雪は目を丸くして二人の横顔をじっと見ていた。
西条和夫はモゴモゴと口を動かしながら、下を向いて視線を泳がせている。


一方青田淳はというと、冷ややかな目で西条のことを凝視していた。
その無言の威圧感の前に、西条は言葉にならない声を震わせる。

暫し漂う沈黙。
その息苦しさに、最初に痺れを切らしたのは雪だった。意を決して、二人の間に入ろうとする。
「あのー‥」

しかし雪が話し始める前に、西条が大きな笑い声を上げた。
彼は再び明るい口調で、淳に向かって話し掛ける。
「いや~さっきから何の話をしてんのか全然分かんないけどさぁ~
もっと話したいことがあるかって聞かれたら~」

「無いな~青田。無いよ、それは無い!」

そう言って首を横に振る西条。
淳は笑顔を浮かべながら、皮肉を込めた返事を返した。
「そうだな。もう高校生じゃないもんな」

ゲームセット。
二人は暗黙の了解の中で、互いに友好的なムードで別れを告げる。
「会えて嬉しかったよ」
「おお!俺も~!ハハハ!」

西条に背を向けた淳は、すぐに雪の手を引いた。
その急展開に、思わず雪は目が真ん丸だ。
「行こ」「あ‥」

引き摺られるようにして、どんどんこの場から遠ざかる。
雪は振り返り、自分と同じく動揺しているユリに向かって、最後に声を掛けた。
「あ‥後で話そ!」

そして、雪と淳は去って行った。
二人が居なくなった後、ユリの鋭い視線が俯く西条に注がれる‥。

「バイバーイ」「じゃあね!」「じゃねー」「あれ?ユリは?」

店の外で皆合流し、互いに手を振り合って別れを告げた。
萌菜は姿が見えないユリをキョロキョロと探していたが、彼女はまだ店内に居た。
「なんなのぉ~~?!
どうしてああなっちゃうのよ!あたしの隣で堂々としてればいいじゃない!」
「おいおい!そういう問題じゃないんだって!」

終始雪の彼氏の前で体裁を繕っていた西条に対して、ユリは怒ってポカポカと彼を叩いた。
しかし西条はそんなことより、久しぶりに見た黒淳が恐ろしくて仕方がない。
「ユリはアイツがどんなヤツか知らねーから‥
クソッ!つい口が滑っちまった‥どーするよ?!」

慌てる西条。まず思案すべきは、家の事業の問題だ。
「うう‥家の仕事がやべーことになっちまったら‥」
「えー?どうしてそんなことまで心配するのー?」

拳を突き出したままそう問うユリに対し、西条は目を丸くした。
青田淳がどういう地位の人間か知らねーのか?と‥。

西条はユリの耳に口を近づけると、ヒソヒソと小さな声でその真実を告げた。
ほら‥Z企業の‥ヒソヒソ

話し終わった西条がユリから離れると、彼女は驚いて思わず口を手で覆った。
真ん丸な目で、思わずこう言う。
「マ‥マジ?」

株式会社Z企業、その超大企業の子息の顔が、ユリの頭に浮かんでいる‥。

信号が丁度青に変わり、車はスピードに乗って疾走した。
しかし雪の頭と心の中は、疾走どころか停滞グルグルである。

先程の自分の行動、ユリの彼氏に対する自分の態度‥。
思い返せば思い返す程、マズイことをしたんじゃないかと言う思いが消えない。
雪は恐る恐る、彼に向かって話を切り出した。
「‥あの人、もしかして先輩のご両親と関係あります?後で問題になったら‥」
「問題?いや別に?」

雪の懸念をケロリと否定する淳。しかし雪の胸のモヤモヤは消えない。
「いや‥でも先輩が‥あ‥んな風な態度を‥」「? 同級生にアドバイスしただけだけど?」

彼はまたしても彼女の心配をバッサリと切り捨てる。
雪は軽い頭痛を覚えながら、もう話しても無駄だとほのかに悟る‥。


それでも当の本人が被害を被る可能性が無いのであれば、
自分のこの懸念も余計な心配なのかもしれない。
雪は腹をくくると、開き直ってこう言った。
「ま、忘れます!悪い予感は見ないフリに限る!もしゴタゴタが起きても、その時はその時だ!」
「うんうん^^」

淳は雪に同調しながら、ニッコリと笑顔を浮かべた。
その表情に嘘は無さそうだ。

雪は運転する淳の横顔を、暫しじっと見つめていた。
先程西条を凝視していた時の瞳の陰りが、まだ彼の目に残っている。

見慣れたような、それでも慣れない、彼の横顔。
流れて行く景色を背景に、雪は彼のその横顔を、ただじっと見つめ続ける‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<横顔>でした。
Z企業の子息だと知ったユリが、波乱の引き金を引くことになるのか‥?
また少し物語が動き始めましたね。
次回は<影と光>です。
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西条和夫はモゴモゴと口を動かしながら、下を向いて視線を泳がせている。


