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ほぼ週二 横浜の山の中通信

人と異なる視点から見る

「医者になる」より「東大医学部に入る」が重要になる、受験産業に踊らされる受験生

2022年01月20日 | 研究および大学

東大の農学部正門付近で起きた高校生による傷害事件は起こるべくして起きた事件と思う。

 

「東大理Ⅲは富士山か?」

 

私の2019年06月24日のブログ「東大理Ⅲは富士山か?」で書いたように、経済雑誌の記者が「東大理Ⅲは医者にならない人が10%もいますね?」と質問をしたのに対し、「東大の理Ⅲは日本最難関だからという理由で目標とする秀才たちが多く、(東大医学部は)医者になりたい人が一番少ない医学部と言われます」と東大理Ⅲに入学し、医学部を卒業したベンチャー創業者が答えている。このベンチャー創業者も「医者にならない10%」の中に入っている。

 

とすると、東大医学部の一学年は110人前後なので、毎年11人ほどが医者にはならないことになる。医学教育には6年で1億円以上の金がかかるので、医者にならない受験生が医学部に入ると11億円以上の損失になる。

 

東大理Ⅲの入学者数で高校や受験塾の評価が決まる

 

彼らは医者が目標ではなく、東大理Ⅲに入るのが目的というのは本人も認めている。なぜ、東大理Ⅲに入るのが目的と思うようになるのか?

 

受験雑誌や経済誌などが、「××高校は○○人が東大理Ⅲに合格した」というように、東大理Ⅲに合格した人数で高校や受験塾の評価が決まるような記事を書いている。有名進学校は東大理Ⅲの合格者が多いほど営業的には都合が良い。こういう雰囲気が高校や受験塾などの受験界に蔓延していると、高校や受験塾の教師や職員は、成績の良い受験生に東大理Ⅲを受験するように勧める動機が出てくる。たとえ、そのような成績の良い受験生が医者に向いていなくても。

 

受験生の考え違い

 

小学生や中学生の頃から、受験産業の環境にいると、自分は東大理Ⅲに入らなければならないと考えるようになっても無理からぬと思う。こういう勉強ばかりの環境では、将来自分がなりたいことを考える余裕が無く、とりあえず目の前の富士山(東大理Ⅲの入学試験)に立ち向かい、頂上に到達(合格)するのが自分に与えられた義務と思い込んでしまう。

 

「医者になる」という志望ではなく、「東大理Ⅲに合格する」というのが目的になると、本末転倒になってくる。

 

高校のズレたコメント

 

加害者が在籍していた東海高校のコメントは、上記のような問題点に全く触れず(触れられないだろうな)、こういう受験生が出て来るのはしょうがないという感じがして他人事のように感じるし、コロナを原因の一つに挙げているのは納得しがたい。

 

東大医学部の劣化

 

上に書いたような受験生が東大理Ⅲに合格して進学する東大医学部はそんなに良い所なのか? それどころか、東大医学部は劣化しているという記事が時々メディアに出ている。ある東大生(医学部ではない)は「医学部の友達は良いやつだけど、彼らに病気を見てもらうつもりはない」と言っているとあるメディアに出ていた。また、前の天皇の心臓病の手術(東大病院で行われた)を執刀したのは東大教授ではなく、順天堂大の天野教授だった。

 

また、新型コロナウイルスに関して、東大教授の出る幕が無い(これは東大ばかりでなく、日本全体に言えること)のも悲しいのを通り越して、情けなくなる。

(港区白金にある東大付属の医科学研究所は、元は北里柴三郎が作った伝染病研究所です。生い立ちからしてもっと貢献できなければおかしいが・・・)

 

いくら東大理Ⅲの偏差値が高くても、東大理Ⅲに合格するのが目的の受験生が多い(全てではないだろうけど)と、東大医学部はさらに劣化することになる。

 

2022年1月20日

 

(補足 2022年1月23日)東大医学部卒で、ノーベル医学生理学賞受賞者はいるか?

 

東大医学部卒の人がノーベル医学生理学賞を受賞した人がいるか、探してみました。

1987年 利根川進氏(京大卒、マサチューセッツ工科大学在籍)

2012年 山中伸弥氏(神大卒、京大在籍)

2015年 大村智氏(山梨大卒、北里大在籍)

2016年 大隅良典氏(東大卒、東工大在籍)

2018年 本庶佑氏(京大卒、京大在籍)

5人中大隅氏だけが東大ですが、医学部卒ではなく、教養学部基礎科学科の出身です。修士と博士課程も理学系で、医学部ではない。

 

ということで、東大医学部卒のノーベル賞受賞者はいません。権力闘争に明け暮れているのでノーベル賞受賞者は出て来ないと書いている人が居ますが、そうなんでしょう。

 

(補足 2022年1月25日)週刊誌の記事について

 

