おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

失われた週末

2023-08-21 06:52:34 | 映画
2019/1/1より始めておりますので10日ごとに記録を辿ってみます。
興味のある方はバックナンバーからご覧下さい。

2019/2/21は「男はつらいよ 望郷篇」で、以下「男はつらいよ 寅次郎忘れな草」「男はつらいよ 寅次郎相合い傘」「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」「大人は判ってくれない」「お引越し」「ALWAYS 三丁目の夕日」「俺たちに明日はない」と続きました。

「失われた週末」 1945年 アメリカ


監督 ビリー・ワイルダー
出演 レイ・ミランド ジェーン・ワイマン フィリップ・テリー
   ドリス・ダウリング ハワード・ダ・シルヴァ フランク・フェイレン

ストーリー
ドン・バーナムは33歳、大学時代から小説家になるつもりで、中途退学してニューヨークに飛び出してきたのだが、学窓の天才も世に出てはいっこうに小説が売れない。
焦慮をまぎらそうと一杯の酒を飲んだのが諸悪の始まりで、アルコール中毒になってしまったらしい。
弟思いの兄ウイックのアパートで兄弟は二人暮らしだが、十日ほどの酒びたりからやっと目覚めた弟を、ウイックは田舎へ連れて行って週末4日間なりとも健康生活をさせようと企画する。
出発の準備の最中、ドンの恋人ヘレンが訪ねて来る。
飲んだくれたドンは時間に遅れ、ヘレンに会わないようにしてアパートへ帰る。
兄は怒って、一人で田舎へ行ってしまった。
翌日、朝からナットの酒場へ行き、ドンはヘレンとの恋物語を始める。
そしてドンは、帰ってヘレンに贈る小説を書き始める。
タイトルは「酒びん」としたが、しかし後は一行も書けず、酒は飲みたし、金はなし… そしてドンは・・・。


寸評
僕もお酒は好きだがアルコール中毒ではない。
通称アル中と呼ばれるアルコール依存症の症状として、アルコールが抜けると神経のバランスが崩れて手の震えや幻覚などが出現する離脱症状などがあるらしく、本作でも小動物の幻覚症状が描かれている。
呑べえの主人公が活躍する作品は数多くあり、主人公は弁護士、保安官、刑事など社会的地位の高い人であることが多い。
しかしそんな映画の主人公は酒好きで、酒が手放せないがアル中ではない。
本作は珍しくアル中の作家が主人公である。
アル中を描いた作品として、日本映画では2010年東陽一監督の「酔いがさめたら、うちに帰ろう。」などが思い浮かぶが、「失われた週末」は東作品ほどの壮絶さはないが、アル中患者のどうしようもない行動が巧みに描かれていて興味深い。

ドン・バーナムはアルコールが無くなると落ち着かなくなり、何とかして酒を手に入れようと、その事ばかりに神経が行ってしまう。
スタンド・バーに行く金がないので、ハウスキーパーをだまして金の在りかを聞き出してバーに行く。
持ち金が少ないことに気付いたドンは、隣の女性のバッグから金を盗もうとする。
挙句の果ては酒屋の親父を脅かして酒瓶を巻き上げる始末である。
これでよく警察沙汰にならないものだと思う。
女性は「バッグが戻ればいい」と言っているが、酒屋の親父は警察を呼んでもいいだろうにと思う。

ドンを支えるのは兄のウイックと恋人のヘレンなのだが、特にヘレンの献身ぶりが尋常ではない。
ヘレンの献身は壮絶なものではないが、彼を何とか立ち直らせようとする姿が一途である。
いい加減に彼を見限っても良いようなものだが、彼にひどい仕打ちを受けても彼を愛し続けている。
二人のなり染とその後の出来事が回想形式で描かれ挿入されるが、ドンが回想する形をとっており描き方は自然なもので取ってつけたようにはなっていない。
このあたりはビリー・ワイルダーの上手さもあると思う。

