”青田淳から貰った過去問”をめぐって、雪の周りの人間が動き始めた。
雪は外の道を走りながら、プリプリと怒っている。
ったくもう!皆過去問目当てに‥!

思い巡らすのは、こうなってしまった元凶(?)の彼‥。
先輩ってばどーして話しちゃったのよぉぉ‥

ただでさえゴタゴタの毎日に、更なる心配の種が植わってしまったかのようだった。
期末こそは集中しないといけないのに‥。
正直言って、店、超繁盛してるってわけでもないじゃん?
姉ちゃんは勉強に集中しなよ‥

脳裏に浮かぶ、昨夜蓮から言われた言葉。
歩くスピードを緩めながら、雪はもう一度その言葉の意味を噛みしめる。

つまり、奨学金を受けろって意味だ‥


昨夜の父親は、Z社のニュースを見ながら少し神経質になっていた。
そんな父親、そして必死に店を切り盛りしている母親の為に、
彼らの子どもとして出来ることをと、蓮は考えたのだろう。

蓮ってば、それなりに成長したな‥。
そういうことにも気が回るようになって‥

いつも遊び歩いているだけだと思っていた、弟の成長。なんだか少し感慨深い。
すると不意に、ポケットの中の携帯電話が震えた。

今度の日曜どこへ行こうか?
どこか行きたい所ある?

先輩からのメールだった。
雪はその場に立ち止まり、彼に返信を打つ。

そんな雪の姿を、離れた所から見つめる人影があった。
河村亮だ。

亮は、音大の方向へ伸びる道中で立ち止まっていた。
視線の先には雪が居る。

呼び止めようとすれば、出来る距離だ。
しかも彼女は立ち止まっている。
けれど‥。

亮は何も言わなかった。
彼が居るこの道から、ただ、彼女の居るその道を見つめるだけ‥。

携帯電話をポケットに仕舞って、やがて雪は歩き出した。
亮のことには気づかずに、ただ彼女の行くべき道を真っ直ぐに。


ただ、互いに自分の道を歩いて行く。
それだけだ。

亮は雪の後ろ姿が小さくなっていくのを暫くじっと見つめていたが、
やがてその姿が見えなくなると、ゆっくりと歩き出した。

雪は思う。
私達には、それぞれの風がある、と。

共に生きて行く中で、時折交差することもあるけれど、
結局は、そのまま過ぎ去って行ってしまう

人の持つ、それぞれの風。
誰しもが持っている、運命という名のその風。

河村静香は苦い顔をしながら、「コンピューター税務会計」という本を読んでいる。
読んでも読んでも、頭に入って行かないであろうが。

床に落ちているのは「税務」の本だが、
静香の意識はクッションの下に置いてある本の方に注がれている。

「パターン美術」と書かれたその本は、
日常という名の下に隠した、彼女の情熱だろう。

洗っても洗っても終わらない食器の山。
赤山蓮は、店のシンクで洗い物と格闘している。
そして

彼は昔よりほんの少し、色々なものが見えるようになったようだ。
良く見知った人の新しい面を目にすることもある

風向きはいとも簡単に変わる。
良い方向にも、悪い方向にも。
OKです~!今回は近場でどうですか?

雪からのメールを目にした途端、その表情が柔らかく綻んだ。
淳は微笑みを浮かべながら、そのメールに返信する。

OKです!
良い所探しとくよ

彼女と共にどこへ行こう。
それを考えると、顔の無い周りの人間達とのやり取りも、
どこかマシになったように思えるだろう。

再び、雪は考える。
他人によって思いもよらないことが起こるということは、
彼らが私とは違う人生を歩んでいるからであり、異なる考えを持っているからだろう。

図書館で勉強に励む雪。
傍らに置かれたテキストや課題は、まだまだ終わりそうにない。

それでもやらなければならない。
この道を真っ直ぐ歩いて行く為に。
この先に待ち受ける運命を、自分の力で切り開いて行く為に。
だから私は、今日も少し不安に駆られる

果たして明日は、

そしてその後は、どうなるんだろうと。


チーズインザトラップ 3部 了
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<それぞれの風>でした。
チートラ3部、ここに終了です
いや~長かったですよね!全108話!
1部が46話、2部が67話、からの108話‥。
一体4部は何話くらいになるんでしょうね。今から楽しみです~!!
次回から4部突入です。
<遠藤助手の気遣い>です。久しぶりの遠藤さん!
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雪は外の道を走りながら、プリプリと怒っている。
ったくもう!皆過去問目当てに‥!

