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半導体露光装置のどんでん返し-その2 思わぬ伏兵「液浸」-

2016年05月14日 | 会社

前回の「半導体露光装置のどんでん返し-その1 お家芸からの転落-」の続きです。

 

③のF2レーザーにならなかった理由は、別の画期的な技術「液浸」が出てきたからです。この技術は、顕微鏡の解像度を上げるために昔から使われていた技術を半導体露光装置に応用したものです。

 

普通の半導体露光装置は、原版のパターンをレーザー光で縮小露光するレンズとウェハの間は当然ながら空気です。ところが、「液浸」はレンズとウェハの間を純水で満たすというものです。(下図参照、左が従来、右が液浸) 「液浸」を用いると解像度が向上する理由は、水の方が空気よりも屈折率が約3~4割大きいという原理に基づいています。

 

 この「液浸」は、光学顕微鏡にも使われている古い技術ですが、これを半導体露光装置という精密な生産設備に使うことはコロンブスの卵でした。精密装置に水というのはありえない組み合わせで、高速で移動するシリコン基板(ウェハ)と投影レンズの間に常時純水を安定して保持するのは、素人にも難しいことが分かります。

 

ニコンとオランダのASMLは2000年代中頃に製品化しました。しかしキヤノンは遅れました。

 

ArFレーザーと液浸技術を組み合わせた半導体露光装置の出荷・発表時期を新聞記事から拾ってきました。

ASML―2004年第3四半期に出荷

ニコン―2004年4月に出荷

      2005年第4四半期に販売開始と発表(別の記事)

キヤノン―2007年夏に発表

 

上の記事で、メーカーにより「出荷、販売開始、発表」とそれぞれ違いますが、順番から言えば「発表→販売開始→出荷」でしょうか? ArF液浸技術による半導体露光装置を最初に作ったのは、ニコンという記事もありましたが、本当のところASMLとどっちが早かったのか当事者しかわかりません。一つ言えるのは、キヤノンは明らかに「液浸」に出遅れました。F2レーザーに集中していたのでしょうか?

 

このArFレーザー光源と液浸技術の組み合わせで、F2レーザー光源と同等の配線幅を実現でき、F2レーザー光源は不要になってしまいました。

 

少し古いですが、2012年までの半導体露光装置のシェアの推移を載せておきます。オランダのASMLは8割、ニコンが2割、キヤノンはゴミです。

 

出所:電子ジャーナル「半導体製造装置データブック」から。

 

日本勢がシェアを大幅に落としている理由は何でしょう。

キヤノンは液浸を用いた半導体露光装置で出遅れたのがシェア低下のように見受けられます。(実情はわかりません)

しかし、ニコンはASMLとほぼ同時期に開発しているのに、シェアが低下していったのは、なぜでしょうか? この業界の分析資料には製品出荷の前後より、むしろ別の事情を揚げています。

 

それは、ASMLが

・機差が少ない、スループットが早いなど、顧客の要望に応えて生産性を上げる工夫をしている

・半導体露光装置の各ユニットをモジュール化して、製造しやすく、かつユーザーが使いやすい工夫をしている。

・台湾・韓国の半導体製造会社全てを顧客としており、台湾・韓国の半導体メーカーの躍進があった。その一方、日本の半導体メーカーの凋落がニコンに影響した

などの指摘があります。

 

いずれにしても、ASMLはすごいですね。数年でシェアを大逆転してしまうとは! 技術での大逆転と顧客目線の営業の賜物でしょうか? 日本勢は油断しましたね。ASMLはフィリップスから分社化して動きが良くなったのでしょうか? アメリカ勢も取り込んだのが成功の秘訣でしょうか?

 

その反対に、日本勢はニコンとキヤノンとも本社の一部門なので動きが悪かったのか、日本の半導体メーカーがメインの顧客だったのが敗因だったのでしょうか? 新進気鋭の人に、是非研究して欲しいものです。あるいは、ニコンとキヤノンが一緒になって、半導体露光装置の専門メーカーを作るべきだったのでしょうか? (ニコンとキヤノンが一緒になるなんて、どう見ても無理なように思えますが)

日本勢が再逆転する可能性はあるのでしょうか? 

 

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(参考)このブログを書くにあたって参考にした資料を挙げておきます。他にも新聞雑誌の記事を参考にしました。

・Electronic Journal 2012年11月号「《半導体製造装置市場の最新動向》ASMLが装置売上高1位に躍進 EUVは本当に実現可能なのか?」

・Electronic Journal 2012年11月号「オランダASML社による露光装置モジュール戦略の優位性分析」 田口敏行

・Electronic Journal 2009年8月号「《日本半導体/製造装置メーカーの共進化/共退化現象②》露光装置トップのASMLその強さの源泉は速度と稼働率」

・Electronic Journal 2006年3月「露光装置技術発展の系統化調査」高橋一雄 

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2016.05.14

 

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2 コメント

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Unknown (質問!)
2017-01-07 17:33:25
韓国のサムスン・LG連合が、凄い露光装置(但し、CPUではなく画面用)を開発したって、韓国メディアが自画自賛してたのって、どうなったんでしょう?3年くらい経つ気がしますが、未だにサムスンはキャノンの装置に頼ってるような記事を見たんですけど・・・
はったり?
Unknown (KK)
2017-09-03 20:01:58
EUVは2010年でなく最初は65nmプロセスで2005年に実用化とか言ってませんでしたか?
あとF2露光は高屈折率化でArF液浸露光を抜くみたいに言ってた時期もあったはず

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