与那原からの海の幸
春は虫たちの季節である。アパートの畑、庭、職場の庭などにはたくさんの虫が蠢(うごめ)く。草の茂った辺りにはテントウムシやハムシの類が多く飛び交う。
春はまた海藻の季節でもある。アーサ、スヌイ、ヒジキ、モーイなどがスーパーに顔を出す。旬の海藻は生で口にできる。生のものを私は、スヌイだけでなく、アーサもヒジキも酢の物にして食す。酢の物にする場合は湯通しして、水に晒してから味付けする。タコやイカ、キューリなどと和える事もある。私の、春の楽しみの一つとなっている。
先日、行きつけの喫茶店で、ヒジキの酢の物など食ったことが無いオバサンたちに、
「美味いぜ、磯の香りが残ってて。」と、言外には「何年もオバサンやってて、そんなことも知らないのかよ。」という威張った思いも込めて言ったら、
「あんた、この間の『ためしてガッテン』観なかったの?ヒジキを食べ過ぎたら癌になるってよ。」とのこと。・・・「ホントかよ」と思う。
ビタミン、ミネラルたっぷりの健康食品ではないか、ヒジキは。それが何で癌の要因になるんだ、と思う。天下のNHKが、まさかガセネタをかますことは無かろう。きっとオバサンたちの大雑把な脳味噌が、「あまり大量に食べ過ぎると癌」というのを「食べたら癌」ということに文書変換でもしたのだろう。彼女らの言うことを私は信じない。
10年ほど前だったか、友人のKY子から「与那原産の生ヒジキが手に入ったけど、要る?」と電話があった。彼女の住まいは糸満市である。東シナ海に面した糸満から沖縄島を横断して、太平洋に面した与那原までわざわざ出かけたようである。それまで生のヒジキというものを食ったことが無かった私は、もちろん、「うん、要る、要る。」と返事した。数時間後、生ヒジキを持って、糸満から首里までわざわざ来てくれた。
「生なのであれば、酢の物でも食えるということか?」と訊く。
「大丈夫なんじゃないの」という返事。で、その夜、酢の物にして食う。それ以来、ヒジキの酢の物は、私の春の楽しみとなっているのである。KY子に感謝。
ヒジキ(鹿尾菜・羊栖菜):海産の褐藻
ホンダワラ科の海藻 全国各地に分布 方言名:ヒジキ
収穫時期は概ね3月から4月。全国各地に分布し、沖縄はその南限。大型の海藻で、長さは1mに達し、枝分かれしながら円柱状になる。サンゴ礁域に生息し、生きている間は黄褐色だが、乾燥すると黒褐色に変化する。
水揚げされたものを浜茹でし、その後乾燥させるが、収穫時期には乾燥させる前のものがスーパーなどに出回る。古くから馴染みのある美味しい海藻。
ついでに
ヒトエグサ(一重草):海産の緑藻 →記事「海の匂いの澄まし汁」
ホンダワラ科の海藻 収穫時期は1月から4月 方言名:アーサ
モズク(水雲・海蘊):海産の一年生褐藻 →記事「海のモズクとなりにけり」
ホンダワラ科の海藻 収穫時期は3月から6月 方言名:スヌイ
イバラノリ(茨海苔):海産の紅藻
イバラノリ科の海藻 収穫時期は3月から4月 方言名:モーイ
リュウキュウツノマタ(琉球角叉):海産の紅藻
スギノリ科の海藻 収穫時期は春 方言名:チヌマタ
記:ガジ丸 2006.5.15 →沖縄の飲食目次
参考文献
『沖縄大百科事典』沖縄大百科事典刊行事務局編集、沖縄タイムス社発行