おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

KT

2019-05-15 08:22:46 | 映画
「KT」 2002年 日本


監督 阪本順治
出演 佐藤浩市 キム・ガプス 原田芳雄 チェ・イルファ
   筒井道隆 ヤン・ウニョン 香川照之 柄本明
   大口ひろし 光石研 利重剛 麿赤兒 江波杏子

ストーリー
1971年4月、韓国大統領選挙は僅差の末、朴正熙(キム・ミョンジュン)の三選が決まった。
敗れたとはいえ野党候補の金大中(チェ・イルファ)は、朴正熙大統領にとって大きな脅威となる。
その後、金大中は国会議員選挙の選挙運動中に大型トラックの追突を受ける。
金大中がその後遺症の治療のため日本を訪れていた72年10月、朴大統領は非常戒厳令を宣言し、反対勢力の徹底弾圧に乗り出したので、金大中は日米を往復する亡命生活を余儀なくされた。
1973年6月、朴軍事政権下の韓国から亡命し、日本で故国民主化の為に精力的な活動をしていた金大中を拉致暗殺せよとの至上命令を受けた駐日韓国大使館一等書記官・金車雲(キム・ガプス)らは、いよいよそれを実行に移そうとしていた(名付けてKT作戦)。
その作戦に、朴大統領と陸軍士官学校時代から繋がりを持つ自衛隊陸上幕僚二部部長・塚田(大口ひろし)によって、民間興信所を開設しKCIAをサポートするよう命じられた陸幕二部所属の富田(佐藤浩市)は、様々な手を使って金大中の行方を追うが、その度に、大使館内部の密通者に偽の情報を掴まされてしまう。
そんな中、彼は金大中の取材に成功していた夕刊トーキョーの記者・神川(原田芳雄)に接近し、遂に金大中が8月9日に自民党で講演を行うとの情報を入手し、報を受けた金車雲は、それを機に作戦を実行しようとする。
ところが、またしてもその計画が漏洩し、神川を通して週刊誌にスクープされてしまった。
この事態に、KCIAは金大中が講演の前日に日本滞在中の民主統一党党首・梁宇東を訪ねる機会を狙って、強行手段に打って出ることになったが、そこには自衛隊関与の疑惑を恐れた上官(柄本明)から一切手を引くように言い渡されながら、想いを寄せる韓国人女性・李政美(ヤン・ウニョン)の手術費用を協力費として金車雲から受け取った富田の姿があった・・・。


寸評
この手の映画はアメリカ映画の得意とするところだが、日本映画としては非常によくできたポリティカル・サスペンスとなっている。
金大中事件には自衛隊の関与があったとする説もあるが事実関係は不明である。
この作品では自衛隊が関与していたことになっていて、冒頭でフィクションであると断っている通り彼らが実際の人物ではなさそうだが、そのような人物がいたとしても不思議でないと思わせる。
韓国映画を思わせるタイトルと布袋虎泰の音楽で観客を一気に映画に引き込む。
自衛隊員冨田と韓国人女性・李政美の接近は唐突過ぎる感もあるが全体的に展開がスピーディなのが良い。
三島事件、憲法問題の入れ方も手際がいい。
金大中の拉致について在日韓国大使館で東ベルリン事件の二の舞になるとの会話がなされるが、東ベルリン事件とは1967年7月に韓国中央情報部がヨーロッパ在住の韓国人教授・留学生を、東ベルリンの北朝鮮大使館と接触し韓国に対する北朝鮮のスパイ活動や北朝鮮訪問を行っていた嫌疑で大量に逮捕した事件のことであり、当時の韓国は西ドイツと犯人引き渡し協定を結んでいなかったことから、KCIAの捜査官達が直接西独へと赴き、「任意同行形式」を装った不法連行で17人を帰国させため、韓国は一時期西ドイツとの間で17人の身柄を巡る外交問題を抱え、両国関係で窮地に立たされることとなった。
その事が語られフィクションでありながらもノンフィクションの部分もあるのだと思わせる効果を生み出していく。
ずっと昔にあった明成皇后暗殺事件を語らせるなど韓国の反日感情の根深さも描き込んでいる。

大統領になった金大中がこの事件を一切不問にするとの立場を明らかにし真相究明を打ち切った為、金大中事件の経緯が明らかになったとはいえ真相は闇の中だ。
冨田のモデルは、退官陸自3佐で興信所を営んでいた坪山晃三氏だろうが氏は協力を拒んでいるから、「KT」は多分にフィクション部分を含んでいると思われる。
フィクションに彩どられながら闇の中を思わせるのは国家が犯罪に加担した時の恐ろしさで、その怖さこそがこの映画のテーマなのかもしれない。
朴政権が政敵の金大中を殺害しようとしてトラック事故を起こしたのは間違いないようだし、金大中の拉致にKCIAが関与していたことも明らかになっている。
拉致されて連れ去られた金大中が海中投棄されそうになったところ、海上保安庁のヘリ(映画では自衛隊機のような印象を受ける)が照射を当てて中止を促したのも事実だが、それがどういった経緯で誰が命じたのかは明らかにされていないと思う。
この映画で描かれたように、朝鮮半島がベトナム化するのを恐れたアメリカが内閣官房長官あてに圧力をかけてきたのかもしれない。
金車雲の保険行為にヒントを得て冨田も自分に保険を掛けた気でいるが、ラストシーンを見ると国家はそんなものはものともせず抹殺してしまう力を持っているということだと思う。
朴政権は日本も当初支持したし、第二次大戦における賠償金代わりに多額の援助も行った。
韓国がその資金で漢江の奇跡と呼ばれる発展を遂げた事を忘れたかのように韓国政府の日本批判は止まないし、批判が起きると日本人の韓国に対する嫌悪感も生じてくるという日韓関係の悪循環。
韓国人金車雲と日本人冨田の信頼と友情が国家犯罪に加担することで生まれたというのは皮肉である。