黒木典は赤山雪を教室から連れ出すと、開口一番こう言った。
「うちらも直美さんが盗むなんて考えもしなかったわよ!マジでビックリなんだけど!!」

思わず雪の顔が曇る。
「直美さんが‥?」

典は先程の直美のリアクションを思い出しながら、頭を抱えて息を吐いた。
「はー‥あんな人だったなんて‥!もーマジでどうすればいいのか‥」

雪は大きな声を出しはしなかったが、典と同様、動揺しているのは確かだ。
いや‥直美さんのこと疑ってたけど‥でも私の考えでは‥

考えれば考える程、違和感は募って行く。
「あーもう‥マジかよー‥」

隣で嘆く典の声を聞きながら、雪は直美の姿を思い浮かべた。
本当に?直美さんが?まさか海ちゃんの問題一つで‥

自分が思っていた筋書きから、外れて行く現実。
けれど雪は、どうしても納得出来なかった。
動機が‥何か不十分だ‥

改めて、今回の件と糸井直美を絡めて考えてみる。
確かに‥海ちゃんと私が過去問を共有したのは事実だけど‥
直美さんが、本当に盗むだろうか?自分だって同じ物を持ってるのに?

あの時直美は、「あの子コレ欲しがってそう?」と過去問を抱え込みながら典に聞いていた。
動機はその意地からだろうか?そう考えてみても、やはり辻褄は合わない。
勿論衝動的にやらかしたのかもしれないけど、あまりにおかしい。
もしバレたら皆から完全無視される。そんなリスクを侵すような人じゃない。

糸井直美、という人間像。
それは以前絡んでいた、横山翔とのゴタゴタからも見えてくる。
横山のことだって、結局横山本人にその怒りの矛先が向けられて片が付いたし、
私とは皮肉を嘲い合うくらいで、諍いになるレベルにはならなかった。
そして仮に、先輩の過去問を狙って盗んだとしても、直美さんはまだ三年生。特にメリットは無い‥

動機もメリットも何もかもが、直美には不足している。
筋書きはどう考えても、自分が信じる方向にありそうなのに‥。
「‥‥‥‥」

暫く押し黙っていた雪だが、とりあえず典に向かって釘を指すことにした。
まだ状況がハッキリしたわけじゃないし、それをきちんと理解しているわけでもないからだ。
「典ちゃん、あのさ」

「とりあえず他の人には話さない方が良いよ。直美さんとももう一度話を‥」
「は?あの人と何を話せっての?あたしこの目で見たんだから!」

典は強い口調でそう言うと、雪のその提案を突っぱねた。
「それにあたし、泥棒とツルむ気なんて無いから!」

キッパリとそう言って、典はそのまま雪に背を向けて歩いて行った。
直美さん直美さんと、彼女にくっついていたのが嘘のようなそんな態度で。

嫌な予感が、雪の体中を駆け巡る。
「オフレコ‥なワケ‥ないヨネ‥」

事態が、転がるように展開して行く予感だ。
ポケットの中で携帯が震えた。
授業頑張ってる?週末、何観に行こうか?

取り出してみると、先輩からメールが入っていた。
そしてその文面を読んで、今自分が抱えている仕事と予定を思い出す。

転がり出す展開と、自分がやらなければならない現実と。
雪はその狭間で動けなかった。思わず頭を掻く。

結末がうっすら見えていても、そこに至るまでの過程はなかなか見通せない。
だからこそ一歩踏み出すことが出来ないのだ。
どの方向が、その結末に繋がっているかは分からないから。

そしてそんな雪と同じように、この人もまた現実から動けなかった。
「聡美!」

友人から名を呼ばれた聡美は、ゆっくりと振り返った。
その表情は相変わらず冴えない。

友人は不思議そうな顔をしながら聡美に近付いた。
「どーして最近顔見せないのよ!返信も無いしさぁ」
「ちょっと疲れてて‥」

力なくそう言う聡美に、友人は笑ってこう返す。
「な~にが疲れてて~よ!合コンの話があんの。アンタ行きなよ!写真見せたげる」
「へ?」

突然の合コンの誘いに、目を丸くする聡美。
友人はそんな聡美を見透かすかのように、携帯を掲げて彼女を誘った。
「最近彼氏居なくて落ちてたでしょ?アンタのいつものパターンじゃん」

「ほら、聡美のタイプの年上のイケメン!行ってみ?ね?」

画面の中で微笑む合コン相手。
聡美は首を横に振った。
「いや‥あたしは‥」

外れて行く筋書き。見えないその先。
誰しもが、その中でもがいて足掻いている‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<外れて行く筋書き>でした。
探偵雪ちゃんが、今回の件の違和感を感じてますね~。
そして典ちゃん‥手の平を返す態度とはまさにこのことですね‥。
次回は<白い靄>です。
☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
極力使われないようお願いします!
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「うちらも直美さんが盗むなんて考えもしなかったわよ!マジでビックリなんだけど!!」

