おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

グレン・ミラー物語

2019-05-11 06:50:47 | 映画
「グレン・ミラー物語」 1954年 アメリカ


監督 アンソニー・マン
出演 ジェームズ・スチュアート ジューン・アリソン
   ヘンリー・モーガン チャールズ・ドレイク
   マリオン・ロス アーヴィング・ベーコン
   キャスリーン・ロックハート ジョージ・トビアス
   ベン・ポラック ルイ・アームストロング
   ジーン・クルーパ バートン・マクレーン

ストーリー
若いトロンボーン奏者グレン・ミラーは新しい音楽を創り出す悲願を抱き、そのため苦しい生活を忍んでいて、彼の親友のピアノ奏者チャミイさえもグレンの目的に疑いを持つようになったが、偶然の機会にグレンの編曲した作品がベン・ポラック(自身出演)の耳にとまり、ポラックの編曲助手として採用され彼の楽団と一緒に演奏旅行に出た。
デンヴァーに来たとき、グレンは学校時代の女友達ヘレンに電話をかけ、真夜中に彼女を訪れた。
彼はヘレンとは2年間も音信不通であったが、彼女を彼の両親の家へ朝食に連れ出した。
グレンが彼女に求愛しようとしたとき、チャミイがあらわれ、グレンを仕事に連れ去ってしまった。
大衆音楽に新しい音色を入れようと努力を続けるグレンは、楽団斡旋屋のドン・ヘインズに認められたのを機にポラックの許を去り、2年間編曲に専念したが成功せず、この原因はヘレンのいないことだと悟る。
彼は直ちに長距離電話でヘレンを呼び出して結婚を申込み、彼女も承諾を与えた。
まとまった貯金が出来たとき、ヘレンはグレンにすすめて自分の楽団を組織させた。
6ヵ月後ボストンに出演することになったが、途中事故のため楽団は解散の止むなきに至り、妊娠中のヘレンも健康を害し入院してしまった。
ミラー一家の苦境を知ったボストンのポール・ルームの経営者シュリプマンは、グレンに1000ドルを提供して楽団を再編成させ、ポール・ルームに出演させた。
そのとき偶然、トランペット奏者が唇をいためたので、彼のスコアをクラリネットに書きかえて演奏させたところ、これが計らずもグレン・ミラー・サウンドの誕生となり、未来への光明が開けたのだが・・・。


寸評
僕はビッグバンドによるスウィングジャズが好きで、その中でも「ムーンライト・セレナーデ」「茶色の小瓶」「イン・ザ・ムード」などの名曲があるグレン・ミラーは超メジャーなビッグ・バンドの代表奏者である。
スウィングジャズのビッグ・バンドと言えば、カウント・ベイシー、ベニー・グッドマン、デューク・エリントンなど名前を聞いたことがある奏者がいるが、その中でもベニー・グッドマンは特別な存在である。
彼の伝記映画ではあるが、その詳細を描いているわけではない。
自分のサウンドを模索する姿が描かれているが、彼がすごく苦悩している風には見えないので明るい音楽映画となっている。
ヘレンとの恋模様、愛情物語も同時進行で描かれるが、こちらも滑稽さを感じさせる内容となっていて、ラブロマンスと見ると物足りないものがある。
支えているのはやはりヒット・メロディがタイミングよく挿入されて、ジェームズ・スチャートがグレン・ミラーを感じさせる善良なアメリカ人を飄々と演じていることである。
ヘレンのジューン・アリソンのが首筋を押さえる仕草が効果的に挿入されて微笑ましい。

ヘレンと母校を訪れた時に、グリークラブが「茶色の小瓶」を唄っていて、それにケチをつけるシーンとか、「ムーンライト・セレナーデ」が生み出されるシーンとか、あるいは「真珠の首飾り」を思い起こさせる場面とか、名曲を知っている者には楽しいエピソードが盛り込まれている。
ルイ・アームストロング本人が登場するホールに新婚早々のグレン・ミラーが新妻ヘレンと訪れる場面では、サッチモが演奏し歌い、それにグレン・ミラーたちが加わって演奏が盛り上がっていくシーンは楽しい。
音楽は万国共通で人々を幸せな気分にさせるものだと感じる。
結婚記念日に楽団員が「ペンシルバニア 6-5000」を演奏するシーンも幸せな気持ちにさせる。
途中で「ペンシルバニア・シックス・ファイブ・オ・オ・オ」と掛け声が入る曲が楽しく演奏される。
人の記憶は当てにならないもので、僕がこの作品を初見した時の記憶として「茶色の小瓶」も歌われるシーンがあったように思っていたのだが、再見するとそのシーンはなかった。
僕の思い違いなのだろうが、そんなに上手く思い違いをするものなのだろうか。 

愉快なのはイギリスでの演奏時に敵軍の爆撃を受け、近くで爆発音がし人々が避難する中で演奏を辞めず、逃げ惑った人たちから賞賛の拍手を受ける場面だ。
多分にプロパガンダを感じさせるが、実際に慰問活動はしていたから観客を納得させるエピソードではある。
グレン・ミラーは第二次世界大戦中に慰問楽団を率いて演奏にまわっていたが、大戦末期の1944年12月15日にイギリスからフランスへ向かう途中で乗っていた専用機がイギリス海峡上で消息を絶ち死亡したとされている。
原因は不明で、イギリス空軍の爆撃機が上空で投棄した爆弾が乗機に当たり墜落したとする説、イギリス軍機の誤射説、無事にパリに着き娼婦と事に及んでいる最中に心臓発作で亡くなったのを隠蔽するために行方不明にした説、乗った飛行機特有の故障によるものとする説などが取りざたされている。
映画ではそのどれとも特定せず、ミラーの死を伝えるだけのような描き方をとっていて、ヘレンは夫の死を静かに受け入れる。
名を成した男の影には才女の妻がいたという女性賛歌の映画でもある。