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ほぼ週二 横浜の山の中通信

人と異なる視点から見る

東大は防災・減災に出遅れた

2019年12月18日 | 研究および大学

先日、NHKの地震防災番組に東大の准教授が出ていた。防災の番組に東大の研究者が出て来るのは珍しい。東大は昔から地震の解析や地震予知に力を入れていたが、防災・減災はほとんど手を付けていなかった。地震予知は科学だけど、防災・減災は科学ではないので、東大がやるべき仕事ではないと思っていたのかもしれない。それに東大には地震研究所、京大には防災研究所があるのも理由かもしれない。

 

昔は、20~30年すると地震予知ができると考えられていた。しかし、あれから20~30年以上が経過し、地震予知は現在の技術では不可能なことがわかった。(現在でも地震予知ができるといっている人がいるが、現実を認めたくないだけと思う) 

 

2012年10月27日に「地震の話 その1 ~東京大学地震研究所~」というブログを書いています。この中に下記のような一節がある。

 

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東京大学地震研究所編修の本「地球科学の新展開① 地球ダイナミックスとトモグラフィ」の「刊行のことば 2002年4月」には、「地震という災害を少なくするために、耐震技術の開発もさることながら、地震という地球の破壊現象を根源から理解することが必要だという考えが設立の精神であった。このため、耐震研究所でもなく、防災研究所でもなく、地震研究所とされたのである。」と書かれた部分がある。

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この本では地震研究所は「地震を根源から理解する」目的で作られたと宣言していて、防災・減災は設立の趣旨には無いことがうかがえる。

 

また上記ブログの後半には、地震研究所の講演を聞きに行った時の様子を書いている。

 

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東京大学地震研究所の地震工学が専門の人が講演し、「地震工学に何が必要か、地震研究の人たちに要望している。地震研究の人たちは、地震工学に役立つデータを出して欲しい。」というようなことを苦々しく言っていた。地震工学の人は地震研に4人しかいないらしいので、言葉の端から少数派の悲哀というか、疎外感というか、多数派は世間のことを知らないという思いが漂っていた。

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と書いている。東京大学地震研究所にも、地震工学(防災減災の一つといえる)が専門の人がいるが少数派なので疎外感を感じているように見て取れた。

 

時流に敏い東大が、地震(地震だけでなく、洪水などの自然災害)の防災・減災の時流に遅れているのはどうした? 地震研究所があるから? 東大で防災・減災を語る人の所属は、地震研究所ではなく先端科学技術研究センター(いくつかの部門が合わさってできた組織なので、名前が実態に合っていない)などの他部門の所属だった。地震研究所の設立の主旨からすると、「地震予知」の看板を下ろすわけにはいかないだろうな。

 

(補足)昔の「東海地震はもうすぐ来る」というプロパガンダは何だったんだろう? 

 

これは東大だけの話ではないが、一言。ここで言う「東海地震」は東海地方沖全域で起きる地震ではなく、駿河湾という限られた地域で起きる「駿河湾地震」と言うべき地震のこと。駿河湾沖では近年大地震が発生していないので、近い将来大地震が起きる可能性があるという論文が出た。しかし、「駿河湾地震」が唱えられて40年経過したが、未だに起きておらず、他の地域で大地震が次々に発生している。結局、「駿河湾で地震が発生する確率が高い」と公表するのは間違った認識を一般に広めることになり、それ以外の地域は地震への警戒が緩むことになった。そして、間違った認識に政府が乗ったことはさらなる間違いだった。

 

東海地震はいつ起こるか」2012年11月15日 柴正博

2006年3月27日付静岡新聞1面記事 <東海地震説に『間違い』> は『誤報』」2006年4月2日 石橋克彦

を参照しました。

 

2019.12.18

 

 


東大理Ⅲは富士山か?

2019年06月24日 | 研究および大学

週刊ダイヤモンドに「イノベーターの育ち方」という連載記事がある。その2019/06/22号は東大理Ⅲ卒の会社経営者を取り上げている。

 

この記事の中で、聞き手が「東大理Ⅲは医者にならない人が10%」という質問に対して、会社経営者は「東大の理Ⅲは日本最難関だからという理由で目標とする秀才たちが多く、医者になりたい人が一番少ない医学部と言われます」と答えていた。

 

「東大理Ⅲは人生の模擬試験」と思っている人が多いと言うことかな? あるいは「東大理Ⅲは富士山」で、頂上を極めることだけが目標であって、下山の方法までは考えていないということ? つまらんことに青春をかけるなあ。

 

