一人の髪の毛の長い背の高い細身の女性が机に座り、ノートパソコンを叩いています。
彼女の名はレイカ(31)・・・とある雑誌の取材記者です。
「えー、それでは、タケルさん、夜の日本学「戦国武将考察編」・・・お願いします。今日は誰について語ってくれるんですか?」
と、レイカはノートパソコンを叩きながら、赤縁のメガネを手で直し、こちらを見つめます。
「うん。そうだな・・・今日も前回の続きと行こう・・・「羽柴秀吉さん」を続けて見ていこうよ」
と、タケルは話し始めます・・・。
さて、今日の「夜の日本学」はじまり、はじまりー・・・・。
「秀吉さんの問題点は・・・まあ、これは秀吉さんが結果的に織田家の天下・・・まあ、秀吉さんはそれは信長個人の天下であり、その天下を持てる有資格者は」
「唯一「絶対の知恵者」であること・・・と言うことを理解していたから、決して織田家の天下を簒奪したわけじゃない・・・こう考えていたんだな」
と、タケルは言葉にする。
「秀吉が口で柴田勝家に負けるわけがない・・・と「軍師官兵衛」でも語られていましたが・・・結局、「知恵者」とは口で負けないオトコ・・・と言うことになるんですね」
と、レイカ。
「「知恵者」は常に思考している・・・しかし、「知識者」は自分の持っている知識・・・と言ったってせいぜい数百キロバイトのテキスト情報程度」
「・・・そこから、目の前にある現象を理解しようとするから、自然、見たものに対してただ言葉にする程度しか出来ない・・・」
と、タケル。
「しかし、「知恵者」は思考の度に独自な知恵を創りだしてくるから・・・現象の裏側にある原因を見抜くことが出来る・・・でしたね、タケルさん」
と、レイカ。
「そういうことだ・・・それに羽柴秀吉さんは、山崎の戦いを経験している。戦の勝ち方を肌で知っていた・・・これはデカイよ。それこそ映像情報や」
「戦場の勘のようなモノまで合わせれば、優に1テラバイトクラスの情報を握っていた事になるだろう。実際、賤ヶ岳の戦いでは、わざと隙を見せた羽柴秀吉の作戦に」
「乗せられ、軍勢を繰り出し戦っていた所で、電撃作戦的に帰陣し、その勢いで持って柴田勝家側を破り・・・その状況を見た前田利家らの裏切りも手伝って」
「柴田勝家側は総崩れになっている・・・全身知恵の塊のような羽柴秀吉さんにすれば、「権六もさすがによくがんばったな」と上から目線で言ってもおかしくない状況だよ」
と、タケル。
「その秀吉さんは・・・先日の「軍師官兵衛」でも触れられていましたが権威の担保先として公家のシステムを乗っ取る事を画策していました」
「前関白の近衛前久の猶子となり、近衛家の一員として、関白となったのです」
と、レイカ。
「この時、秀吉は近衛前久と「自分が関白をやった後に関白の地位を近衛前久の子、近衛信輔に譲ること」と言う約束を交わしたのですが」
「この約束は秀吉によって守られることはありませんでした。秀吉はその後、天皇から「豊臣」の新たな姓を下賜され、太政大臣に就任しています」
「これは藤原氏が藤原良房以来700年にわたって続けてきた藤原氏の摂政関白が停止させられると言う、異常事態でした」
と、レイカ。
「秀吉はさらに「関白はこの秀吉の跡継ぎが代々世襲していく」ということまで主張していましたから・・・武家関白制と言いますけど」
「関白を武家の棟梁と位置づけ、公家及び全国の武士を一元的に統率する、秀吉の策でした」
と、レイカ。
「日本ではやってはいけないタブーがいくつかある。もちろん、天皇制に手を触れてはいけないと言うのが日本最大のタブーだけれど」
「日本人にはそれぞれ生きる世界と言うものが付きものだ・・・この時、秀吉がやった事は公家の世界に武家であるにもかかわらず入り込み」
「公家が大切にしてきた先例主義を破壊すると言う暴挙・・・これをしてしまった事が公家達の静かな怒りを買い・・・豊臣家が短期的に滅亡する遠因となっているんだね」
と、タケル。
