんでもない。「殺しのライセンス」を持つスパイの暗躍はいまなお猖獗(しょうけつ)をきわめている。