東大医学部の劣化が言われている(私は東大医学部と全く関係が無いので、事実かどうかわからない)が、こういう事も原因かもしれない。医学部は教育に金のかかるのに、卒業生が医者や研究者にならない人が多いのは、東大医学部にとって金銭的損失が大きく不都合です。

 

そもそも受験勉強で良い点を取れても、医者や研究者に向いているかどうかは全く別。体質的に向いていない人(私は血を見ると背筋がゾクゾクする)もいるのに、日本一の難関だからという理由だけで東大理Ⅲを目指すとは、理解不能。だいたい医者なんて、アナログ的なものの最たるもので、受験勉強とは対極的かもしれない。

 

別の見方をすると、東大理Ⅲに合格する受験生は、有名進学校出身が多いようなので、有名進学校は成績優秀な生徒に東大理Ⅲを受験するよう指導しているのかもしれない。有名進学校は東大理Ⅲの合格者が多いほど営業的には都合が良い。

 

さらに別の見方をすると、親からのプレッシャー? 親が医者なら、子供はどうしても医者になって欲しいけど、そうでない場合は自分の子供が医者に向いているかいないか、親はわかると思うけどな?

 

それに東大は理Ⅲで合格しても、3年次へ進級する時に進路を変更することが可能なので、医者が合わないと思えば進路を変更することが出来る。東大に2年も通学していると、内情がわかるし、自分の進路を考え直す時間も十分あるのに? 

 

東大生の中には、我々が時間をかけないとなかなか理解できない問題(時間をかけても理解できないこともあるが)をサッと理解する優秀な人もいるし、記憶力が抜群で試験に受かったような人(それはそれで優秀というべきかも)もいるけど、試験以外はあまり賢くないようです。

 

ただし、「東大の理Ⅲは日本最難関だからという理由で目標とする秀才たちが多く、医者になりたい人が一番少ない医学部」という状態が続けば、他大学の医学部にとってありがたい。東大医学部にこういう受験生しか入学して来ないなら、東大医学部はいずれ弱体化する。他大学の医学部にとってチャンスです。

 

(補足)

東大の理系の入試は次の3種類のどれかを受ける。各コースの合格ラインは

 理科類(工学部・理学部コース)3157

 理科類(農学部・薬学部コース)3027

 理科類(医学部コース)    3704

と理ⅢはⅠ・Ⅱ類と比べて大幅に高い。

(少し古いですが週刊現代2013.04.10号から。この記事は、私のブログと同じような視点で書かれています)

 

2019.06.24

 

 


上野千鶴子の東大入学式の祝辞

2019年04月16日 | 研究および大学

この件は深入りするつもりは無かったけど、調べても良くわからない。わざわざ上野千鶴子を引っ張り出して、東大は新入生に何を伝えたかったのか? 何かの危機感がある?

 

東大のホームページによると、東大の平成31年度の学部入学式(東大の場合全員教養学部に入ることになる)は下記のように行われた。

 

1. 日時  平成31年4月12日(金) 10:20~

2. 会場  日本武道館

3. 式次第

10:20奏楽

10:40開式

     合唱

     総長式辞

     教養学部長式辞

     祝辞

     入学生代表宣誓

     合唱

11:40閉式

 (総長式辞と祝辞をクリックすると東大のサイトに飛びます)

時間配分を考えると、祝辞は上野千鶴子さんだけのようです。上野千鶴子さんならあれくらい言うはず。むしろ、おとなしかったと言うべき。大学当局と原稿の精査をしたのでしょう。それでも、あれくらい言うと分かっていながら、東大は何で上野千鶴子さんに祝辞を読ませたのかな? 女性であるという話題性に期待したのかな? 女性の名誉教授なら、数は少ないけど他にいるのに、東大はなぜ上野千鶴子さんを選んだ? それに彼女は博士課程まで京大にいた外様なのに?(彼女も祝辞の中で、そういうことを言っている)

 

TVでは、「祝辞としてどうか?」というおじいちゃんもいたけど、全文を読むと祝辞としてそれほどはみ出してはいないし、まあ妥当な範囲だと思う。TVではこの部分はカットされていたけど、東大生による女子大生集団凌辱事件にも言及しているのはすごい。読んでいると眠くなる総長の式辞なんてどのメディアも取り上げないけど、この上野千鶴子さんの祝辞ならメディアも取り上げるので、そういう意味では成功かもしれない。他大学の式辞・祝辞は、どこのメディアも取り上げていないから。

 

