スッカラカーン

翌日の大学構内で、雪は財布を開いておったまげた。
なんと札が一枚も入っていないのである。
えっ?!なにコレ?!???

雪は動揺のあまり、視線を宙に彷徨わせながら記憶を辿った。
ラ、ランチ代が‥。
昨日ガソリン代いくら渡したっけ?確か6~7千円‥

先輩に渡したあのお金は、どうやら全財産だったらしい。
雪は携帯を取り出すと、ネットバンキングで口座残高を確認した。
しかしその残高も凄惨極まりない‥。

まずい。
今月の生活費の逼迫加減に、雪は頭を悩ませた。

ともかく突然ではあるが、緊急節約期突入だ。
‥とりあえず今日のお昼は抜きにしよう‥ご飯抜いたら集中出来ないけど‥しょうがない
「お~い」

すると後方から、聞き覚えのあるハスキーな声が掛かった。
振り向いてみると、そこには河村静香の姿がある。
「一人で何してんのぉ?」「あれ?」

その隣には佐藤広隆だ。
色々突っ込むところはあれど、雪は適当な別れの挨拶を口にし背を向ける。
「私、忙しいのでこのへんで‥」
「広隆がランチご馳走してくれるんだけど、アンタも行く?」

「えっ?」

静香のその提案に、雪は思わず振り向いた。
静香と佐藤は親しげに会話を交わす。
「いいでしょ?」「いいけど。ていうか知り合いなのか?」「遠慮しないで~」

そして静香は雪に向き直り、ニッコリと笑ってこう言った。
「うちら仲良くするんだもんねー?」

「‥‥‥‥」

思わず本音が顔に出る雪。
しかし財布が空の今、正直に言ってその静香の提案はありがたかった。
「そ‥それじゃお恥ずかしながら‥」「そんなこと言わなくたって」
「今度高いモン奢んなさいよ?」「まるで自分が奢るかのように言いますね
」

まるで親しい友人のように、静香は雪と肩を組む。
何食べたい~?
さ、触らないで下さいよ!

仲良しでしょ~?

そんな雪と静香の姿を、銅像の影から見つめる人影があった。
河村亮である。
「何だあのメンツは‥?てか誰だよあの男」

佐藤広隆のことを知らない亮には、今の状況がちんぷんかんぷんだった。
亮は首を傾げながら、上機嫌で二人を連れて歩く姉の後ろ姿を見つめる。

胸の中がモヤモヤと煙って行く。
けれど訝しく思うその感情とは別に、違う感情が記憶の彼方から呼び覚まされる。


高校の時の記憶だった。
まだ三人の関係が、本当の家族のように親密だった時の‥。

その歯車が、狂い始めた時のことを思い出す。
「よぉ!」

教室に着いて、いつも通り淳に向かって挨拶をした時だった。
「ああ」

普段とは違う苦い顔、歯切れの悪い返事。
そのまま背を向けた淳を見て、亮は目を丸くする。

ギシギシと、歯車が軋む音が聞こえる。
運命の風が、絶望へと向かって強く吹き荒れて行く‥。
「‥‥‥‥」

亮は静香達の後を追うことなく、自分が向かうべき方向へと足を踏み出した。
記憶の蓋を閉め、感情を殺して歩いて行く‥。


一方大学近くの焼肉屋にて、三人は昼食を取っているところだった。
雪は改めてこの不思議なメンツを見回してみる。

中でも予想外なのは、佐藤広隆だった。
雪は去年の記憶を思い出しながら、なんだか感慨深い気持ちに駆られている。
まさか佐藤先輩にお昼奢ってもらうなんて‥しかもこの人と一緒に‥
暫く前までは‥

思い返してみれば一年前の自主ゼミで、
「お前も青田目当てでここに来たんだろ?!」とキレられたこともあった。

あれからまだ一年だ。人生、不思議なことは多い。
それにしてもこの二人、一緒に教養の授業受けてるんだっけ‥。どうやって‥

雪が二人が仲良くなった馴れ初めについて考えを巡らせていると、
不意に静香がこう話し掛けて来た。
「てかさー、淳ちゃんお小遣いとかくれないの?
なんかさっきお金に困ってそうだったじゃん」

さらりと口に出す”淳ちゃん”の名前。
雪はピリピリしながら、静香に向かって釘を刺す。
「ったく‥変なこと言うなら話し掛けないでもらえます?
」
「アンタ何も言わせてくれないわね」

静香はキョトンとしながらそう言った後、携帯の画面を佐藤に向けて甘えたような声を出した。
「あー!てかさぁ広隆ぁ~!これ超可愛くない?
広隆は女物なんて見ないからよく分かんないかもしんないけどぉ、なんてったって材質が‥」

