昭和48年5月の銀山。
リールはクローズドフェイス、ルアーはきっとトビー。こうやって見ると随分と大振りなキャストだな、親父。
親父の部屋に入ると、壁に銀山イワナと書かれた魚拓が飾ってあったのを思い出す。きっと現在とは比べ物にならないほど不便だったであろう銀山に、学生時代から30代ぐらいまでは時折り出掛けていたらしい。
この湖にはバケモノみたいな大イワナが棲むんだよ。小学生ぐらいだった私に、銀山とそこに深く潜む60、いや70センチを超えるかもしれない大イワナについて語る親父の姿は、当時の親父の年齢をいつの間にかとうに超えてしまった私にとって、すでに遠く儚い記憶となって久しい。
親父はいわゆる、上手な釣り人ではなかったと思う。あの魚拓だって、いま振り返れば決して大イワナとは呼べないサイズだった。40センチもなかったんじゃないかな。
私の記憶の中では釣り場に着くとまずそこいらに腰を下ろし、煙草に火をつけ周囲の山々だったり、眼前に広がる海を眺めている親父はとてもゆったりと、寛いでいるように見えた。そんな風だからなかなか釣り支度もせず、釣果などよりもこの流れゆく時間をただ幸福と感じられる、そんな釣り人だった。少なくとも、私の前ではそう振る舞っていた。
だからサハリンでサクラマスとイトウを釣り上げた時を除くと、親父が私の前で大物を釣った記憶はほとんどない。けれど在宅時のしかめっ面ばかりの親父とは違い、釣り場でゆったりしている親父の方が言うまでもなくずっとずっと好きだった。
平成28年 5月11日~12日
釣り馬鹿の息子はやっぱり釣り馬鹿で、私もほとんど毎年この湖に足を運ぶ。
前日まで中禅寺湖にいたのだが、私のバルサジグ85と妻のバルサジグともにレイクらしきヒットがあったものの、やり取り途中で揃ってバラシた。
中禅寺湖でもいろいろと面白いことがあったのだけれど、今回はスペースの都合で割愛させていただきたい。
11日の早朝は銀山の麓、小出の道の駅で目を覚ます。出遅れた。
奥只見山荘さんよりのんびりと出船、目指すポイントに着くと先行者がいた。この釣り人はきっと大きいの釣ってるなと、なんとなく雰囲気でわかる。帰船後判ったことだが、この釣り人は先日ブログで紹介させていただいた小久保さん、ファットで52を頭に大イワナを連発とな。
私にとってシーズン初めての銀山、手掛かりを得ようと湖上をさまよう。
とあるポイント、ビートアップ115 イエローベースアワビにガツンと喰った。この時点ではそこそこのイワナだと確信した。それにしてはずいぶん遊泳力があるな、もしかするとサクラかな。
船際まで寄せて気が付いた、レインボーだった(汗)イワナだったはずがサクラに変わり、最後はレインボーに化けた。化けるのはいいけれど、バケモノのようなイワナにはほど遠いじゃないか。
この日は雨が降ったりやんだり。イワナは時折りチェイスするものの、ヒットには繋げられず。同日に出船した皆さんがよい釣果だっただけに、レインボーだけとは残念無念。
明けて12日。
前日から降り続いた雨も夜半のうちにやむと、確かに天気予報では言っていた。だが宿から一歩出ると、北寄りの冷たい強風に横殴りの雨。
妻が笑いながら言う、あなたどれだけ雨男なの。雨具のフードを目深にかぶり、アハハと力なく笑う。
スタートから小一時間が経過してなんとか雨は上がったけれど、この日はポイント選択はもちろん、攻め方にも一工夫が必要だった。
なんとなくミノーを投げていればスーッとイワナが追ってきて、ガツン。そんなことはまず絶対に起こり得ない日並み。よくあるでしょ。
考えて、絞り込んでようやく・・1本目。聖地、銀山のイワナ。
次いで2本目、このパターンできっと間違いないな。
3本目もキャッチ。こうやって書くと入れ食いの印象になるのかな、実際はもちろんそんなことはなくて、忘れたころにドン。
だからずっと神経を集中させておかなくてはならない。ヒットのタイミングは本当にシビアで、一瞬だったから。
そうそう、76MTLのプロトは銀山の大イワナ狙いに最高にマッチしていた。狙い通り、70㎜~115㎜のミノーを幅広く操るのに凄くいい。ロクマル掛けても、もっと凄いの掛けても大丈夫。それでいて軽く操作性もよいロッドに仕上がりつつあると確認できたのは、この日もっとも大きな収穫だったのかもしれない。
3本目のキャッチを見届けたバックシートの妻が言う。私も釣りたい!
しまった、忘れてたわけじゃないけど。
それからはしばらくの間、彼女の釣りに専念する。ロッドは置いて、エレキを工夫しながら踏む私の横に立ってもらいながら。
普段は放りっぱなしだけれど、絶対に釣らせるぞと思ったら私は途端にうるさくなる。やれそんなキャストじゃイワナは喰わない、サミングができていない、着水とトゥイッチのタイミングはこうだ、云々・・ゴメン。
うるさい旦那に耐えながらキャストを続けていた甲斐があったか、段々とキャストも決まり、雰囲気が出てきたなと感じたその時、ヒット!
レヴェルトラウト76MTがグイグイ曲がる、あとは寄せるだけ。
のはずが、直後に湖上に響く叫び声。バレたぁ!グゥ。
それでも彼女めげずに獲った。私の呪縛から逃れて、バックシートに戻ってからのキャッチ(汗)
早くネット!何してるの!
ネットを手に、水中でうねるイワナを待ち構えながら冷や汗をかいた。これネットミスしたら一生恨まれるぞ。
彼女にとって聖地、銀山での初イワナ。42㎝ぐらいだけれど十分なメモリアルワンだね。おめでとう、ガッチリ握手。
我ながら変な夫婦だと思うけど、これで親父の銀山、俺の銀山に妻の銀山も加わった。
イケスもようやく賑やかになってきた。一本釣った彼女は機嫌よくイケス内のイワナの水中写真に夢中。
朝とは打って変わり、晴れ晴れとした姿を見せる銀山。冷たい雨が吹き付ける銀山は辛いけれど、みなこんな銀山が見たくて遠路を通うのだ。
奥只見山荘の若旦那、隼人さんと。彼らが中心となって、この素晴らしいフィールドを後世に残してゆくのだ。
銀山平に灯がともる。あちこちから乾杯の声が風に乗って聞こえてきそうな、幸せな夕暮れ。
親父、あの写真の日は大イワナに出逢えたかい。
ついぞ一緒することはなかった銀山。不肖の息子はこれからも大イワナの幻を追い求めることとするよ。
*銀山タックル
ロッド:レヴェルトラウト56MT(ショートレンジ攻略)、62MT、76MT、76MTL(プロト)
ステラ2000にはナイロン6lb、3000にはPE1号にナイロンリーダー12~16lb
もしくはナイロン直結で10lb
ミノー:70MDS、70㎜シンキング、60MDS、ソリスト各種、ファット各種、ビートアップ各サイズ
偏光サングラス:宅配のめがねやさん制作 TALEXイーズグリーン、アクションコパー
photo&report by 小平