太一が力こぶを作りながら言った。
「ちょっと筋肉ついたと思いませン?」
突然のその告白に、雪も聡美も目を丸くする。
「何の話?」「いや、ナチュラルマッチョになったんじゃないかなーと思いまシて‥」
「ジムでも行ってんの?」「いきなりどうした?」
聡美は不思議そうな顔をしながら、太一に向かって手を伸ばそうとした。
「てか服着てたら分かんないじゃん。チェックして‥」
「おろろろ!脱ぎたくはありまセン!」
太一はそう言って身体を庇う仕草をした。その乙女なリアクションに、思わず聡美は握り拳だ。
「はぁ?!誰がんなこと!」「きゃー」
「ったくこのガキ!見たくないわんなもん!」「バリアー!」
二人のそんなやり取りが楽しくて、雪は無邪気に笑っていた。これでこそ聡美と太一だ。
そして彼らはいつも通り、味趣連としてランチに繰り出すー‥
「ねぇ!てかお昼何食べよっか?表通りの方に新しくスープ屋さんが出来たって‥」
‥はずだったのだが、なんと太一は首を横に振った。
「あ、俺ダイエット中なんでパスするッス」
太一がさらりと口にしたその言葉に、聡美と雪はビックリ仰天である。
「ダイエット?!」「ダイエットォォ?!」「何スか」
あまりにも予想外のその言葉。しかし太一は笑うこと無く説明した。
「最近あんまり食べてないの気づいてなかったスか?何を今更驚いてるんデスか」
「そ‥そうだったっけ?」「アンタがいつ?!」
真剣な顔で、ダイエットする理由を口にする太一。
「萌菜さんから早急に体重落とせって言われてるんス。
当分はメシあんま食わないで確実に落としマス」
そんな太一の横顔を見て、聡美は言葉に詰まる。
「え‥?」
「あ‥」と聡美が続ける言葉を探している内に、太一はジャンパーの襟を正して得意顔だ。
「この服、萌菜さんがタダでくれたんスよ。服代が浮きマス。割の良い神バイトデスよ」
「よ‥良かったね?」
”萌菜”の名が出てくると、聡美の表情が少し引き攣る。
けれど彼女は気にしないフリをして、明るい口調で太一にこう質問した。
「そ、それじゃあたしが将来服屋さん開いたら、モデルとして働いてくれる~?」
しかし太一は聡美と目を合わせずに、そっけなくこう返す。
「さぁ‥それは‥。その時までバイトしてるかどうかは分かんないんで‥」
その返事を聞いて、聡美の表情が固まる。
「そ‥そっか」
「聡美さんも雪さんもスタジオ来て下さいヨ。俺のイケてるモデル姿を拝みに‥」
しかし太一が言葉を続けるより先に、
彼のお腹がグルグルと鳴った。
その顔に、思わず苦悶の表情が浮かぶ。
「うっ?!」
「危険シグナル‥!ちょっと行ってきマス‥!」
自らの鞄を聡美に投げ渡すと、太一は猛ダッシュでトイレへと駆け出した。
そんな彼の背中を、雪と聡美は呆然として見つめている。
「ほ‥本当にダイエット中?」「ありえん‥」
どちらかというと食べ過ぎでトイレに駆け込むことが多いのが太一だ。雪が首を捻りながら呟く。
「マジでご飯抜いてんのかなぁ‥」
「あっ」
すると聡美が不意にバランスを崩し、持っていた彼の鞄を落としてしまった。
ドサドサ!
しかもジッパーが開いていたらしく、盛大に中身が地面にぶち撒けられてしまう。
「あー‥やっちゃったよ」
地面に落ちたノートにペンケース、教科書を拾った聡美。
最後に画面の光った携帯に手を伸ばす。
「電源ついちゃった」
不意に、その画面に目を落とした時だった。
聡美の大きな瞳が、真ん丸く開いて固まる。
「!」
そんな聡美を見て不思議に思った雪が、同じく画面を覗き込んだ。
「あれ?これ‥前に聡美が欲しいって言ってたのじゃなかった?」
「う、うん‥」
太一の携帯画面に表示されていたのは、
いつだったか大学のカフェテリアで、欲しいなと話していたあのピアスだった。
それを太一がチェックしていたということは‥。
二人は顔を見合わせて、共通の思いを心に描いた。
しかし聡美はそれを口に出すことなく、太一の携帯を鞄に仕舞い直す。
「か‥勝手に携帯見ちゃダメだよね。
まったく太一ってば、だらしないんだから‥」
携帯の中にあったその画像は、彼の気持ちを暗示する鍵。
それを垣間見た聡美は、隠し切れない気持ちに口元が緩む‥。
「トイレの近くで待っててやるか!」
雪はそんな友人の気持ちを感じて、自然と笑顔になった。
すれ違う彼らの関係が、どうか上手く行きますように‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<携帯の中の鍵>でした。
携帯の中にあったピアス。それがこの先の鍵になるのですが‥。
先の展開に続きます。
次回は<どっちつかず>です。
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「ちょっと筋肉ついたと思いませン?」
