あの尾根を越えてゆけ、なんて書くとカッコいいけど、現実は超超超・・厳しかったお話し。
伝聞その壱。その伝説の谷には大きなヤマメだかアマゴだか、イワナだかがうようよ棲んでいる。釣り人伝説あるある。
伝聞その弐。伝説の谷に降りるには山をひとつ越え、尾根を越え、下らなければならない。もちろん林道も登山道もなく斜面の直登だ、頼りになるのは獣の足跡のみ。
地図読みする。行程3~4時間って聞いたけどホント?傾斜もけっこうありそうだぞ。でもジモティーがそう言うんだから、と信じてパッキングした。野営の支度に飲食物、釣り道具etcで僕の60リットルリュックは20kg越え。人がしっかり行動できる許容重量は体重の3分の1まで、と記憶していた。大丈夫、余裕ある。
この日の最高気温予想は37℃。登山が趣味であちこち踏破してきたFさん、うちのプロスタッフ岩崎さん、僕の3名。いざ出発、斜面に取り付いて1時間で全員が気がついた。
延々と続く急斜面、これは話と違うぞ。GPSで確認しつつ登るが、休憩を挟むと1時間で100~150mの高度を上げるのが精一杯。最初の尾根までに4~5時間はかかるペース。
これ、まずいだろう。ここで早々に荷物のデポを決める。ビールだワインだ、デポするには実に惜しいが、背に腹はかえられない。
最初の尾根に辿り着くまで、実際に4時間かかった。かなり足を使ってしまったが、まずはひと安心。すぐ向こうの山頂への縦走に移る。この縦走に1時間半、ピークからいよいよ反対側の谷へと下る。
まずは大尾根を下る。尾根を渡る風が最高に心地よいが、すでに足が張っていて下る方がきつい。
途中からは90度向きを変え、谷へと繋がる痩せ尾根に入る。この痩せ尾根がきつかった。切り立つ左右の斜面、デポしても20kgほどある荷物は後悔先に立たず。こっそり話すが、僕は伝説の谷で大イワナとの写真を撮りまくろうとの目論見から、リールを3台もリュックに突っ込んできていたのだ!
岩崎さんの足が攣り始めたらしい。登りと下りでは使う筋肉が違うからね。普段から空手で鍛えている彼だが、瞬発系の筋肉と持続力あるそれと、また違うんだねぇ。
大事に至る前にこれまで以上に慎重に下るとともに、途中からあまりの急斜面に持参した50mトラロープを出し、まさに一歩一歩下った。ピークまで戻って泊して帰る選択肢も話に出たけれど、下の谷はパラダイスと思えば、ねえ。
予想タイムを遙かに超え、9時間半をかけて無事谷へと着。マジきつかった。
岩崎さんがデポせず、最後まで頑張って運んできたビールが3本だけあって、乾杯。たまらん、人生で一番うまいビールだ。
ひと息入れて、さあ伝説の谷を釣ろう。
あれ・・大物ウジャウジャのはずが、魚影がない。なくはないけど、とっても薄い。先行した岩崎さんが20cmぐらいのをキャッチしたが、なんとなんとこれで終了。
地図で見るより多い堰堤、締まった川底、隠れ家となるような大石もほぼなく、渓流魚にとってすでに厳しい環境の谷のようだ。残念無念・・
スキットルに入れてきたウィスキーをちびちびやりながら、夜の宴もほどほどに、みなで明日の帰路を案じる。
来たルートをそのままそっくり戻るため、足を残しておかなくてはならず、翌早朝の釣りは中止とした。
寝転べば、星空。家族に会いたいなーって思った。
ぐっすり寝て6:00起床、朝飯だけ食べてすぐに撤収~17:00無事に下山。途中でデポした荷物も回収。ルートがわかっている分、少し楽だった。
冷静に振り返れば、3人ともケガ無く下山できたのは幸運なこと。
山中での事故やケガはいきなりやってくる。不意に。
僕は山中で肩の脱臼や、ふくらはぎ肉離れなどの経験があるから、ケガを負って下山するしんどさは骨身に染みている。
地図読みの甘さと伝聞を信じたがゆえに、厳しさに不釣り合いの重量を背負うことになった、これに尽きる。甘かったの。
それにしても釣り運貯めたなぁ。
かくして、伝説の谷はやはり伝説として人々の記憶の中だけに生き続けるのである(泣)。
リュック下ろして休憩中。何かに捉まっていないと休憩にならない急斜面。
あらためて写真で見ると、40度ぐらいありそう。
水はできるだけ多く準備して、さあ帰ろう。
登山靴はボロボロに。身代わりになってくれたのか、ありがとう。
photo&report by 小平