山梨ではそもそも日川での渓流魚調査が大きな目的でした。
知人にこの日川を愛する釣り人がルアー、フライ問わず多くいて、声をかけてもらった次第です。普段は神奈川の丹沢で同様の渓流魚調査に参加している自分としては、生息状況の差など興味深く、楽しみにしていました。
丹沢での調査は基本的に定点観測なので、短い調査区間を午前・午後の二度、重点的に調査します。「渓畔林の状態を知ること」がそもそもの目的ですから、捕獲した渓流魚の食性も調べますし、落下昆虫、水生昆虫などの採集もあり、短い距離に多くの時間を費やします。
それに比べて今回の日川は渓流魚の捕獲と簡単な測定、標識魚としてアブラビレのカットをするだけが目的なので、非常にスピーディー。テンポよく渓魚を捕獲していきました。
計測の様子。
ここ日川で平均と思われるアマゴ。
同じく平均サイズのイワナ。15~16cmですね。
なんとアマゴとイワナで計334匹を捕獲、計測しました。グラフに注目してください。わりと中型が採取しやすい調査方法ではあるようですが、大型魚がいかに貴重であるかがわかると思います。334匹のアマゴ、イワナのうち30cmを越えたのはたった1匹だけでした。
皆さんはどのように感じますか。
調査地点です。距離にして415m。ざっとの調査でこの密度、驚きです。一度の調査でおよそ30%が捕獲できると言われているので、およそ1.000匹の渓魚がこの地点に棲息していると推定されます。
手早く計測などを終え、その場でリリース。1匹も死なせることのない素晴らしいチームワークでした。
今後、日川では標識魚が釣れる割合からさらに正確な生息数の把握などの調査が行われます。お盆ぐらいで打ち切りです、興味のある方はペンションすずらんまでどうぞ。オーナーがいろいろ話をしてくれると思います。
ここはダム下なのですが、「日川については大水を防ぎ水量を安定させ、稚魚をとどまらせることに成功しているのでは。」ここ日川の峡東漁協の組合員でもある若林氏は日頃からこのように言っていましたが、まさにそれを裏付けるデータでした。
渓畔林の状態の良さも日川の特徴と感じました。広葉樹の林は渓流魚の餌となる多くの虫を供給しますから。
また調査エリアには堰堤がまったくなかったこと、ここがもっとも大きなポイントでしょう。もちろん日川にもいくつかの大型堰堤があります。それでもその流程で仮に1kmであっても堰堤のない区間を保存できれば、これだけの渓流魚が棲息できるという紛れもない事実をデータが示してくれました。
調査によって数字で裏付けすることの重要性もあらためて感じましたね。釣り人の世界では様々なことが誠しとやかに、なかば常識化しています。これらは本当なのでしょうか。
一例ですが`釣りで釣れる渓流魚はたった1%`と聞いたことはありませんか。私はよく耳にしてきた言葉ですが、これはあながち間違いではないのかもしれませんよ。
約1.000匹が生息していると推定される400m強の区間で、釣りのスタイル、天候など様々な条件を平均化した上で、我々の相手をしてくれる魚は果たしてどのぐらいでしょうか。他の99%はなぜ釣れないのでしょうか。釣れなければ`魚がいない`と言いがちな我々ですが、いないのではなく相手をしてもらえないんです。これは腕のせいでしょうか。釣り道具のせいなのでしょうか。
理由は様々あるでしょうけれど、私はあくまでも個人的ではありますが`渓流の状態`に最大の理由がある気がしてなりません。時々のコンディションではなく、年単位の長期にわたる川の状態のことです。
あらためて感じる渓畔林保持の重要性。大水は渓流魚の流失を招きますが、渓畔林がしっかりしていればかなり防げるはずです。
痩せた山から流失した砂に埋まり、とうに機能していない多くの堰堤の存在。そもそも、渓流魚は流されようと堰堤がなければ戻ってこられるのです。
機能不全の堰堤ゆえ砂に埋もれてしまった岩々、付き場を失った渓流魚はどのような行動を取れば、大雨やカワウ、釣り人といった天敵から身を守れるのでしょうか。
餌が豊富で水が安定していれば魚は想像以上に多く生息できる。密度が濃すぎても大型個体に育ちにくく、様々なプレッシャーから逃れることに汲々としてしまう。
せっかくの貴重な`資源`。もっと活かしたいですよね、あんなことやこんなことはできないものか。多くのことを考えさせられた調査でした。
調査には特別採捕許可という、県による許可が必要です。神奈川では私もこの許可のもと、調査に参加しています。
Photo&Report by 小平&調査参加の皆さん