ささやんの天邪鬼 座右の迷言

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

希望

2015-08-26 14:32:37 | 日記

 問題 次のことばのうち、(1)18世紀のドイツの詩人シラーが言ったことばはどれか、また、(2)21世紀の青年漫画『ジョジョの奇妙な冒険』に出てくることばはどれか。それぞれ一つずつ選びなさい。
 
 
 (a)希望さえあれば、どんな所にでもたどりつける。
 (b)太陽が輝くかぎり、希望もまた輝く。
 (c)希望は強い勇気であり、あらたな意志である。
 
 正解を示すと、(1)は(b)、(2)は(a)である。ちなみに、(c)は、16世紀に宗教改革で活躍したドイツの神学者マルティン・ルターが述べたことばである。
 
 それはともかく、このように〈希望〉に関する言説が歴史の随所に現れ、名言集に取り上げたりするのは、人間が生きていくために〈希望〉を必要とする存在だからである。
 
 卑近な例に身をおいて考えてみよう。仮にあなたに三歳の娘がいて、その娘が拡張型心筋症のような重い心臓病に罹っていることがわかったとしよう。
 このままではもうわずかしか生きることができず、延命のためには心臓移植が必要だが、それは不可能に思える。海外まで視野に入れても、臓器の提供者が現れる可能性は極めて低いし、海外の医療機関で移植手術を行うとなれば、莫大な費用が必要になるからである。

 ところが最近、厚生労働省の専門家会議が、重い心臓病の子供に使われる補助人工心臓の装着を承認し、その埋め込み手術に保険が適用されることになった。費用の負担が大幅に軽減されることになったのである。

 さて、あなたはわが愛娘に対して、どちらの道を選びとるだろうか。
 
 海外で心臓移植を待つ道と、
 国内で補助人工心臓を装着する道とーー。
 
 もちろん、後の場合にも問題がないわけではない。新聞の報道によると、補助人工心臓は、それを装着すれば血液の循環が改善して、両親が驚くほど元気になったとの四歳女児の治験の症例もあるが、他方では、この装置の内部に血栓ができるため、その装着には脳梗塞を起こすリスクがあるともいう。
 
 だが、それもこれも手術を受けた後の話である。心臓移植だって、手術であるからにはそれなりのリスクはあり、感染症や拒絶反応などの可能性を考慮に入れないわけにはいかない。そうしたリスクを避けようとするなら、手術を受けなければよいだけの話だが、それでは元も子もない。
 海外での移植手術は、手術を受けられる可能性がゼロに等しいといってよいから、あなたに迫られた選択は、

手術を受ける道を閉ざすか、
リスクを伴う手術を受けさせるか、

の選択だということになる。前者の選択がもたらすのは、(ほぼ確実な)娘の死である。

 あなたは前者がもたらすこのような結果を考え、後者の道を選ぶだろう。この時あなたの選択の基準になっていたのは「娘の(少ないながらも)生存できる可能性」であるが、この可能性こそ〈希望〉と呼べるものである。
 
 〈希望〉とは、未来の輝きが現在に向かって開かれていることだ。あなたは〈希望〉を選び取ったのである。あなたは〈希望〉が太陽のように、いつまでもその輝きを失わないで欲しいと願うはずだ。
コメント
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