授業が終わり、学生たちは三々五々席を立って教室を後にしたが、
雪達グループ5は誰も何も言えず各々佇んでいた。

特に雪は拳を握り締めたまま、ブルブルと怒りのあまりそれを震わせている。
見かねた健太先輩が、機嫌を取ろうと雪に話しかけた。

しかしそれを皮切りに、雪の不満が爆発した。
「ほんっとに最低です!!」

雪は周りの目も気にせずに、思いの丈をぶつけ始めた。
「最小限のことも出来なかった場合、少なくとも基本的な勉強はしてくるべきじゃないんですか?!
電話もメールも全部無視しておいてノコノコ出てきて‥発表の台本くらい一生懸命読んで下さいよ!!」

雪はギリッと唇を噛んだ。
脳裏に、様々な記憶が雪崩れ込んでくる。
グループ5は全員Dです

Dとは最低評価である。
雪の高校時代は、努力の果てに常に全校一位の成績を保持していた。

それから受験勉強に明け暮れ、県内トップのA大に入学し、奨学金を貰えるほど上位の成績を得た。
そんな雪が、今回最低評価のDを得たのだ‥。
「Dなんて‥こんな成績初めて取ったわ‥」

雪は怒りに震えた。
そんな彼女を見て、健太先輩が悪かったよと弁解する。

そして清水香織の発表の下手さについてダメ出しし始め、雰囲気は険悪になった。
直美は雪に向かって「ごめんね」と言ったが、続けてこうも言う。
「でも大学に通ってる以上、時にはDをもらう時もあると思うの。
だからそんなに怒らなくても‥」

しかし口ではそう言う直美さんと健太先輩の手に、
「マーケティング論」のレポートが握られているのが目に入った。

雪は呆れるあまり笑ってしまった。
各々発表出来ない言い訳は達者なくせに、個人的なレポートはちゃっかりやって来てるなんて。

そして三人は、ヘラヘラと笑いながら雪に謝罪した。
私らが悪かったよ~とかそんなに怒らないで~とか、何の意味も持たない言葉を並べて。

雪はそれに応えること無く、
「お先に失礼します」と言い捨てた。教室を後にする。

彼女が居なくなった後、直美と健太先輩は揃って顔を顰めた。

特に健太先輩はグチグチと雪の態度をけなした。
先輩に対する態度がなってないとか、これだからガリ勉はイヤなんだとか。
人目もはばからずそんなことを言っているので、周りの人間はその態度に呆れていたが。

