おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

家へ帰ろう

2023-08-22 06:13:39 | 映画
「家へ帰ろう」 2017年 スペイン / アルゼンチン


監督 パブロ・ソラルス
出演 ミゲル・アンヘル・ソラ アンヘラ・モリーナ
   オルガ・ボラズ ナタリア・ベルベケ
   マルティン・ピロヤンスキー ユリア・ベーアホルト

ストーリー
アルゼンチン、ブエノスアイレスで子どもたちや孫に囲まれ、家族全員の集合写真に収まる88歳のユダヤ人の仕立屋アブラハム。
翌日、彼は長年住んだ家を離れて老人施設に入ることになっていた。
しかしその夜、家族の誰にも告げずに家を出ていく。
向かう先は、ホロコーストの忌まわしい記憶から彼が決してその名を口にしようとしない母国ポーランド。
アブラハムは、第2次大戦中にユダヤ人である彼を匿ってくれた命の恩人である親友に、最後に仕立てたスーツを届けに行こうとしていたのだった。
しかしその親友とは70年以上も会っていなかった。
アブラハムはナチスドイツから受けた迫害を思い起こして絶対にドイツの地は踏むまいと心に決めていた。
しかし飛行機でマドリッドに降り立った彼は、そこから列車でポーランドに行くためには、あのドイツを通らなければならないと知る。
頑固一徹の彼にとって、ホロコーストを生き延びたユダヤ人の自分が、たとえ一瞬でもドイツの地を踏むなどということは、決して受け入れられることではなかった。
飛行機で乗り合わせた青年、マドリッドのホテルの女主人、パリからドイツを通らずポーランドへ列車で訪れることができないかと四苦八苦するアブラハムを助けるドイツ人の文化人類学者など、旅の途中で出会う人たちはアブラハムの力のなろうと自然体で受け入れ手助けする。
しかし、いたるところで難題に直面し、すっかり途方に暮れるアブラハムだった。
果たしてアブラハムは親友と再会できるのか?
人生最後の旅に奇跡は訪れるのか・・・?
 

寸評
ホロコーストを扱った作品は数多くあるが「家へ帰ろう」はちょっと違った視点から描かれている。
戦後70年も経っているが主人公には当時の迫害の記憶を消すことができない。
その象徴として主人公に迫害を受けた国であるポーランドという国名を決して口にしないことを課している。
ポーランドを相手に伝える時は国名が記載されたメモ用紙を見せる徹底ぶりである。
またホロコーストを行ったドイツの土地を決して踏まないという決意もさせている。
彼らユダヤ人はナチスドイツによって腕に刻印されており、その刺青は今も消すことができないでいる。
主人公には非常に重い背景があるのだが、描かれ方はむしろユーモアにあふれた軽妙感がある。
冒頭で老人施設に入る予定のアブラハムが家族全員の集合写真を撮ってもらおうとしているのだが、孫の一人が写真が嫌いだからと言って加わろうとしない。
なんとか説得して全員の集合写真を撮ろうとするアブラハムと孫娘のやり取りが笑わせる。
軽妙なやり取りは孫娘にとどまらず、旅の青年、宿屋の女主人たちとの会話においても発揮され、思わず笑みがこぼれてしまうシーンが多く用意されている。
しらじらしい挨拶などできないと言ったために疎遠となっていた娘とのやり取りも同様である。
華族に見放されたような感があるアブラハムは娘に、自分を疎遠にするから家を売った後の財産分けにありつけなかったのだと悪態をつくが、娘はしっかりと分配を受けていたという顛末である。
アブラハムは家族と別れて施設に入る淋しい境遇の老人だが、妻や子供たちはしっかりと交流しているということがうかがえる。
アブラハムは思いやりのある老人だが、彼の口から出る言葉は気持ちとはかけ離れた皮肉に満ちたものである。
その為に家族を初め多くの人から敬遠されているのではないかと想像できる。

彼の悪態はタクシーの運転手に始まり、チケット購入時やら、飛行機で乗り合わせた青年とのやり取りでも発揮されるのだが、その言っている内容は含蓄のあるもので唸らされる。
彼の態度はヨーロッパの玄関口の一つでもあるスペインのマドリッドの入国審査時にも変わることはない。
アブラハムは父と叔父を目の前で射殺され、妹は誕生日が1ヶ月ばかり早かったためにナチに連れ去られて虐殺されていると言う境遇である。
彼自身も拷問を受け死の行進から逃げ延びたのだが、その時の後遺症で今も足が不自由で足を切断しないといけないという肉体的ハンデを背負っている。
回想的にそれらのシーンが挿入されるが、主人公の軽妙な会話によって暗い作品とはなっていない。
彼はいろんな人の助けを受けながら旅を続けるが、キーとなるのはやはりドイツ人の文化人類学者だろう。
戦後生まれの彼女はドイツの過去を恥じているし、ホロコーストの事実を歴史の中で学んでいるが、その実態を目の当たりにしたわけではない。
彼女はアブラハムの語る事実に改めて驚愕する。
しかし、ユダヤ人がドイツ人をいつまでも恨んでいても未来はないのだ。
戦争がもたらした悪夢としてお互いに理解し合わないと再びの平和はない。
最後に抱擁して別れる姿にユダヤ人とドイツ人の和解を感じさせた。
そして最後はやはり泣けたし、泥棒以外に悪い人が出てこなかったのも良かったように思う。


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