【岩崎俊夫BLOG】社会統計学論文ARCHIVES

社会統計学分野の旧い論文の要約が日課です。

時々、読書、旅、散策、映画・音楽等の鑑賞、料理とお酒で一息つきます。

零式戦闘機と太平洋戦争

2009-03-01 11:09:44 | 小説
吉村昭『零式戦闘機』新潮社文庫、1976年             
                     
  零式[れいしき]艦上戦闘機の話です。

 昭和12年ごろに日本帝国海軍の要請により三菱重工で開発され、無類の能力を発揮した零式戦闘機(正式名称は零式艦上戦闘機)。実戦では、その性能のよさをほしいいままにしました。特に、格闘戦での撃墜能力にすぐれていました。

 この小説は、太平洋戦争の始まりから敗戦までの軌跡を、この戦闘機の登場から、神風特攻隊に投入され、生産減退に向かう過程と重ね合わせて描いた作品です。

 当初、著者は敗戦の前年に起こった地震で、零式戦闘機を生産していた三菱重工業名古屋航空製作所が甚大な被害を蒙り、多くの男女の勤労学徒の死にいたった事件を小説化したかったらしいですが、調査を進めるなかで零式戦闘機のことを書こうと執筆方針を変更したようです。

 気迫のこもった調査を背景に、著者は堀越設計技師の努力によってこの戦闘機が考案され、数多くの試験を経て、実戦に使われ、驚異的な戦果をもたらし、さらに改善に改善が重ねられ、世界の戦闘機の歴史を回顧しても類をみない優秀さをもっていたのがこの戦闘機であったことを書き綴っています。

 しかし、太平洋戦争は日本が仕掛けた無謀な戦争でした。真珠湾攻撃の奇襲による勝利は一時的なもので、日本は圧倒的な生産力水準と技術水準をもつアメリカの敵ではありませんでした。

 ミッドウエー海戦での壊滅的敗北から、ガダルカナル玉砕、ソロモン島での退却につぐ退却。沖縄戦での敗北から、本土空襲、原子爆弾投下。そして玉音放送。著者は怜悧な目で、この愚かな戦争で日本全体がじり貧にまでおいつめられていくさまを追跡していきます。

 冒頭、名古屋航空機製作所から各務原の飛行場まで戦闘機が牛車で運ばれる光景が活写されていますが、この叙述は小説のイントロとして効果的であるように思います。また、上記の名古屋での大地震による被災も後半にしっかり書きこまれていて、著者の想いが伝わってきました。