思い巡らすのは、こうなってしまった元凶(?)の彼‥。
先輩ってばどーして話しちゃったのよぉぉ‥

ただでさえゴタゴタの毎日に、更なる心配の種が植わってしまったかのようだった。
期末こそは集中しないといけないのに‥。
正直言って、店、超繁盛してるってわけでもないじゃん?
姉ちゃんは勉強に集中しなよ‥

脳裏に浮かぶ、昨夜蓮から言われた言葉。
歩くスピードを緩めながら、雪はもう一度その言葉の意味を噛みしめる。

つまり、奨学金を受けろって意味だ‥


昨夜の父親は、Z社のニュースを見ながら少し神経質になっていた。
そんな父親、そして必死に店を切り盛りしている母親の為に、
彼らの子どもとして出来ることをと、蓮は考えたのだろう。

蓮ってば、それなりに成長したな‥。
そういうことにも気が回るようになって‥

いつも遊び歩いているだけだと思っていた、弟の成長。なんだか少し感慨深い。
すると不意に、ポケットの中の携帯電話が震えた。

今度の日曜どこへ行こうか?
どこか行きたい所ある?

先輩からのメールだった。
雪はその場に立ち止まり、彼に返信を打つ。

そんな雪の姿を、離れた所から見つめる人影があった。
河村亮だ。

亮は、音大の方向へ伸びる道中で立ち止まっていた。
視線の先には雪が居る。

呼び止めようとすれば、出来る距離だ。
しかも彼女は立ち止まっている。
けれど‥。

亮は何も言わなかった。
彼が居るこの道から、ただ、彼女の居るその道を見つめるだけ‥。

携帯電話をポケットに仕舞って、やがて雪は歩き出した。
亮のことには気づかずに、ただ彼女の行くべき道を真っ直ぐに。


ただ、互いに自分の道を歩いて行く。
それだけだ。

亮は雪の後ろ姿が小さくなっていくのを暫くじっと見つめていたが、
やがてその姿が見えなくなると、ゆっくりと歩き出した。

雪は思う。
私達には、それぞれの風がある、と。

共に生きて行く中で、時折交差することもあるけれど、
結局は、そのまま過ぎ去って行ってしまう

人の持つ、それぞれの風。
誰しもが持っている、運命という名のその風。

河村静香は苦い顔をしながら、「コンピューター税務会計」という本を読んでいる。
読んでも読んでも、頭に入って行かないであろうが。

床に落ちているのは「税務」の本だが、
静香の意識はクッションの下に置いてある本の方に注がれている。

「パターン美術」と書かれたその本は、
日常という名の下に隠した、彼女の情熱だろう。

洗っても洗っても終わらない食器の山。
赤山蓮は、店のシンクで洗い物と格闘している。
そして

彼は昔よりほんの少し、色々なものが見えるようになったようだ。
良く見知った人の新しい面を目にすることもある

風向きはいとも簡単に変わる。
良い方向にも、悪い方向にも。
OKです~!今回は近場でどうですか?

雪からのメールを目にした途端、その表情が柔らかく綻んだ。
淳は微笑みを浮かべながら、そのメールに返信する。

OKです!
良い所探しとくよ

彼女と共にどこへ行こう。
それを考えると、顔の無い周りの人間達とのやり取りも、
どこかマシになったように思えるだろう。

再び、雪は考える。
他人によって思いもよらないことが起こるということは、
彼らが私とは違う人生を歩んでいるからであり、異なる考えを持っているからだろう。

図書館で勉強に励む雪。
傍らに置かれたテキストや課題は、まだまだ終わりそうにない。

それでもやらなければならない。
この道を真っ直ぐ歩いて行く為に。
この先に待ち受ける運命を、自分の力で切り開いて行く為に。
だから私は、今日も少し不安に駆られる

果たして明日は、

そしてその後は、どうなるんだろうと。


チーズインザトラップ 3部 了
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<それぞれの風>でした。
チートラ3部、ここに終了です

いや~長かったですよね!全108話!
1部が46話、2部が67話、からの108話‥。
一体4部は何話くらいになるんでしょうね。今から楽しみです~!!
次回から4部突入です。
<遠藤助手の気遣い>です。久しぶりの遠藤さん!
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