ささやんの週刊X曜日

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

さあ、チャンスだ!

2015-08-24 20:58:59 | 日記
 チャンスは貯蓄できない(樋口廣太郎)。

 実業家のこの言葉には、どのようなメッセージが込められているのだろうか。ビジネスの世界には縁のない生活を送ってきた私であるが、この言葉を跳躍台にして、読者諸賢とともにしばらくこの未知の世界に想像の翼を広げてみたい。
 この言葉は、まず次のように敷衍することができるだろう。チャンスは努力の積み重ねによって増やすことができるが、それは財物のように蓄えることのできるものではない、と。機会はいくらあっても、その好機にしっかりと捕まえなければ、それは逃げ去ってしまって二度と戻ってくることはない。しかも、それが以後の人生の成り行きを決定づけるような出来事になってしまうから、その対処は厄介なのである。好機は好機に適切に対処してこそ好機となる。なにやら同語反復じみた物言いだが、厄介なだけに一考の価値はありそうである。
 
 厄介なのは、それが好機かどうかはずっと後になってからでないとわからないことである。たとえばあなたが若手のセールスマンだったとしよう。あなたの営業努力が実り、好成績を上げたので、あなたは営業部長に夕食に誘われることになった。あなたは「これは出世のチャンスだ!」と喜んでこの誘いに応じることだろう。あなたが慎重な性格の持ち主なら、社内の激しい人事抗争を考慮し、「落ち目の部長派と見られたら、出世の妨げになるかも知れないからなあ」と考えて、この誘いを断るかも知れない。部長の誘いは、あなたにとって出世のチャンスではなかったことになる。
 
 
 あなたの判断が正しかったかどうかは、人事抗争の帰趨が決着した後にならないとわからない。人事抗争に部長派が勝てば、あなたは「反部長派」の態度をとったことを問題にされ、冷や飯を食わされるに違いない。
 これで事が収まらないのが人生の面白いところである。人間万事塞翁が馬。人事抗争に勝ったことで専務取締役に昇進した部長は、社長の身代わりとなり、贈賄の容疑で窮地に立たされていた社長の泥をかぶらざるを得ないことになるかも知れない。そして数年間、懲役刑に服する破目になるかも知れない。そうなれば反部長派の態度を貫いたあなたは、将来のホープとして白羽の矢を立てられるだろう。

 もっとも、あなたがこうして手に入れた課長の地位も、それがストレスの種になり、胃がんの原因になったとすれば、あなたに立てられた白羽の矢は悪い意味を持つことになるのだが。
コメント
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