【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

角圭子『鄭雨沢の妻-「さよなら」も言えなくて-』サイマル出版、1996年

2011-05-17 00:09:36 | ノンフィクション/ルポルタージュ

              

         

               

  先日読んだ、この本の著者の角さんの『美の心』の「離婚」の、もっとくわしい展開が書かれています。

 著者の鄭雨沢との出会いから、結婚、中留での生活、離婚まで。夫だった鄭は日本の憲兵に追われながら植民地下で少年時代を過ごし、解放後の韓国で米占領軍や李承晩政権と闘い、逮捕され拷問を受け、その後故郷とも肉親とも別れれて日本に密航してきた人物でした。三鷹にあった著者が住んでいた家で、鄭は過去を語りました(鄭の出自と李承晩政権下のたたかいは本書の「往還」に詳しい)。そして結婚。

 著者は日本の警察の目を避けながら、転々。朝鮮人街・中留(川崎市の町はずれ[千坪ほどの土地に200世帯を超える朝鮮人が暮らしていた])での生活も体験し、気心の知れた友人、子どもたちと、貧しくも心豊かな日々を過ごしました。

 1950年代後半、在日朝鮮人の間で北朝鮮への帰国運動が高まり、鄭はこの運動の最前線に立って活動。『世界』(岩波)でも論陣を張りました。

 この運動のなかで日本人妻は微妙な立場にありました。夫と北朝鮮に戻っても、馴染めないことが多く、またその素行が批判の対象とされたのです。そんな、ある日、著者はロシア語を教えていた朝鮮大学で突然、解雇を通告されました。何かが背後で動いていたようです。鄭との生活の継続はもはや不可能でした。

 後日、1979年春、著者はもとの夫がスパイ容疑で処断されたとの記事を目にしました。本書はそのレクイエムです(p.4)。

 鄭と出会う前、「ソヴェト研究会」での活動の様子もいきいきと書かれていて面白かったです。