一方青田淳はというと、冷ややかな目で西条のことを凝視していた。
その無言の威圧感の前に、西条は言葉にならない声を震わせる。

暫し漂う沈黙。
その息苦しさに、最初に痺れを切らしたのは雪だった。意を決して、二人の間に入ろうとする。
「あのー‥」

しかし雪が話し始める前に、西条が大きな笑い声を上げた。
彼は再び明るい口調で、淳に向かって話し掛ける。
「いや~さっきから何の話をしてんのか全然分かんないけどさぁ~
もっと話したいことがあるかって聞かれたら~」

「無いな~青田。無いよ、それは無い!」

そう言って首を横に振る西条。
淳は笑顔を浮かべながら、皮肉を込めた返事を返した。
「そうだな。もう高校生じゃないもんな」

ゲームセット。
二人は暗黙の了解の中で、互いに友好的なムードで別れを告げる。
「会えて嬉しかったよ」
「おお!俺も~!ハハハ!」

西条に背を向けた淳は、すぐに雪の手を引いた。
その急展開に、思わず雪は目が真ん丸だ。
「行こ」「あ‥」

引き摺られるようにして、どんどんこの場から遠ざかる。
雪は振り返り、自分と同じく動揺しているユリに向かって、最後に声を掛けた。
「あ‥後で話そ!」

そして、雪と淳は去って行った。
二人が居なくなった後、ユリの鋭い視線が俯く西条に注がれる‥。

「バイバーイ」「じゃあね!」「じゃねー」「あれ?ユリは?」

店の外で皆合流し、互いに手を振り合って別れを告げた。
萌菜は姿が見えないユリをキョロキョロと探していたが、彼女はまだ店内に居た。
「なんなのぉ~~?!
どうしてああなっちゃうのよ!あたしの隣で堂々としてればいいじゃない!」
「おいおい!そういう問題じゃないんだって!」

終始雪の彼氏の前で体裁を繕っていた西条に対して、ユリは怒ってポカポカと彼を叩いた。
しかし西条はそんなことより、久しぶりに見た黒淳が恐ろしくて仕方がない。
「ユリはアイツがどんなヤツか知らねーから‥
クソッ!つい口が滑っちまった‥どーするよ?!」

慌てる西条。まず思案すべきは、家の事業の問題だ。
「うう‥家の仕事がやべーことになっちまったら‥」
「えー?どうしてそんなことまで心配するのー?」

拳を突き出したままそう問うユリに対し、西条は目を丸くした。
青田淳がどういう地位の人間か知らねーのか?と‥。

西条はユリの耳に口を近づけると、ヒソヒソと小さな声でその真実を告げた。
ほら‥Z企業の‥ヒソヒソ

話し終わった西条がユリから離れると、彼女は驚いて思わず口を手で覆った。
真ん丸な目で、思わずこう言う。
「マ‥マジ?」

株式会社Z企業、その超大企業の子息の顔が、ユリの頭に浮かんでいる‥。

信号が丁度青に変わり、車はスピードに乗って疾走した。
しかし雪の頭と心の中は、疾走どころか停滞グルグルである。

先程の自分の行動、ユリの彼氏に対する自分の態度‥。
思い返せば思い返す程、マズイことをしたんじゃないかと言う思いが消えない。
雪は恐る恐る、彼に向かって話を切り出した。
「‥あの人、もしかして先輩のご両親と関係あります?後で問題になったら‥」
「問題?いや別に?」

雪の懸念をケロリと否定する淳。しかし雪の胸のモヤモヤは消えない。
「いや‥でも先輩が‥あ‥んな風な態度を‥」「? 同級生にアドバイスしただけだけど?」

彼はまたしても彼女の心配をバッサリと切り捨てる。
雪は軽い頭痛を覚えながら、もう話しても無駄だとほのかに悟る‥。


それでも当の本人が被害を被る可能性が無いのであれば、
自分のこの懸念も余計な心配なのかもしれない。
雪は腹をくくると、開き直ってこう言った。
「ま、忘れます!悪い予感は見ないフリに限る!もしゴタゴタが起きても、その時はその時だ!」
「うんうん^^」

淳は雪に同調しながら、ニッコリと笑顔を浮かべた。
その表情に嘘は無さそうだ。

雪は運転する淳の横顔を、暫しじっと見つめていた。
先程西条を凝視していた時の瞳の陰りが、まだ彼の目に残っている。

見慣れたような、それでも慣れない、彼の横顔。
流れて行く景色を背景に、雪は彼のその横顔を、ただじっと見つめ続ける‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<横顔>でした。
Z企業の子息だと知ったユリが、波乱の引き金を引くことになるのか‥?
また少し物語が動き始めましたね。
次回は<影と光>です。
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