私は、生意気な新入生にこれくらい初めにガツンと言ってやらなきゃ、図に乗って何をするかわからないので、これはこれで良いと思う。しかし、たった一人の祝辞に上野千鶴子さんを選んだ東大の意図は良くわからない。

 

(参考)

東大名誉教授称号授与者(東大ホームページから)

                総数       うち女性

平成30年度  96名      0名

平成29年度  77名      2名

平成28年度  71名      6名

上野千鶴子さんは、平成23年度に名誉教授を授与されている。名誉教授の称号は終身?(捜したが分からなかった)なので、女性の名誉教授は上野千鶴子さん以外にもいるが男と比べると極端に少ない。

 

2019.04.16

 


ILCは不要

2019年03月16日 | 研究および大学

ピエール瀧

 

ピエール瀧がコカインで捕まったのを聞いて、そういうリスクがある人だなと思っていた人は多いのでは? コカインをやっていると私は思っていなかったけど、何かリスクのある人だとは思っていた。私でもそう思うのに、業界人がそういうリスクを心配していなかったのなら、ボーッとしていたと思う。

 

ILCは不要

 

ILCとは、International Linear Collider 国際・線型加速器です。加速器はaccelerator colliderは「衝突器」ですが、加速して衝突させるので加速器にしておきます。このILCを日本に誘致するかどうか、そろそろ決めなければならない。

 

2013421日のブログ「国際線形加速器ILCの日本誘致より、原発対策を!」にも書いたが、ILCを岩手県の北上山地の地下100mに、直線で約30Kmの加速器を誘致する計画です。誘致場所は、当然ながら活断層が無く、固い岩盤があるという条件が必要。国内では複数の候補地が手を挙げたが、日本政府は北上山地に絞った経緯がある。日本以外にILC誘致に手を挙げている国は無い。アメリカ、欧州は手を下した。

 

現在は、ジュネーブ近郊の地下100mに周長27Kmの円形加速器があり、ヒッグス粒子を見つけてノーベル物理学賞を受賞するきっかけになった。しかし、この円形加速器はビッグバンの再現に性能が不足するので、長さ約30Kmの直線状の加速器に作る計画が出来た。

 

2013421日のブログにも書きましたが、私が反対する理由は、

 

➊多額のコストと維持費がかかる

建設に10年の歳月と8000億円の費用、維持コストが年に400億円と言われている。日本の負担は半分くらいと言われているので、4000億円と200億円。これを多いと思うか少ないと思うか?

 

昔は高額の費用をかけてもそれなりに新しいことがわかったけど、最近は費用が増加するのに比べて、成果が小さくなっていて、実世界に役立つことはほとんど無くなっているというのが私の印象です。だから、アメリカもヨーロッパもILC誘致に手を挙げない。

 

❷他の科学技術分野の金が減らされる

ILCの費用は特別にどこからか湧いてくるわけでは無く、国の従来の科学研究費から工面することになる。そうすると、ILC以外の科学研究費が減ることになり、ILC関係者以外が誘致に反対する理由がこれ。

 

仮定の話ですが、30年後に日本の科学者がILCの成果でノーベル物理学賞を受賞するかもしれないが、ILC以外の科学分野で日本は総崩れになっているかもしれない。

 

❸優先するべきは、福島の原発対策

原発対策にお金と人材を掛けるのが日本の責任です。ILCにかける金があれば原発対策に金をかけるべきです。

 

❹地震の影響が出たら、全てパー

 

立地的には日本は最悪です。真夏に開催される東京オリンピックみたいなもんだ。ILCの適地は大陸。地盤は安定していて、地震は滅多に起きない。

 

地震活動が活発化している日本列島で、長期間(30年くらい?)にわたって、約30Kmの長さのILCの精密さを保証できるのかな? 北上山地は比較的安定なので、この地域の活断層で地震が起きるリスクは低いかも知れないがゼロではない。それより北上山地は固い地盤だとしても、他の場所で起きた地震の揺れが伝わって来て、約30Kmの長さがあるのに精密さが必要なILCが損傷するリスクがある。

 

❺物理学者の無いものねだりもそろそろ限界では?

「こういう理論だから、直線にして長くするしかない」と言われてもね。知恵を絞って別の方法を考えるべきでは。意地の悪い見方をすると、現在ジュネーブ近郊の円形加速器に携わっている科学者は、次の計画が始まらないと失職してしまう。これは高尚なILCの目的からすると、二次的な問題だけど、現場では切実な問題では?

 

一方でILCのメリットは?

