「竹富町問題の陰に」5月22日
『教科書問題 竹富に「満額回答」』という見出しの記事が掲載されました。沖縄県教委が、竹富町単独での教科書採択を認めたことを報じる記事です。このことについては再三触れてきているのですが、今回はある単語が気になりました。それは、『調査研究』という言葉です。
『沖縄県教委も「町単独の調査研究は可能」と判断』、『将来は学校ごとに教科書採択の研究調査をすることも考えたい』(竹富町教育長)、『町単独で教科書の調査研究をするのは困難と指摘』(前文科政務官)、など記事の中に何回も「調査研究」という言葉が登場します。
発言者は、県教委や町教委、前文科政務官など、一般的な印象として教科書採択の「調査研究」についてよく知っていると思われそうな肩書きの方ばかりです。しかし、私はこうした方々がどのようなイメージで「調査研究」を捉えているかが不安なのです。
私自身は、校内の一教員として、地域における社会科の専門家として、指導主事として、指導室長として教科書採択の調査研究に関わってきました。そうした経験からすれば、学校単位での調査研究は不可能です。私がよく知る小学校の場合でも、約300冊の教科書を研究調査しなければならないのです。少子化が進んだ今ではほとんどない18学級規模の学校であっても、教員は25人程度です。単純計算でも、一人当たり12冊以上の教科書を調査研究しなければなりません。実際には、1人の教員の意見で決定するわけにはいかないのですから、1冊の教科書について3人で担当するとすれば、36冊以上になるわけです。そして、実質的調査研究の時間はせいぜい1か月しかありません。授業をし、それ以外の校務も通常通りに行いながら、説明責任を果たすことが出来るレベルにまで調査研究を深めるということが可能であるとは到底思えません。しかも、実際には12学級以下の学校がほとんどなのですから。
では、町単独は可能かと言えば、これも困難な作業なのです。町での決定ということになれば、5人の教育委員が300冊ずつ調査研究しなければならないことになります。実際には、教委で構成される各教科ごとの調査委員が下調べをするわけですが、それでも300冊分の資料に目を通しその内容を理解しなければなりません。しかも、そのために使える時間は、教員が下調べをした後なのですから、実質2週間もありません。さらに、教育委員は授業の素人なのですから、資料の読み込みにも時間がかかります。採択単位が大きければ、教員の数も多くなり、下調べに費やす時間が少なくて済みますので、教育委員が資料に目を通す時間はそれだけ多く確保することが出来ます。もちろん、教員が作成した資料を読むだけでなく、教育委員自身が教科書そのものに目を通すことが必要なのは言うまでもありません。小さな町では、相当な苦労が予想されます。
私が指導室長の職にあったとき、教科書採択がありました。そのときの教育委員長さんが言った言葉、「もっと簡単なことかと思っていた。これじゃ徹夜しても終わらないよ」が印象に残っています。きちんとやればそうなるのです。そうした実態を知らずに、あるいは中学校の歴史と公民など、注目される教科だけ力を入れあとは事務局の言いなりに、と考えているのではないかと疑いたくなってしまいます。
社会科の専門家などと言っている私自身、社会科の教科書だけでも、1週間では調査研究を終える自信はありません。教科書採択における調査研究とは、本当に責任を果たそうと思えば、現行制度下では難しく、半年ぐらいかけて行わなければ難しいものだということを理解して発言してほしいものです。