Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

バリア

2015-09-22 01:00:00 | 雪3年3部(牙を潜める虎~了)
パチッ



鳥の囀りで目が覚めた。

しかし、爽やかな目覚めというわけではなさそうである。

「ひぇっ!このまま寝ちゃったの?!」



なんと雪は、この格好のまま眠ってしまったらしかった。

気がつけば膝が割れそうに痛い。

膝が‥!膝が‥!



休んだような休んでないような‥。

そして雪は今日も眠たそうな顔をしながら、重い荷物を持って外へ出る。

「あーっ!バス待ってーっ!」






「社長!」



同じ頃、河村亮はもう何度目かの呼びかけを口にしたところだった。

「社長~!」



その声に振り向く蓮と、振り向かない社長こと、雪の父と。

「社長ってば!」



相変わらずの無視。

それに痺れを切らした亮は、とうとう彼の耳元で話し始めた。

「どーして聞こえないフリするんすか!

オレ、”つぎはぎ”するまでは働くって確かに言いましたよね?ね?」
「亮さん、”引き継ぎ”な」



いつもなら亮の軽い言い間違いはご愛嬌、のはずだが、今日の社長はとんでもなくご機嫌ナナメであった。

「この野郎っ!!」「うわっビックリした!」



社長が出した突然の大声に目を丸くする亮。

しかし次の瞬間、亮は自分の耳に激痛が走るのを感じた。

「いっ‥てええええええええ!」

「この野郎め!辞めるだって?!貴様、ここより良い待遇のとこでも見つけたってのか?!

お前のピアノ云々をこれほど理解してる雇用主が他にいるとでも思うか?!この贅沢者!

尿瓶にクソするような無礼者だお前はっ!」




凄い剣幕で捲し立てる父の後ろで、蓮が「話せば分かるって!」と仲介に入るも、

父の怒りはおさまらなかった。力いっぱい亮の耳を引っ張った後、彼はフンと後ろを向く。

「この薄情者がっ!」



そう言って向けられた背中には、どこか寂しさが滲んでいた。

亮は怒りの底に秘められたその哀愁を感じ取り、心の壁が少し揺らぐ。

「あ‥」



しかし亮はすぐさま気を取り直すと、そのまま店の外へと歩を進めた。

「おい!どこへ行く?引き継ぎまでは働くんだろう?!」

「トイレっすよトイレ~。尿瓶にクソしちゃマズイっすからね」

「トイレなら店にあるだろうが!」



先ほど社長から言われた嫌味を言い返しながら、亮は外へ出て行こうとする。

そんな二人のやり取りを、蓮は何も言わずにじっと見つめていた。



亮は尚も社長に向かって皮肉を返す。

「へっ!ウォシュレット付いてるとこに行く‥」



そう言って店のガラス戸を開けた時だった。

そこに佇んでいた彼女が、亮を見つめながら目を丸くしている。






思わず亮も、雪と同じ表情で固まった。雪は咄嗟に挨拶を口にする。

「あ‥おはようございます」



二人の間にある空気の中に、見えない緊張が走った。

いつもは感じないその雰囲気が、彼と彼女の気安さを妨げる。



しかし次の瞬間、亮はニカッと笑顔を浮かべ、雪に向かって挨拶を返した。

「おお!よぉダメージ!良い天気だな!」



そしてその表情を崩すことなく、亮はくるりと背を向ける。

「そんじゃな~!」「えぇ?!ちょっ‥河村氏!待って下さい!」

 

雪は思わず彼を呼び止めた。

亮は少し眉を下げながら、半身を残して振り返る。

「んだよ。どーした?」



その表情を目にして、雪は「あ‥」と言葉に詰まった。

すると亮は両手を腰に当てながら、オラオラした態度で雪に近寄る。

「なんだ?なんだよ?何?」「いやその‥」



たじたじと後退る雪。頬に汗が伝う。

どこかいつもと違う彼を前に、雪は調子が掴めずに居た。



しかしなんとか気を取り直し、彼を見上げて口を開く。

「てか‥本当にいきなりどうしちゃったんですか?」

「ん?何が?」「だから‥」



「あの‥前に私が倒れた時に居た‥あの人と何かあったんじゃないかなって」

「あぁ?誰?」



亮はそう口にして、まるで思い当たらないという風に首を横に振った。

雪はそんな彼が信じられずに、尚もあの時の状況説明をする。

「河村氏が私の口を塞いで‥」「あー!あん時か!」



亮はニコリと笑った顔のまま、茶化すような口調で話をする。

「見てたんか。でも別に大したこたぁねーよ。

前一緒に働いてたヤツなんだけど、挨拶すんのが嫌でよ。でも後で連絡しといたし」


「え?それって‥」



更に一歩踏み込もうと、口を開きかけた時だった。

「もーいいだろ?」




ピッと、目の前で張られるバリア。


雪の鋭敏さは、その言葉に含まれた拒絶を感じ取る。



河村氏は明らかにいつもと違う。

けれど雪はそこで引き下がらず、尚もその場に立ち止まった。

「大したことないなら、どうして仕事辞めちゃうんですか?」

「別にアイツは関係ねぇよ。コンクールの準備のためだって言ったろ」



ピシャリと、にべもなく返される答え。

しかし雪は首の後ろに手をやりながら、本当に?とその答えに疑惑を抱いていた。



恐る恐る、言葉を続ける。

「河村氏が急に辞めちゃうって聞いて‥」



「ただ‥お父さんがすごく寂しがるだろうなって‥」

 

亮は幾分ぼんやりとした表情で、雪が紡ぐ言葉を聞いていた。

温かな情が、亮の虚飾の笑顔を奪う。

「お母さんも蓮も、私も‥だから‥その‥」



雪は困ったように笑いながら、更に話を続けた。

「皆表立って口にはしないけど、何かあったんじゃないかって心配してて‥。

もう一度聞きますけど、本当に何も無いんですよね?」




雪が次の瞬間目にした亮は、再びニッコリと笑っていた。

しかし彼の口からは、その表情とは正反対の言葉が紡がれる。

「ん?お前には何も関係のねぇことだろ?」




拒絶。





ピッと張られたバリアが、それ以上踏み込むなと雪に教える。


「ハハハ!まー気にすんな!」



「勿論何も問題ねぇけどよ!つーかダメージ、お前は大丈夫なのか?

毎日毎日バッタバタ倒れやがってよぉ~てか学生の本分は勉強だろ?

つーかもうちょっとしたら期末テストじゃんか。期末テスト!中間テストはよく出来たのか?ん?」




話を切るタイミングが掴めないほどの亮の弾丸トーク。

雪は先程張られたバリアの衝撃から抜け切らないまま、呆然と彼の言葉を聞いていた。

「それじゃな!」



そして雪が再び口を開く前に、

亮は彼女に背を向けたのであった。







あんぐりと口を開ける雪。

あまりにいつもと違う彼を前に、頭がついていかない。しかも言われた言葉も心外である。

「わ‥私がいつ毎日倒れたって‥?」



「もちろんテストだって‥ちゃんとやる‥って‥」



小さくなる背中にそう返しても、勿論既に言葉は届かない。

雪は呆然としたまま、彼の張ったバリアの前に立ち尽くした‥。







・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<バリア>でした。

亮さん、二ヶ月ぶりの登場!

でも飾った笑顔が切なくて切なくて‥。心に仕舞い込んだ感情を、笑顔で封じ込めていましたね。

バリアまで張って‥。うう‥。


次回は<過去問をめぐって>です。

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