「どうしてオレが?」
まるで突き放すかのようなその亮の言葉に、思わず目を丸くする雪。
しかし亮は自身の態度を変えることなく、その理由を淡々と説明し始めた。
「おい、オレがもう店辞めたってのは知ってんだろ?一度辞めたらフツーもうグッバイだろーがよ」
「はい?いえあの‥それは分かってますけど‥私が言いたいのは、少しの間でも‥」
「あーもういいよ。つーかお前んちの店な、給料安すぎんだよ」
降って湧いたようなその亮の言葉に、雪は驚きのあまり言葉を失った。
「な‥」「だから新しいバイトも見つかんねーんだって」
「ぶっちゃけ、あんな雀の涙ほどの給料で誰がもう一度働きたいと思うよ?
お前だってイヤだろ?」
ペラペラと喋る亮は、まるで今までと別人のようだった。
というか、辞めた理由が給料云々だなんてまるで寝耳に水なのである。
「いきなり‥どうしちゃったんですか?
河村氏、時給のことで抗議したことなんてなかったじゃないですか」
「てか最初にそれを了承して、オッケー出したのは河村氏でしょ?!それに最低時給は軽く超えてますよ?!
しかも今までバイト抜けてピアノ弾きに行ってたのも、配慮してたじゃないですか!」
「私は、うちの店のバイトは悪く無いって思うんですけど!」
「いや配慮もクソも‥」
正当な雪の抗議。
しかし亮はそれを聞いても、面倒くさそうに答えるだけだ。
「はー‥現実が分かんねぇガキだなぁ。
社長がどんだけクソだったとしても、とにかく金払いが良い所はサイコーよ」
「なぁ?」
亮はそう言いながら、雪の目の前に自身の顔を寄せた。
思わずビクッと身構える雪を、舌打ちをしながら見下ろす亮‥。
雪は相変わらず戸惑っていた。
しかし亮はそんな雪の様子に構わず、先ほどから続けるその主張を尚も口にする。
「つーか給料が低いから辞めんのはオレの勝手だろ?どーしてお前がケチつけてくんの?イミフだっつーの」
「つーかお前、仕事続けろって頼みに来た人間の態度にゃ‥」
「私がただバイト続けて欲しいって言いに来ただけだと思います?!」
雪は亮の方を真っ直ぐに見ながら、遂にその本音を口にした。
今までと違うその態度を受けて、思わず亮は黙り込む。
雪は声を上げながら、彼が自身や赤山家から背を向けるその理由を知ろうとした。
「本当に分からないんですか?!」
「どうしてわざとそんな冷たい態度取るんです?!」
そう叫ぶ雪を、亮は半身を残したまま振り返ってじっと見ている。
雪はずっと心に抱えていたその疑問を、不器用なくらい真っ直ぐに彼にぶつけた。
「私ともそうですし、うちの家族ともそうです!
社長と従業員じゃなくて、人と人との立場で話をしてるんじゃないですか!」
「あーったく!ひつけぇなぁ!!」
すると今度は亮が、大きな声で雪の言葉を遮った。
亮は元来の自信過剰な態度を全面に出して、赤山家への答えを口にする。
「おい、オレも自分が人気者だってのは自覚してんだ。
お前ら家族が勝手にオレに入れ込んじまうのは分かるが、オレのせいじゃねーよ。
オレはそれ分かって上手くやってんの。今までもこれからもな」
亮はうざったそうに溜息を吐きながら、わざわざ敬語でこう問うた。
「つーかアンタ、何が不満なんすか?」
「今何て‥」「あーもういーわ」
問い返す雪の言葉にも取り合わず、一方的に別れを告げる亮。
「オレ行くわ。新しい仕事あるし、もうそっちには戻んねーから。
二度とグチグチ言いに来るんじゃねぇぞ。面倒くせぇからよ」
「あーあ今日のレッスンはパーに‥」
そう言って去ろうとした時だった。
冷静なまでのその声が、亮の後方から聞こえて来たのは。
「そんな言い方しか出来ないんですか?」
亮は後ろを向いたまま、そのリンと響く声を聞いた。
「何かあったんでしょう?」
強い眼差しで亮を睨む雪。意図的に隠された真実を、探り当てようとする言葉が続く。
「父さんも、母さんも、蓮も!