そして離れた場所から、淳達グループ4もその様子を窺っていた。
柳が彼らの態度の悪さに呆れ、雪の立場を憂いたが、淳は何も言わずただその成り行きを見守っていた。

気分を切り替えるように、柳が「まぁ俺らはパーフェクトだからな!間違いなくA+だろ?」と嬉しそうに言うと、
佐藤もコホンと咳払いをしながら「当然だ」と言った。

続けて佐藤は皆の頑張りを慰労しようと口を開いたのだが、淳も柳もそれに気付かなかった。
特に淳はボンヤリと考え事をしていたので、余計だった。

そして教室を後にする時に、淳が皆を振り返って労いの言葉を掛けた。
「あ、みんなお疲れな」

そのまま去って行こうとする淳に、佐藤は大きな声を出して呼び止めた。
「おい!なんでお前はいつも俺を無視するんだよ!」

そして淳に詰め寄ると、今までの不満をぶちまけた。
「俺をナメてんのか?何度も何度も‥どういうつもりだよ?!
お前の趣味か?人を無視してそんなに楽しいか?!」

状況を飲み込めない淳も構わず、佐藤は続けた。
俺がお前に何をしたって言うんだと言って、普段の淳の態度に対して噛み付く。

しかし淳は「ちょっと待ってくれ」と言った。
そして彼も日頃佐藤に対して思っていたことを、冷静に口にした。
「お前の方こそ、俺のこと嫌ってなかったか?」

佐藤はそう言われて、ハッと息を飲んだ。

淳は続ける。
「俺が何か言う度に不平不満ばかりで、
入学してから今まで一度も俺に喧嘩腰じゃなかった時が無いように感じるよ」

淳は自分だって完全無欠のロボットではなく、一人の人間だと言った。
皮肉を言われて気分が良いはずがないだろうと。

二人の身長差はゆうに20センチはあった。
そのため向き合うと、自然と佐藤はプレッシャーを感じる形になる。

佐藤は下を向き、言葉を続けられず口ごもった。
そんな彼に敢えて淳は、あることを聞き返した。
「俺に何か不満でもあるのか?」

見上げた佐藤は、淳と目が合った。
その瞳の奥に、深く暗い闇が覗く。

得も言われぬ無言のプレッシャーに、彼は思わず目を逸らした。

そして目を逸らしたまま、そんな覚えはないと切れ切れに言葉を返した。

そんな佐藤に対して、淳は一つ溜息を吐くと「もういい」と小さく言った。
「誤解を招いたなら謝るよ。それじゃ」

佐藤に対して背を向けると、そのまま淳は教室を後にした。
柳が佐藤に毒づいた。被害妄想も大概にしろ、と。

同じグループだった後輩女子も、佐藤に別れの挨拶をしてそそくさと去って行った。
下を向いた佐藤だけが、己の不満を跳ね返された屈辱に苛まれながら、その場にじっと佇んでいた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<ぶちまけた不満>でした。
それぞれが思っていた不満を相手に伝える、という回でしたね。
特に佐藤先輩は淳に向きあう時、きっと自分の劣等感を反射させる鏡に向かい合っている気分になるのではないでしょうか。
柳先輩じゃないですが、そういった感情は被害妄想になり、相手を素直に受け入れることが出来なくなるんでしょうね。
単純に男の意地のような印象も受けますが‥。
次回は<不満の連鎖>です。
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雪達グループ5は誰も何も言えず各々佇んでいた。

特に雪は拳を握り締めたまま、ブルブルと怒りのあまりそれを震わせている。
見かねた健太先輩が、機嫌を取ろうと雪に話しかけた。

しかしそれを皮切りに、雪の不満が爆発した。
「ほんっとに最低です!!」

雪は周りの目も気にせずに、思いの丈をぶつけ始めた。
「最小限のことも出来なかった場合、少なくとも基本的な勉強はしてくるべきじゃないんですか?!
電話もメールも全部無視しておいてノコノコ出てきて‥発表の台本くらい一生懸命読んで下さいよ!!」

雪はギリッと唇を噛んだ。
脳裏に、様々な記憶が雪崩れ込んでくる。
グループ5は全員Dです

Dとは最低評価である。
雪の高校時代は、努力の果てに常に全校一位の成績を保持していた。

それから受験勉強に明け暮れ、県内トップのA大に入学し、奨学金を貰えるほど上位の成績を得た。
そんな雪が、今回最低評価のDを得たのだ‥。
「Dなんて‥こんな成績初めて取ったわ‥」

雪は怒りに震えた。
そんな彼女を見て、健太先輩が悪かったよと弁解する。

そして清水香織の発表の下手さについてダメ出しし始め、雰囲気は険悪になった。
直美は雪に向かって「ごめんね」と言ったが、続けてこうも言う。
「でも大学に通ってる以上、時にはDをもらう時もあると思うの。
だからそんなに怒らなくても‥」

