潮木守一『世界の大学危機』中公新書、2004年
標題に「危機」という言葉が使われていますがやや大げさで、要は高等教育機関としての大学が世界の主要国(イギリス、ドイツ、フランス、アメリカ、日本)で曲がり角にきているということの表明です。
著者が述べているところによれば、「よその国の話や、今から200年も昔の話のなかに、現在われわれが当面してる問題の種が、すでに蒔かれている、これが基本的な立場である」(p.230)ということです。
各国の大学の成立事情、その社会的役割、社会の評価、現在抱えている問題などを論じた前半と、テーマを普遍化して、各国の大学拡大政策の背後にある問題点、これからの大学がとらなければならない姿勢について提言した後半とからなります。
本書を読んで、ひとくにち「大学」といっても、国ごとで、また時代によって多様であり、同列で論ずることはかなり難しいのではないかという感想をもちました。しかし、著者はそれを敢行しています。
イギリスの大学の特徴は、オックスフォードにしても、ケンブリッジにしてもカレッジの集合体で、少人数教育(個人指導)に重きがおかれ、全寮制度が原則でした。基本的に国教徒の子弟に門戸が開かれていましたが、この慣習を打破する大学として市民大学(ロンドン大学)が設立されました。戦後は、低い就学率を改善するための大学増設政策のなかから7つの大学が誕生しました。
ドイツの大学はほとんどが州立大学であり、入学に試験はありません。どこの大学を卒業したかといったいわゆる大学のブランドに価値は認められていないのがこの国です。ドイツはまた「近代大学」の発祥地として知られます(ベルリン大学)。その内容は「研究と教育との統一」、教員も学生も研究をとおして学ぶのです。それを制度的に保障したのがゼミナールでした。
フランスの高等教育制度は、「大学」と「グランゼコール」の2本立てです。前者は大衆の高等教育のこたえるもの、後者はエリート教育が目的です。「大学」にはリセ(日本の高校に相当)の卒業資格であるバカロレアがあれば誰でも入学できます(この結果、大学はマスプロ化し、教育内容は低下し、それが学生の反感を呼んで、過激な学生運動に発展した)。グランぜコールにはバカロレアのあとの厳しい選抜試験を通過しなければ入学できません。最近は、短期間の職業技能養成のコースが設置され、学生の選択肢の拡大を図っています。
アメリカは大学院制度を「発明」したことで知られます(最初はジョンズ・ホプキンズ大学)。この国の大学制度の特徴は、この大学院制度の誕生、その教育内容の学部教育との差別化、大学院制度の統一化、その延長での評価認証制度の整備です。
本書の後半では、各国の大学拡大制度の背景にある教育機会の階層差の解消(あまり奏功していない)、社会の新しいニーズ(生涯学習、 脱学校化、E-ラーニングなど)に対応する大学とカリキュラムの改革などについて、提言が示されています。
本書はもともとは桜美林大学大学院の大学アドミニストレーション課程の通信課程用のテキストとして書かれたものだそうです。
標題に「危機」という言葉が使われていますがやや大げさで、要は高等教育機関としての大学が世界の主要国(イギリス、ドイツ、フランス、アメリカ、日本)で曲がり角にきているということの表明です。
著者が述べているところによれば、「よその国の話や、今から200年も昔の話のなかに、現在われわれが当面してる問題の種が、すでに蒔かれている、これが基本的な立場である」(p.230)ということです。
各国の大学の成立事情、その社会的役割、社会の評価、現在抱えている問題などを論じた前半と、テーマを普遍化して、各国の大学拡大政策の背後にある問題点、これからの大学がとらなければならない姿勢について提言した後半とからなります。
本書を読んで、ひとくにち「大学」といっても、国ごとで、また時代によって多様であり、同列で論ずることはかなり難しいのではないかという感想をもちました。しかし、著者はそれを敢行しています。
イギリスの大学の特徴は、オックスフォードにしても、ケンブリッジにしてもカレッジの集合体で、少人数教育(個人指導)に重きがおかれ、全寮制度が原則でした。基本的に国教徒の子弟に門戸が開かれていましたが、この慣習を打破する大学として市民大学(ロンドン大学)が設立されました。戦後は、低い就学率を改善するための大学増設政策のなかから7つの大学が誕生しました。
ドイツの大学はほとんどが州立大学であり、入学に試験はありません。どこの大学を卒業したかといったいわゆる大学のブランドに価値は認められていないのがこの国です。ドイツはまた「近代大学」の発祥地として知られます(ベルリン大学)。その内容は「研究と教育との統一」、教員も学生も研究をとおして学ぶのです。それを制度的に保障したのがゼミナールでした。
フランスの高等教育制度は、「大学」と「グランゼコール」の2本立てです。前者は大衆の高等教育のこたえるもの、後者はエリート教育が目的です。「大学」にはリセ(日本の高校に相当)の卒業資格であるバカロレアがあれば誰でも入学できます(この結果、大学はマスプロ化し、教育内容は低下し、それが学生の反感を呼んで、過激な学生運動に発展した)。グランぜコールにはバカロレアのあとの厳しい選抜試験を通過しなければ入学できません。最近は、短期間の職業技能養成のコースが設置され、学生の選択肢の拡大を図っています。
アメリカは大学院制度を「発明」したことで知られます(最初はジョンズ・ホプキンズ大学)。この国の大学制度の特徴は、この大学院制度の誕生、その教育内容の学部教育との差別化、大学院制度の統一化、その延長での評価認証制度の整備です。
本書の後半では、各国の大学拡大制度の背景にある教育機会の階層差の解消(あまり奏功していない)、社会の新しいニーズ(生涯学習、 脱学校化、E-ラーニングなど)に対応する大学とカリキュラムの改革などについて、提言が示されています。
本書はもともとは桜美林大学大学院の大学アドミニストレーション課程の通信課程用のテキストとして書かれたものだそうです。