突然のその告白に、雪も聡美も目を丸くする。
「何の話?」「いや、ナチュラルマッチョになったんじゃないかなーと思いまシて‥」
「ジムでも行ってんの?」「いきなりどうした?」
聡美は不思議そうな顔をしながら、太一に向かって手を伸ばそうとした。
「てか服着てたら分かんないじゃん。チェックして‥」
「おろろろ!脱ぎたくはありまセン!」
太一はそう言って身体を庇う仕草をした。その乙女なリアクションに、思わず聡美は握り拳だ。
「はぁ?!誰がんなこと!」「きゃー」
「ったくこのガキ!見たくないわんなもん!」「バリアー!」
二人のそんなやり取りが楽しくて、雪は無邪気に笑っていた。これでこそ聡美と太一だ。
そして彼らはいつも通り、味趣連としてランチに繰り出すー‥
「ねぇ!てかお昼何食べよっか?表通りの方に新しくスープ屋さんが出来たって‥」
‥はずだったのだが、なんと太一は首を横に振った。
「あ、俺ダイエット中なんでパスするッス」
太一がさらりと口にしたその言葉に、聡美と雪はビックリ仰天である。
「ダイエット?!」「ダイエットォォ?!」「何スか」
あまりにも予想外のその言葉。しかし太一は笑うこと無く説明した。
「最近あんまり食べてないの気づいてなかったスか?何を今更驚いてるんデスか」
「そ‥そうだったっけ?」「アンタがいつ?!」
真剣な顔で、ダイエットする理由を口にする太一。
「萌菜さんから早急に体重落とせって言われてるんス。
当分はメシあんま食わないで確実に落としマス」
そんな太一の横顔を見て、聡美は言葉に詰まる。
「え‥?」
「あ‥」と聡美が続ける言葉を探している内に、太一はジャンパーの襟を正して得意顔だ。
「この服、萌菜さんがタダでくれたんスよ。服代が浮きマス。割の良い神バイトデスよ」
「よ‥良かったね?」
”萌菜”の名が出てくると、聡美の表情が少し引き攣る。
けれど彼女は気にしないフリをして、明るい口調で太一にこう質問した。
「そ、それじゃあたしが将来服屋さん開いたら、モデルとして働いてくれる~?」
しかし太一は聡美と目を合わせずに、そっけなくこう返す。
「さぁ‥それは‥。その時までバイトしてるかどうかは分かんないんで‥」
その返事を聞いて、聡美の表情が固まる。
「そ‥そっか」
「聡美さんも雪さんもスタジオ来て下さいヨ。俺のイケてるモデル姿を拝みに‥」
しかし太一が言葉を続けるより先に、
彼のお腹がグルグルと鳴った。
その顔に、思わず苦悶の表情が浮かぶ。
「うっ?!」
「危険シグナル‥!ちょっと行ってきマス‥!」
自らの鞄を聡美に投げ渡すと、太一は猛ダッシュでトイレへと駆け出した。
そんな彼の背中を、雪と聡美は呆然として見つめている。
「ほ‥本当にダイエット中?」「ありえん‥」
どちらかというと食べ過ぎでトイレに駆け込むことが多いのが太一だ。雪が首を捻りながら呟く。
「マジでご飯抜いてんのかなぁ‥」
「あっ」
すると聡美が不意にバランスを崩し、持っていた彼の鞄を落としてしまった。
ドサドサ!
しかもジッパーが開いていたらしく、盛大に中身が地面にぶち撒けられてしまう。
「あー‥やっちゃったよ」
地面に落ちたノートにペンケース、教科書を拾った聡美。
最後に画面の光った携帯に手を伸ばす。
「電源ついちゃった」
不意に、その画面に目を落とした時だった。
聡美の大きな瞳が、真ん丸く開いて固まる。
「!」
そんな聡美を見て不思議に思った雪が、同じく画面を覗き込んだ。
「あれ?これ‥前に聡美が欲しいって言ってたのじゃなかった?」
「う、うん‥」
太一の携帯画面に表示されていたのは、
いつだったか大学のカフェテリアで、欲しいなと話していたあのピアスだった。
それを太一がチェックしていたということは‥。
二人は顔を見合わせて、共通の思いを心に描いた。
しかし聡美はそれを口に出すことなく、太一の携帯を鞄に仕舞い直す。
「か‥勝手に携帯見ちゃダメだよね。
まったく太一ってば、だらしないんだから‥」
携帯の中にあったその画像は、彼の気持ちを暗示する鍵。
それを垣間見た聡美は、隠し切れない気持ちに口元が緩む‥。
「トイレの近くで待っててやるか!」
雪はそんな友人の気持ちを感じて、自然と笑顔になった。
すれ違う彼らの関係が、どうか上手く行きますように‥。
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<携帯の中の鍵>でした。
携帯の中にあったピアス。それがこの先の鍵になるのですが‥。
先の展開に続きます。
次回は<どっちつかず>です。
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