 

①地域の活性化

この地域に長年にわたって大金が落ちるし、研究者が多く集まるので人口が増え、技術が集積するかもしれず、この地域に活気が出るのは確か。

 

②ノーベル物理学賞を受賞できる

さあ、どうだろう。可能性は高いが、必ず受賞できるかどうかはわからない。それでノーベル物理学賞は1回だけ?

 

ILCから派生する技術が出て、民生技術が向上する

どうだろうか? 私は可能性が小さいと思う。特殊な技術なので、その技術を一般化できるかどうか? 現在のジュネーブ近郊の円形加速器の関係者がデータを共有するためのツールとしてインターネットの元になる技術を考えたという話がある。これは加速器自体の技術の派生ではないし、金をかけた割にこれだけと言う感じがする。

 

結論

・日本にILCを誘致するのは反対。メリットが少ない

・私の提案はILCを中国に作らせば良い。中国が断るなら世界のどの国も、ILCに魅力を感じていないことになる。

 

2019.03.16

 

 


日本のノーベル賞から大学教育を考える

2015年02月03日 | 研究および大学

ノーベル賞受賞者が決定した時、関係者は大喜びしますが、その後を取り仕切るのはその時の所属機関でしょう。もっともノーベル賞受賞に寄与したのが、出身大学なのか、対象論文の研究していた時に所属していた組織なのか、いろいろ議論のあるところです。それで、過去のノーベル賞の受賞者の「出身大学」・「受賞研究時」に所属していた組織・「受賞時」の所属のリストを作ってみました。

 

このリストの上半分の受賞者の「出身大学」は京大が多いですが徐々に減ってきて他大学が増えています。「受賞研究時」や「受賞時」の組織は、どこかが多いということは無いようです。東大は歴史が長いし所属教員がダントツに多い割にノーベル賞受賞者は少ないのは、画期的な研究は不得意なのでしょう。

 

(注)

受賞者の「出身大学」は明確ですが、「受賞研究時」に所属していた組織は必ずしもハッキリしていません。また、「受賞時」の組織も非常勤で勤務している場合や所属が複数の場合などもあり、どの仕事がメインだったか必ずしも明確ではありません。これらが原因で、この表に不適当な表示があるかもしれませんが、その場合はご容赦ください。

 

自然科学系のノーベル賞受賞者は、以前は京大出身が多かったけれど、近年はあちこちに分散しており、日本の研究・技術の裾野が広がっているように思います。これは良い傾向で、これからは様々な大学・研究所・企業から受賞者が出てくること期待しましょう。実際、今後のノーベル賞受賞の予想をメディアやインターネットで見ると、京大や東大だけでなく、さまざまな所属の方が挙げられています。

この理由について考えてみると、以前は優秀な学生は東大か京大に進んだのであって、東大か京大の教育や環境が良かったからノーベル賞受賞者が出たと言えないのではと思います。

 

昔、京大とアメリカの大学(スタンフォード大だったか、記憶が不確かです。そんなに昔では無いはずですが、インターネットで検索しても出てきませんでした)が留学生を相互交換した時、アメリカから来た留学生が京大の教育について、「(京大の教育レベルが低いので)京大にいる必要は無い」とアメリカの出身大学に報告したとか。京大は「放任主義」とか「自主性を尊重する」とか言って、一般学生の教育に手を抜いていたのでしょう。これは京大に限らず、日本の大学は皆その程度の教育レベルと推測します。昔は超優秀な学生は放っておいても、それなりに優秀な業績を残したでしょうから。

 

ところが自然科学は専門技術が高度化というか深くなり、学生を「放任しておく」とか「自主性を尊重する」と言って学生に任せていると、今の最先端レベルに追いつけないと思います。 「放任主義」とか「自主性を尊重する」と言っていたのは、古き良き時代の名残りで、既に過去のものでしょう。

 

京大の松本前総長が「高い山を築くなら、裾野を大きく広げよう」と言っているように、ノーベル賞級の研究をする超優秀な学生を育てるには、一般学生の教育もしっかりとする必要があると思います。また超優秀な学生でも教育をしっかりしないとその能力を発揮できない場合もあり、普通の学生でも努力とがんばりで能力以上の業績を上げることも可能と思います。

 

(おまけ)

東大で「異才発掘プロジェクト」を実施するとの報道が昨年のマスメディアに載っていました。これは東大の先端科学技術研究センター(研究内容をみると、「先端」とは思えないような研究もある)と日本財団が主催するもので、東大全学の取り組みでは無いようです。この試みは東大では失敗するでしょう。官僚養成大学と異才学生の育成は合わないから。

 

2015.02.03