皆河村氏が居なくなるの寂しく思ってるのに!」
亮の脳裏に、赤山家の面々の顔が浮かんだ。それでも彼は動かない。
「理由も何も言わないで、新しいバイトも探さずに突然辞めるって店を出て!」
「どうしてバイトだけじゃなくて、縁まで切るような態度取るんですか?!」
雪は家族の思いと共に、胸の中に満ちる感情のままに言葉を続けた。
「河村氏は私たちに対して、何の感情も無かったんですか?!」
すると一つの単語が、亮の胸に響いた。亮は無意識に、その言葉を口にする。
「感情?」
雪はそれを肯定しながら、今まで彼と構築したその関係性を改めて言葉にした。
「そうです。喧嘩したわけでも何か問題があったわけでもない。
あんなに上手くいってた関係を、こんな風に断ち切る必要は無いじゃないですか。
父も母も行ってほしくないって本気で思ってるんですよ!」
「どうしてこんなことになっちゃったんですか?」
怒気を含んだその言葉が、だんだんと哀愁を帯びたトーンに変わる。
亮は何も口にしないまま、ただ雪の言葉を聞いている。
「私だって‥」
「蓮と同じく、河村氏のこと家族みたいに思ってたし‥。
河村氏だって‥本当の家族とまではいかないだろうけど、
うちに愛着感じてくれてるんだろうなって思ってましたよ」
雪の言葉の節々から滲み出るのは、寂しさだった。
「そうじゃなかったんですか?」
何も言わずにただ背を向けた彼に対して覚える寂しさ。
まるで伸ばしていた手を振り払われたかのような、圧倒的なそれを。
しかし雪は確信していた。
そう感じているのは、自分だけじゃないということを。
「本当になんとも思ってなかったんですか?」
真実を突きつける雪の言葉を聞いて、亮は思わず振り返った。
演じていた悪役の仮面が、その言葉の前に剥がれていく‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼との対話(2)ー悪役ー>でした。
話し合い続きますね~。
亮の給料云々を主張する悪役キャラは、雪の発した「感情」という言葉の前に崩れそうです。
押し込めていたその気持ちが、どうここから発展するのか‥?!
次回は<彼との対話(3)ー虚偽ー>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
極力使われないようお願いします!
人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ
引き続きキャラ人気投票も行っています~!
まるで突き放すかのようなその亮の言葉に、思わず目を丸くする雪。
しかし亮は自身の態度を変えることなく、その理由を淡々と説明し始めた。
「おい、オレがもう店辞めたってのは知ってんだろ?一度辞めたらフツーもうグッバイだろーがよ」
「はい?いえあの‥それは分かってますけど‥私が言いたいのは、少しの間でも‥」
「あーもういいよ。つーかお前んちの店な、給料安すぎんだよ」
降って湧いたようなその亮の言葉に、雪は驚きのあまり言葉を失った。
「な‥」「だから新しいバイトも見つかんねーんだって」
「ぶっちゃけ、あんな雀の涙ほどの給料で誰がもう一度働きたいと思うよ?
お前だってイヤだろ?」
ペラペラと喋る亮は、まるで今までと別人のようだった。
というか、辞めた理由が給料云々だなんてまるで寝耳に水なのである。
「いきなり‥どうしちゃったんですか?
河村氏、時給のことで抗議したことなんてなかったじゃないですか」
「てか最初にそれを了承して、オッケー出したのは河村氏でしょ?!それに最低時給は軽く超えてますよ?!
しかも今までバイト抜けてピアノ弾きに行ってたのも、配慮してたじゃないですか!」
「私は、うちの店のバイトは悪く無いって思うんですけど!」
「いや配慮もクソも‥」
正当な雪の抗議。
しかし亮はそれを聞いても、面倒くさそうに答えるだけだ。
「はー‥現実が分かんねぇガキだなぁ。
社長がどんだけクソだったとしても、とにかく金払いが良い所はサイコーよ」
「なぁ?」
亮はそう言いながら、雪の目の前に自身の顔を寄せた。
思わずビクッと身構える雪を、舌打ちをしながら見下ろす亮‥。
雪は相変わらず戸惑っていた。
しかし亮はそんな雪の様子に構わず、先ほどから続けるその主張を尚も口にする。
「つーか給料が低いから辞めんのはオレの勝手だろ?どーしてお前がケチつけてくんの?イミフだっつーの」
「つーかお前、仕事続けろって頼みに来た人間の態度にゃ‥」
「私がただバイト続けて欲しいって言いに来ただけだと思います?!」
雪は亮の方を真っ直ぐに見ながら、遂にその本音を口にした。
今までと違うその態度を受けて、思わず亮は黙り込む。
雪は声を上げながら、彼が自身や赤山家から背を向けるその理由を知ろうとした。
「本当に分からないんですか?!」
「どうしてわざとそんな冷たい態度取るんです?!」
そう叫ぶ雪を、亮は半身を残したまま振り返ってじっと見ている。
雪はずっと心に抱えていたその疑問を、不器用なくらい真っ直ぐに彼にぶつけた。
「私ともそうですし、うちの家族ともそうです!