しかし口ではそう言う直美さんと健太先輩の手に、
「マーケティング論」のレポートが握られているのが目に入った。

雪は呆れるあまり笑ってしまった。
各々発表出来ない言い訳は達者なくせに、個人的なレポートはちゃっかりやって来てるなんて。

そして三人は、ヘラヘラと笑いながら雪に謝罪した。
私らが悪かったよ~とかそんなに怒らないで~とか、何の意味も持たない言葉を並べて。

雪はそれに応えること無く、
「お先に失礼します」と言い捨てた。教室を後にする。

彼女が居なくなった後、直美と健太先輩は揃って顔を顰めた。

特に健太先輩はグチグチと雪の態度をけなした。
先輩に対する態度がなってないとか、これだからガリ勉はイヤなんだとか。
人目もはばからずそんなことを言っているので、周りの人間はその態度に呆れていたが。

そして離れた場所から、淳達グループ4もその様子を窺っていた。
柳が彼らの態度の悪さに呆れ、雪の立場を憂いたが、淳は何も言わずただその成り行きを見守っていた。

気分を切り替えるように、柳が「まぁ俺らはパーフェクトだからな!間違いなくA+だろ?」と嬉しそうに言うと、
佐藤もコホンと咳払いをしながら「当然だ」と言った。


続けて佐藤は皆の頑張りを慰労しようと口を開いたのだが、淳も柳もそれに気付かなかった。
特に淳はボンヤリと考え事をしていたので、余計だった。

そして教室を後にする時に、淳が皆を振り返って労いの言葉を掛けた。
「あ、みんなお疲れな」

そのまま去って行こうとする淳に、佐藤は大きな声を出して呼び止めた。
「おい!なんでお前はいつも俺を無視するんだよ!」

そして淳に詰め寄ると、今までの不満をぶちまけた。
「俺をナメてんのか?何度も何度も‥どういうつもりだよ?!
お前の趣味か?人を無視してそんなに楽しいか?!」

状況を飲み込めない淳も構わず、佐藤は続けた。
俺がお前に何をしたって言うんだと言って、普段の淳の態度に対して噛み付く。

しかし淳は「ちょっと待ってくれ」と言った。
そして彼も日頃佐藤に対して思っていたことを、冷静に口にした。
「お前の方こそ、俺のこと嫌ってなかったか?」

佐藤はそう言われて、ハッと息を飲んだ。

淳は続ける。
「俺が何か言う度に不平不満ばかりで、
入学してから今まで一度も俺に喧嘩腰じゃなかった時が無いように感じるよ」

淳は自分だって完全無欠のロボットではなく、一人の人間だと言った。
皮肉を言われて気分が良いはずがないだろうと。

二人の身長差はゆうに20センチはあった。
そのため向き合うと、自然と佐藤はプレッシャーを感じる形になる。

佐藤は下を向き、言葉を続けられず口ごもった。
そんな彼に敢えて淳は、あることを聞き返した。
「俺に何か不満でもあるのか?」

見上げた佐藤は、淳と目が合った。
その瞳の奥に、深く暗い闇が覗く。

得も言われぬ無言のプレッシャーに、彼は思わず目を逸らした。

そして目を逸らしたまま、そんな覚えはないと切れ切れに言葉を返した。

そんな佐藤に対して、淳は一つ溜息を吐くと「もういい」と小さく言った。
「誤解を招いたなら謝るよ。それじゃ」

佐藤に対して背を向けると、そのまま淳は教室を後にした。
柳が佐藤に毒づいた。被害妄想も大概にしろ、と。

同じグループだった後輩女子も、佐藤に別れの挨拶をしてそそくさと去って行った。
下を向いた佐藤だけが、己の不満を跳ね返された屈辱に苛まれながら、その場にじっと佇んでいた。

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<ぶちまけた不満>でした。
それぞれが思っていた不満を相手に伝える、という回でしたね。
特に佐藤先輩は淳に向きあう時、きっと自分の劣等感を反射させる鏡に向かい合っている気分になるのではないでしょうか。
柳先輩じゃないですが、そういった感情は被害妄想になり、相手を素直に受け入れることが出来なくなるんでしょうね。
単純に男の意地のような印象も受けますが‥。
次回は<不満の連鎖>です。
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