「それって・・・今調べていて気づいたんですけど、秀吉って当初平家を名乗っていたんですよね・・・つまり、秀吉は信長から平清盛の存在を教えられており」
「その知識が・・・武家であるにも関わらず、武家として太政大臣になる・・・と言った日本のタブーを犯すきっかけになったと考えられるんです」
と、レイカ。
「ほう。確かに武家で太政大臣になった例は・・・平清盛と豊臣秀吉以外に無いか・・・これは面白い共通点だな」
「そうか。秀吉は信長に平清盛の偉大さを教えられていたんだ・・・ま、熱狂的な平清盛フリークの信長の事だ・・・お気に入りの家臣、秀吉にも」
「そのすごさを話していたんだろう・・・その知識を利用し、秀吉は太政大臣になったのか・・・ま、公家にすりゃ、悪しき先例はあったわけだ・・・」
と、タケル。
「悪しき先例?」
と、レイカ。
「だって、そうだろう?平清盛は武家であるにもかかわらず、公家の場である朝廷に乗り込み、太政大臣になった末・・・自身こそ、畳の上で死ねたモノの」
「その生前の行いがすべての日本人にとっての「負のエネルギー」と化し・・・それが壮大に平家に戻ってきて、平家は西海の藻屑となって消えた・・・」
と、タケル。
「レイカちゃん・・・平家と悪しき先例を同じにした豊臣家はどうなった?」
と、タケルはしたり顔でレイカに問う。
「秀吉こそ、畳の上で死ねたモノの・・・その生前の行いが「負のエネルギー」と化し・・・それが壮大に豊臣家に戻ってきて、豊臣家は、大阪の地に」
「それこそ、燃えくずとなって消えた・・・同じじゃないですか!」
と、レイカ。
「豊臣家の場合は、秀吉が、生前「ハッピーエナジー」を与えて慈しみ育てた、豊臣恩顧の武将の存在があった・・・だが彼らは関ヶ原の戦いで、同士討ちを演じ」
「その漁夫の利を得た徳川家康に秀吉が作った豊臣家の権力が継承されたと見るべきだろうね・・・」
と、タケル。
「それがあったとしても・・・結局、豊臣家の将来は、秀吉が平清盛の悪しき先例にならった事が・・・豊臣家の滅亡の遠因になった・・・」
「秀吉のやった事こそが・・・悪しき先例のモノマネであり、豊臣家の将来も決めてしまった・・・そうなるんですね?」
と、レイカ。
「そ。僕は平清盛の先例に習った秀吉が自ら豊臣家の滅亡する将来を作った・・・なんて主張を今まで聞いたことがないから」
「このあたり、面白い指摘になったと思うね・・・」
と、タケル。
「つまり、この日本においては、いちゃいけない世界に入っていってはいけないタブーがあると言うことさ」
「公家には公家の住む世界が必要だし、武家には武家の住む世界があると言うことだ・・・その垣根を超えたら暴挙・・・日本のタブーとして、やっちゃいけないことなんだ」
と、タケル。
「その結果が、平清盛の平家だし、豊臣秀吉の豊臣家の最後に現れているんですね・・・」
と、レイカ。
「もちろん、それが悪しきタブーだと知っていた徳川家康は、武家として征夷大将軍になり、幕府を開き、豊臣家が滅んだ、元和元年(1615年)禁中並公家諸法度を作り」
「公家官位と武家官位の完全分離を実施している・・・ま、それが正しい日本でのあり方と言ったところだろうね」
と、タケル。
「秀吉は日本人としてやっちゃいけないことをしたから・・・豊臣家は後年滅んだんですね・・・何事にも理由ってあるものなんですね・・・」
と、レイカ。
「ま、それが今回の結論だろうね」
と、タケル。
「タケルさん、今日のお話も面白かったです・・・豊臣家と平家・・・同じだったんですね」
と、レイカ。
「ま、結論も出たようだし、お酒、行こうか、レイカちゃん」
と、タケル。
「はい。今日は、たくさん飲みましょう!」
と、レイカは目の笑ういい笑顔で、赤縁のメガネを外し、髪を解いた。
(おしまい)
しかし、平家と豊臣家が同じだったとは・・・面白い結論になりましたね。
というか、日本人はタブーにだけは触れちゃいけません。
やっちゃいけないことってあるんですねー。どこの世界にも・・・。
ま、そんな事忘れて、今日は、楽しく飲みましょう!
ではでは。