社長と従業員じゃなくて、人と人との立場で話をしてるんじゃないですか!」
「あーったく!ひつけぇなぁ!!」
すると今度は亮が、大きな声で雪の言葉を遮った。
亮は元来の自信過剰な態度を全面に出して、赤山家への答えを口にする。
「おい、オレも自分が人気者だってのは自覚してんだ。
お前ら家族が勝手にオレに入れ込んじまうのは分かるが、オレのせいじゃねーよ。
オレはそれ分かって上手くやってんの。今までもこれからもな」
亮はうざったそうに溜息を吐きながら、わざわざ敬語でこう問うた。
「つーかアンタ、何が不満なんすか?」
「今何て‥」「あーもういーわ」
問い返す雪の言葉にも取り合わず、一方的に別れを告げる亮。
「オレ行くわ。新しい仕事あるし、もうそっちには戻んねーから。
二度とグチグチ言いに来るんじゃねぇぞ。面倒くせぇからよ」
「あーあ今日のレッスンはパーに‥」
そう言って去ろうとした時だった。
冷静なまでのその声が、亮の後方から聞こえて来たのは。
「そんな言い方しか出来ないんですか?」
亮は後ろを向いたまま、そのリンと響く声を聞いた。
「何かあったんでしょう?」
強い眼差しで亮を睨む雪。意図的に隠された真実を、探り当てようとする言葉が続く。
「父さんも、母さんも、蓮も!
皆河村氏が居なくなるの寂しく思ってるのに!」
亮の脳裏に、赤山家の面々の顔が浮かんだ。それでも彼は動かない。
「理由も何も言わないで、新しいバイトも探さずに突然辞めるって店を出て!」
「どうしてバイトだけじゃなくて、縁まで切るような態度取るんですか?!」
雪は家族の思いと共に、胸の中に満ちる感情のままに言葉を続けた。
「河村氏は私たちに対して、何の感情も無かったんですか?!」
すると一つの単語が、亮の胸に響いた。亮は無意識に、その言葉を口にする。
「感情?」
雪はそれを肯定しながら、今まで彼と構築したその関係性を改めて言葉にした。
「そうです。喧嘩したわけでも何か問題があったわけでもない。
あんなに上手くいってた関係を、こんな風に断ち切る必要は無いじゃないですか。
父も母も行ってほしくないって本気で思ってるんですよ!」
「どうしてこんなことになっちゃったんですか?」
怒気を含んだその言葉が、だんだんと哀愁を帯びたトーンに変わる。
亮は何も口にしないまま、ただ雪の言葉を聞いている。
「私だって‥」
「蓮と同じく、河村氏のこと家族みたいに思ってたし‥。
河村氏だって‥本当の家族とまではいかないだろうけど、
うちに愛着感じてくれてるんだろうなって思ってましたよ」
雪の言葉の節々から滲み出るのは、寂しさだった。
「そうじゃなかったんですか?」
何も言わずにただ背を向けた彼に対して覚える寂しさ。
まるで伸ばしていた手を振り払われたかのような、圧倒的なそれを。
しかし雪は確信していた。
そう感じているのは、自分だけじゃないということを。
「本当になんとも思ってなかったんですか?」
真実を突きつける雪の言葉を聞いて、亮は思わず振り返った。
演じていた悪役の仮面が、その言葉の前に剥がれていく‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼との対話(2)ー悪役ー>でした。
話し合い続きますね~。
亮の給料云々を主張する悪役キャラは、雪の発した「感情」という言葉の前に崩れそうです。
押し込めていたその気持ちが、どうここから発展するのか‥?!
次回は<彼との対話(3)ー虚偽ー>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
極力使われないようお願いします!
人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ
引き続きキャラ人気投票も行っています~!