少し昔、日本の代表的な光学機器メーカーのニコンとキヤノンは、半導体露光装置においてダントツのシェアでした。ところが、そのダントツのシェアがひっくり返った物語です。私は日本のメーカーが転落して喜んでいるわけではありません。
海外メーカーの中には日本メーカーに無いユニークな技術と考え方を持っている会社があり、これらの会社から画期的な製品が出ると、その独創性に感心しました。しかし、それらの製品の全てが成功したわけではありません。世間はそれほど甘くない。
この半導体露光装置の話は、技術や商売のやり方を考える上で貴重な(失敗の)実例なのに、なぜか経済がメインの新聞や雑誌でこの件に関する記事を見たことがないのは不思議です。
今回のテーマの半導体露光装置はニコンとキヤノン、オランダのASMLという三つの会社で世界シェアをほぼ独占し、2000年頃のシェアは、ニコンが4割、ASMLは3割、キヤノンは2割でした。
オランダのASMLは、フィリップスが源流で1984年に誕生し、その後アメリカのSVG社(Silicon Valley Group、シリコンバレーの複数の半導体メーカーが設立した会社)を吸収合併した会社です。
半導体の製造は、まずシリコン基板(ウェハ)上にレーザー光で硬化する薬液を薄く塗布します。その後、半導体露光装置を使って原版のパターンをレーザー光とレンズで縮小露光し、レーザー光の当たった部分の薬液を硬化させます。このようにして配線部分を残し、他の部分は取り除きます。これを繰り返して半導体の配線を造っていきます。
半導体の集積度を高めるために、半導体の配線の線幅はだんだんと細くなってきました。線幅を細くするために、半導体露光装置のレーザー光の波長もだんだんと短くなってきました。
2000年代中頃の技術予測は以下のようでした。(若干の日時の前後はご容赦)
① 2000年頃まで
半導体露光装置の光源として、KrFレーザー(波長248nm)
半導体の線幅130nmまで
② 2000年代中頃まで
半導体露光装置の光源として、ArF(フッ化アルゴン)レーザー(波長193nm)
半導体の線幅100nm~70 nm前後
③ 2000年代末
半導体露光装置の光源として、F2レーザー(波長157nm)
半導体の線幅50nm
④ 2010年代
半導体露光装置の光源として、EUV(波長13.5nm)極端紫外線を用いる
半導体の線幅50nm以下
(注)半導体の線幅とレーザーの波長の単位
nm:ナノメートル、1mm(ミリ)の1/1000000、1μmの1/1000
μm:マイクロメートルまたはミクロン、1mm(ミリ)の1/1000
(注)EUV:Extreme Ultra Violet 極端紫外線
紫外線の中で一番短い波長領域。隣はX線なので、X線の特徴も持つ
半導体露光装置の光源は、このような技術予測に沿って進んでいくかと思ったら、そうはなりませんでした。①と②はこの通りでしたが、次の③のF2レーザーは採用されず、違う技術が出てきました。それと同時にシェアが劇的に変化しました。
次回は、なぜ③のF2レーザーが無くなったかという話です。
続きはこちら。
2016.05.11
レーザー光で硬化はしませんよ。