なんと静香は、雪が見ている前で佐藤にバッグのおねだりを始めたのだ。
雪の頭に乗ったサイレンが、ピコンピコンと点滅を始める。

同じ学科の先輩が、静香の毒牙に掛かるピンチだ。
雪はおねだりを続ける静香を制し、会話の主導権を握るべく身体を乗り出した。
「それにこれ、意外に手頃な値段‥」
「あの!佐藤先輩!財務学会で今週までに提出のアレ、まだやってないですよね?!」
「え?うん‥」「ですか!私もまだなんです!」

雪は強引にガンガン話を進める。
「それじゃご飯も食べ終わったところで、
一緒に図書館行きませんか?!」
「あぁ‥そうするか」

しかし佐藤は、隣の静香が少し気になるようだ。
「でもそれじゃ‥」

携帯片手に呆然としている静香を見て、雪は笑顔でハキハキと話を進める。
「静香氏も一緒に行って勉強すればいいじゃないですか!美術でも税務会計でも!」
「はぁ?静香氏ぃ?」
「それじゃなんて呼びましょうか?」

静香は低い声を出し、雪に向かってこう言った。
「‥いいわ」「そりゃ良かった」「はい!それじゃ‥」

地を震わせるような声で。
「そうするべきかしらねぇええ~~」

顔中怒りに歪めながら、静香は恐ろしいほどのオーラで雪に迫った。
しかし雪も負けていない。こんな彼女と相対するのはもう慣れっこだ。
「仲良くしたいんですよね?私と仲良くしたいんなら、勉強しますよ」

主導権は握った。
そう確信して雪は微笑む。
「いいでしょ?」

ピキッと顔を引き攣らせながら、静香はじっと雪を睨んでいた。
雪は笑顔を崩さぬまま、皮肉を込めた言葉を口に出す。
「就職しなきゃですもんね~?Z企業に」
「まぁ~~このお姉さんのこと考えてくれてちゃってぇぇ~
」

そんな二人に挟まれて、思わず佐藤は心の中で一句‥。
俺最近 この人達に 振り回されてる(字余り)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<主導権を握って>でした。
‥今回の佐藤先輩‥これは‥

確信犯ですよね‥?!



スンキさんてば‥。
あとここでの雪の回想↓

一年前の佐藤先輩がキレているのは、雪ちゃんのはずです。髪色は静香ですが‥。
ミスですかね。
そして個人的に銅像に隠れて静香達を窺う亮さんがツボでした。

だんだんと左手事件に近付いて来ている感じですね。
早く真相が知りたい‥!
次回は<似た者同士>です。
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翌日の大学構内で、雪は財布を開いておったまげた。
なんと札が一枚も入っていないのである。
えっ?!なにコレ?!???

雪は動揺のあまり、視線を宙に彷徨わせながら記憶を辿った。
ラ、ランチ代が‥。
昨日ガソリン代いくら渡したっけ?確か6~7千円‥

先輩に渡したあのお金は、どうやら全財産だったらしい。
雪は携帯を取り出すと、ネットバンキングで口座残高を確認した。
しかしその残高も凄惨極まりない‥。

まずい。
今月の生活費の逼迫加減に、雪は頭を悩ませた。

ともかく突然ではあるが、緊急節約期突入だ。
‥とりあえず今日のお昼は抜きにしよう‥ご飯抜いたら集中出来ないけど‥しょうがない
「お~い」

すると後方から、聞き覚えのあるハスキーな声が掛かった。
振り向いてみると、そこには河村静香の姿がある。
「一人で何してんのぉ?」「あれ?」

その隣には佐藤広隆だ。
色々突っ込むところはあれど、雪は適当な別れの挨拶を口にし背を向ける。
「私、忙しいのでこのへんで‥」
「広隆がランチご馳走してくれるんだけど、アンタも行く?」

「えっ?」

静香のその提案に、雪は思わず振り向いた。
静香と佐藤は親しげに会話を交わす。
「いいでしょ?」「いいけど。ていうか知り合いなのか?」「遠慮しないで~」

そして静香は雪に向き直り、ニッコリと笑ってこう言った。
「うちら仲良くするんだもんねー?」

「‥‥‥‥」

思わず本音が顔に出る雪。
しかし財布が空の今、正直に言ってその静香の提案はありがたかった。
「そ‥それじゃお恥ずかしながら‥」「そんなこと言わなくたって」
「今度高いモン奢んなさいよ?」「まるで自分が奢るかのように言いますね


まるで親しい友人のように、静香は雪と肩を組む。
何食べたい~?
さ、触らないで下さいよ!

仲良しでしょ~?