思わず雪の顔が曇る。
「直美さんが‥?」

典は先程の直美のリアクションを思い出しながら、頭を抱えて息を吐いた。
「はー‥あんな人だったなんて‥!もーマジでどうすればいいのか‥」

雪は大きな声を出しはしなかったが、典と同様、動揺しているのは確かだ。
いや‥直美さんのこと疑ってたけど‥でも私の考えでは‥

考えれば考える程、違和感は募って行く。
「あーもう‥マジかよー‥」

隣で嘆く典の声を聞きながら、雪は直美の姿を思い浮かべた。
本当に?直美さんが?まさか海ちゃんの問題一つで‥

自分が思っていた筋書きから、外れて行く現実。
けれど雪は、どうしても納得出来なかった。
動機が‥何か不十分だ‥

改めて、今回の件と糸井直美を絡めて考えてみる。
確かに‥海ちゃんと私が過去問を共有したのは事実だけど‥
直美さんが、本当に盗むだろうか?自分だって同じ物を持ってるのに?

あの時直美は、「あの子コレ欲しがってそう?」と過去問を抱え込みながら典に聞いていた。
動機はその意地からだろうか?そう考えてみても、やはり辻褄は合わない。
勿論衝動的にやらかしたのかもしれないけど、あまりにおかしい。
もしバレたら皆から完全無視される。そんなリスクを侵すような人じゃない。

糸井直美、という人間像。
それは以前絡んでいた、横山翔とのゴタゴタからも見えてくる。
横山のことだって、結局横山本人にその怒りの矛先が向けられて片が付いたし、
私とは皮肉を嘲い合うくらいで、諍いになるレベルにはならなかった。
そして仮に、先輩の過去問を狙って盗んだとしても、直美さんはまだ三年生。特にメリットは無い‥

動機もメリットも何もかもが、直美には不足している。
筋書きはどう考えても、自分が信じる方向にありそうなのに‥。
「‥‥‥‥」

暫く押し黙っていた雪だが、とりあえず典に向かって釘を指すことにした。
まだ状況がハッキリしたわけじゃないし、それをきちんと理解しているわけでもないからだ。
「典ちゃん、あのさ」

「とりあえず他の人には話さない方が良いよ。直美さんとももう一度話を‥」
「は?あの人と何を話せっての?あたしこの目で見たんだから!」

典は強い口調でそう言うと、雪のその提案を突っぱねた。
「それにあたし、泥棒とツルむ気なんて無いから!」

キッパリとそう言って、典はそのまま雪に背を向けて歩いて行った。
直美さん直美さんと、彼女にくっついていたのが嘘のようなそんな態度で。

嫌な予感が、雪の体中を駆け巡る。
「オフレコ‥なワケ‥ないヨネ‥」

事態が、転がるように展開して行く予感だ。
ポケットの中で携帯が震えた。
授業頑張ってる?週末、何観に行こうか?

取り出してみると、先輩からメールが入っていた。
そしてその文面を読んで、今自分が抱えている仕事と予定を思い出す。

転がり出す展開と、自分がやらなければならない現実と。
雪はその狭間で動けなかった。思わず頭を掻く。

結末がうっすら見えていても、そこに至るまでの過程はなかなか見通せない。
だからこそ一歩踏み出すことが出来ないのだ。
どの方向が、その結末に繋がっているかは分からないから。

そしてそんな雪と同じように、この人もまた現実から動けなかった。
「聡美!」

友人から名を呼ばれた聡美は、ゆっくりと振り返った。
その表情は相変わらず冴えない。

友人は不思議そうな顔をしながら聡美に近付いた。
「どーして最近顔見せないのよ!返信も無いしさぁ」
「ちょっと疲れてて‥」

力なくそう言う聡美に、友人は笑ってこう返す。
「な~にが疲れてて~よ!合コンの話があんの。アンタ行きなよ!写真見せたげる」
「へ?」

突然の合コンの誘いに、目を丸くする聡美。
友人はそんな聡美を見透かすかのように、携帯を掲げて彼女を誘った。
「最近彼氏居なくて落ちてたでしょ?アンタのいつものパターンじゃん」

「ほら、聡美のタイプの年上のイケメン!行ってみ?ね?」

画面の中で微笑む合コン相手。
聡美は首を横に振った。
「いや‥あたしは‥」

外れて行く筋書き。見えないその先。
誰しもが、その中でもがいて足掻いている‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<外れて行く筋書き>でした。
探偵雪ちゃんが、今回の件の違和感を感じてますね~。
そして典ちゃん‥手の平を返す態度とはまさにこのことですね‥。
次回は<白い靄>です。
☆ご注意☆
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