ついにドンは自ら命を絶つことを決断するが、自宅に戻って自殺を決行しようとするまでの描き方はサスペンス性もあって面白く仕上がっている。
その割にはドンがアル中から立ち直り、アル中の自分をモデルにした小説を書く意欲に目覚めるくだりは唐突過ぎて、僕は拍子抜けしてしまった。
上映時間の制約があったのなら、途中のエピソードを削ってでも、立ち直るきっかけと、立ち直る様子はじっくり描き込んでも良かったのではないか。
アル中から抜け出すのは大変なことだと思うのだが、ラストシーンを見ると随分と簡単に抜け出せてしまうのだなあと思ってしまう。
窓の外に吊り下げられたウィスキーの瓶から入る冒頭のシーンから始まり、ラストシーンも同じシーンで終わる描き方はビリー・ワイルダー演出を感じさせ小粋である。


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2 コメント

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「失われた週末」について (風早真希)
2023-08-23 18:40:07
ビリー・ワイルダー監督というと、どうしてもコメディ映画の監督という印象があります。
意外なことに、アル中の男の苦悩という、思い切り暗いテーマのシリアスな映画も撮っていたんですね。

実際、この映画の主演をオファーされたレイ・ミランドは、自分が泥酔者の役をこなせる自信がなかったので、コメディ映画の監督であるビリー・ワイルダーに、シリアスな映画は撮れないだろうと思って、出演を躊躇したそうです。
でも、映画関係者や妻の勧めで、出演を承諾したとのエピソードが残っていますね。

アル中というのは、本人も苦しいですが、周囲に及ぼす影響も甚大です。
酩酊して人様に迷惑をかけている人を、よく見かけたものです。
深夜の街角、電車の中、レストランや飲み屋の片隅--------。

お酒で身を滅ぼしたり、人生を棒に振ったりする人は、この世の中にたくさんいるに違いありません。

お酒に依存し、止められなくなるその理由は、人それぞれ違うでしょうけれど、作家や音楽家などの芸術家に多く見られるのは、やはり"プレッシャー"が原因なのでしょう。

主人公のレイ・ミランドは、売り出し中の作家で、兄のアパートに居候しています。
終末に兄と一緒に田舎に帰る予定だったのですが、お酒が飲みたい一心で嘘をつき、部屋に残って密かに隠していたウイスキーを飲み、それがなくなると、バーに行って飲み、お金がなくなると、タイプライターを質入れしようとするのだが--------。

一人の男が、どん底まで堕ちていく様は、見ているのが辛くなるほど悲惨です。
立派な兄と素晴らしい恋人がいながら、彼らの説得にも耳を貸さない主人公の男。

たった一つの生活の源であるはずのタイプライターを持って、質屋を探してニューヨークの街をさまようシーンが、一番印象に残りましたね。

撮影裏話として、カメラをトラックに隠して、通行人に悟られないようにしながら、ゲリラ的に撮影をしたそうです。
もし主演俳優が、大物のスターだったら、こうはいかなかったでしょうね。

この主人公の男は、酩酊して病院に運ばれますが、病院も実際にある、ベルビュー病院のアル中患者用の病棟で撮影をしたそうです。

脚本の通りだと許可が下りないだろうと思ったビリー・ワイルダー監督は、病院側には嘘の脚本を渡して、まんまと撮影に成功したのだそうです。
この話には落ちがあり、後に完成された映画を観て驚いたのは、このベルビュー病院で、その後一切、病院内での撮影を許可しなかったそうです(笑)。

この映画は、アカデミー賞の4部門(作品、監督、脚本、主演男優)を受賞、ニューロティツクな映画、つまり"異常心理映画"の先駆けとなりましたね。

レイ・ミランドは、この映画でアカデミー賞の主演男優賞を受賞しましたが、それまでは大根役者と言われていたのに、オスカーを獲ったのですから、俳優人生も180度変わってしまったことでしょう。

この後、アル中患者や精神異常者、身障者などを演じれば、オスカーを獲れるとまことしやかに言われるようになりましたね。
実際、そのようになりましたが--------。

この映画は、シリアスなテーマながら、コートを取り違えたことで出会う、主人公と恋人とのロマンスが織り込まれていて、ロマンティックな面もあり、主人公が最後には、アル中から立ち直るという、明るいエンディングになっていますね。

この映画を製作された時代から考えて、とことん暗くすることは出来なかったということでしょう。
そういう点が、とてもアメリカ映画らしいなと思いましたね。
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アル中患者 (館長)
2023-08-25 07:46:04
アル中だったような人は、私の出会った人の中では一人しか知りませんが、アル中から抜け出すのは大変なようで、ここで描かれたような簡単なものではないようです。
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