そんな雪と静香の姿を、銅像の影から見つめる人影があった。
河村亮である。
「何だあのメンツは‥?てか誰だよあの男」

佐藤広隆のことを知らない亮には、今の状況がちんぷんかんぷんだった。
亮は首を傾げながら、上機嫌で二人を連れて歩く姉の後ろ姿を見つめる。

胸の中がモヤモヤと煙って行く。
けれど訝しく思うその感情とは別に、違う感情が記憶の彼方から呼び覚まされる。


高校の時の記憶だった。
まだ三人の関係が、本当の家族のように親密だった時の‥。

その歯車が、狂い始めた時のことを思い出す。
「よぉ!」

教室に着いて、いつも通り淳に向かって挨拶をした時だった。
「ああ」

普段とは違う苦い顔、歯切れの悪い返事。
そのまま背を向けた淳を見て、亮は目を丸くする。

ギシギシと、歯車が軋む音が聞こえる。
運命の風が、絶望へと向かって強く吹き荒れて行く‥。
「‥‥‥‥」

亮は静香達の後を追うことなく、自分が向かうべき方向へと足を踏み出した。
記憶の蓋を閉め、感情を殺して歩いて行く‥。


一方大学近くの焼肉屋にて、三人は昼食を取っているところだった。
雪は改めてこの不思議なメンツを見回してみる。

中でも予想外なのは、佐藤広隆だった。
雪は去年の記憶を思い出しながら、なんだか感慨深い気持ちに駆られている。
まさか佐藤先輩にお昼奢ってもらうなんて‥しかもこの人と一緒に‥
暫く前までは‥

思い返してみれば一年前の自主ゼミで、
「お前も青田目当てでここに来たんだろ?!」とキレられたこともあった。

あれからまだ一年だ。人生、不思議なことは多い。
それにしてもこの二人、一緒に教養の授業受けてるんだっけ‥。どうやって‥

雪が二人が仲良くなった馴れ初めについて考えを巡らせていると、
不意に静香がこう話し掛けて来た。
「てかさー、淳ちゃんお小遣いとかくれないの?
なんかさっきお金に困ってそうだったじゃん」

さらりと口に出す”淳ちゃん”の名前。
雪はピリピリしながら、静香に向かって釘を刺す。
「ったく‥変なこと言うなら話し掛けないでもらえます?

「アンタ何も言わせてくれないわね」

静香はキョトンとしながらそう言った後、携帯の画面を佐藤に向けて甘えたような声を出した。
「あー!てかさぁ広隆ぁ~!これ超可愛くない?
広隆は女物なんて見ないからよく分かんないかもしんないけどぉ、なんてったって材質が‥」

なんと静香は、雪が見ている前で佐藤にバッグのおねだりを始めたのだ。
雪の頭に乗ったサイレンが、ピコンピコンと点滅を始める。

同じ学科の先輩が、静香の毒牙に掛かるピンチだ。
雪はおねだりを続ける静香を制し、会話の主導権を握るべく身体を乗り出した。
「それにこれ、意外に手頃な値段‥」
「あの!佐藤先輩!財務学会で今週までに提出のアレ、まだやってないですよね?!」
「え?うん‥」「ですか!私もまだなんです!」

雪は強引にガンガン話を進める。
「それじゃご飯も食べ終わったところで、
一緒に図書館行きませんか?!」
「あぁ‥そうするか」

しかし佐藤は、隣の静香が少し気になるようだ。
「でもそれじゃ‥」

携帯片手に呆然としている静香を見て、雪は笑顔でハキハキと話を進める。
「静香氏も一緒に行って勉強すればいいじゃないですか!美術でも税務会計でも!」
「はぁ?静香氏ぃ?」
「それじゃなんて呼びましょうか?」

静香は低い声を出し、雪に向かってこう言った。
「‥いいわ」「そりゃ良かった」「はい!それじゃ‥」

地を震わせるような声で。
「そうするべきかしらねぇええ~~」

顔中怒りに歪めながら、静香は恐ろしいほどのオーラで雪に迫った。
しかし雪も負けていない。こんな彼女と相対するのはもう慣れっこだ。
「仲良くしたいんですよね?私と仲良くしたいんなら、勉強しますよ」

主導権は握った。
そう確信して雪は微笑む。
「いいでしょ?」

ピキッと顔を引き攣らせながら、静香はじっと雪を睨んでいた。
雪は笑顔を崩さぬまま、皮肉を込めた言葉を口に出す。
「就職しなきゃですもんね~?Z企業に」
「まぁ~~このお姉さんのこと考えてくれてちゃってぇぇ~


そんな二人に挟まれて、思わず佐藤は心の中で一句‥。
俺最近 この人達に 振り回されてる(字余り)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<主導権を握って>でした。
‥今回の佐藤先輩‥これは‥

確信犯ですよね‥?!




スンキさんてば‥。
あとここでの雪の回想↓

一年前の佐藤先輩がキレているのは、雪ちゃんのはずです。髪色は静香ですが‥。
ミスですかね。
そして個人的に銅像に隠れて静香達を窺う亮さんがツボでした。

だんだんと左手事件に近付いて来ている感じですね。
早く真相が知りたい‥!
次回は<似た者同士>です。
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