「やりがいにもいろいろある」1月12日
『教員負担軽減 現場の葛藤』という見出しの記事が掲載されました。『(教員の仕事のスリム化)を、当の先生たちはどう受け止めているのか。ある研究グループが調査したところ、先生たちの抱える多様な考え方と、その中で葛藤する姿が見えてきた』という特集記事です。
負担軽減のため、中教審答申では『①基本的には学校以外がになうべき業務②学校の業務だが必ずしも教師がになう必要のない業務③教師の業務だが負担軽減が可能な業務』の三つに整理されています。
記事では、東京大名誉教授小川正人氏のグループが行った研究結果が紹介されています。教員を対象に、上述①~③について、『「負担である」「どちらでもない」「負担ではない」の3択で尋ねた。また、教員以外の手に委ねたいかについても「任せたい」「どちらでもない」「任せたくない」から選択』してもらい分析したものです。
その結果、②や③については、『負担感が大きい半面、自分たちが担うべきだと考える教員が多い傾向』にあることが分かり、『教員の間でも「どこまでが本業か」について、大きな認識の違いがある』ということが明らかになったということです。
貴重な研究ですが、教委にいて多くの教員や管理職と接してきた者としては、調査するまでもなく分かり切ったことだという思いが捨てきれません。特に象徴的なのが、記事で紹介されていたある教員の声です。
『(部活について)30代の男性教員もやりがいを感じている一人だ。大学まで野球に打ち込み、教員になってからはずっと野球部の顧問をしてきた。「部活動に指導はできない、したくないという先生の意思は尊重されるべきだ(略)勤務時間の削減だけが優先され、意義ややりがいを感じている業務までどんどん学校外に出していく流れには『ちょっと待ってくれ』という思いがある」と率直に語った』。
自分は野球が好きだ、子供たちにも野球の楽しさを伝えたい、大学を卒業しても野球に関わりたい、だから教員になって野球部の顧問になった、子供と一緒に好きな野球に関われる今の状態は最高だ、という教員です。熱心に部活の指導に取り組む教員の中では、こうした教員は決して少数ではありません。
でも、よく考えればおかしな話なのです。野球が好きだから日本生命に入社した、ずっと長距離を走ってきたからHondaに入社した、というのとはわけが違うのです。彼らは社員ではあっても、実態はセミプロのプレーヤーとして期待されて入社しているのですが、教員は部活の顧問として期待されて採用されているのではないのです(一部の私立校などではそうかもしれないが)。
もし、日本生命やHondaで、社員の本務としてスポーツを取り入れるべきという主張をしたら、頭がおかしいと思われるでしょう。野球や駅伝にやりがいを感じているという社員がいることは事実としても、業務見直しの際にすべての社員の本務としてスポーツを、ということにはなりません。
それと同じことです。教員の働き方改革に必要なのは、教員が感じているやりがいに配慮することではなく、あくまでも我が国の学校教育において必要な教育活動を絞り込み、その中でだれが負担するかを冷静に切り分け、その実現に必要な予算と人員を配する長期計画を立てるということに尽きるのです。
記事には、『休み時間の対応』『学習評価や授業の準備』までも教員以外に負担させる案が記されていましたが、とんでもないことです。私見ですが、これらこそ教員の本務です。もし、教員の本務を他に委ねることなしに必要な業務を算出し、それでは負担軽減ができないといいのであれば、正規教員の定数事態を増やすことで対処するしかありません。