1月23日のNEWSポストセブンに「東大理IIIという別世界 秀才であるがゆえに抱えるリスクとは」という記事が載っていて、「教育関連企業のベテラン室長」が話している。

 

この「教育関連企業のベテラン室長」は、適性も考えずに東大理Ⅲに受験生を送り込むことでカネを稼いでいる典型的な受験産業のおっさんです。こんな異常な受験産業の雰囲気にいると、東大農学部正門付近で殺傷事件を起こした高校生が出てもおかしくない。受験産業は、受験生を異常な心理状態に追い込んでいるという自覚がない。

 

 

 


「失われた20年」日本の科学技術は長い停滞の時期に入った

2020年10月11日 | 研究および大学

日本の科学技術開発に無駄は沢山ある

 

学術会議の会員に推薦された人の中で、政府に批判的な人たち6人が外された問題が報道されている。これに対抗して、学術会議に支出する10億円がムダという意見が政府と自民党から出ている。

 

ムダと言えば、2020年08月23日の「福島沖の洋上風力についてのコメントにコメント」やカテゴリー「洋上風力発電」の中で2012年から書いている様に、震災後の補正予算を使って経産省が主導した福島沖の洋上風力発電の実験は5年間で予算100億円余(全額使ったかどうかは不明)だったのに成果は上げていない。

 

学術会議の改革も必要かもしれないが、それ以上に予算を使っている経産省や内閣府が主導する科学技術開発計画の改革も必要。

 

新しい科学技術開発では失敗はつきものなので、失敗した計画がすべてムダと言うつもりはないが、近頃の政府が関与した科学技術開発計画は失敗ばかりなのは改革の必要がある。 成功した計画はあるんだろうか? また、失敗したとはいえ、何らかの副成果があれば救われるが、こういったものはあるんだろうか?

 

そして前述した福島沖の洋上風力発電のように、震災後の補正予算という禁じ手を使って、どたばたとしか新しいことをやれない日本の科学技術政策には悲しくなる。

 

いずれ、日本政府の科学技術開発計画の評価をしたいと思っている。

 

ノーベル化学賞は「CRISPR-Cas9」の女性二人

 

2020年のノーベル化学賞は、「ゲノム編集」の新たな手法「CRISPR-Cas9」(クリスパー・キャスナイン)を開発した女性二人に決定した。以前から、この二人はノーベル賞候補だったので、いつかは受賞すると言われていた。しかし、二人はこの「ゲノム編集」技術に関する特許紛争を抱えているので、これが解決するまで受賞はもっと先かと思っていた。ノーベル化学賞の受賞で、特許紛争は二人に有利になると思う。余計なことかもしれないが、二人とも美人です。それだけ、西欧の女性科学者の裾野が広いと理解する。

 

日本の受賞はしばらく無いかも?

 

結果論と言われるかもしれないが、今年の日本の受賞は無いと思っていた。候補と言われる人の業績を読んでみても、ノーベル賞の受賞は無いと思った。来年も、再来年も無いかも知れない。

 

大学に競争原理を入れてゆく方針だったのでは?

 

何十年前だったか、大学の教員にも競争原理を入れていくと言う話があった。大学の教員には任期が無く、業績が芳しくなくても大学にずーと居られる。これが若い教員の業績を伸ばす妨げになっているので、教員にも任期制を導入しようという議論があり、一部に任期制が導入されたと記憶している。この時メディアは、アメリカなどで任期制が普通だと書いて、任期制を後押ししていたが、どのメディアが強力に後押ししていたか、残念ながら記憶にない。この件はそれほど昔ではないけど、メディアは何も伝えていないのは忘れてしまったのかな?

 

最近は、この任期制のために、若い教員が落ち着いて研究できないと言われているし、不安定な身分のため、研究者を志望する学生が減っているとも伝えられている。(今でもアメリカは任期制が普通なのか?)

 

大学の内情に詳しくない私が言うのもなんですが、教員の任期制は若い研究者に研究しやすい環境を提供すると言う目的(当初からこういう目的を遂行するような法律やシステムになっていたかどうか?)よりも、年取った研究者を温存する(年取った研究者は生活があるので任期制に抵抗しただろうな)方向になってしまったように思える。

 

日本にGAFAが生まれなかったように、ここ20年ほどは科学技術でも「失われた20年」になったのでは?

 

2020年10月11日

 


大学の名前で揉めている

2020年07月15日 | 研究および大学

京都先端科学大学

 

地下鉄に乗ったら、「京都先端科学大学」の広告が出ていた。「京都先端科学大学」は日本電産創業者の永守会長が理事長に就任した大学。旧名は「京都学園大学」で文科系の大学だった。本部キャンパスは京都市北西部に隣接する亀岡市だったが、本部は京都市内に移転した。英語名は”Kyoto University of Advanced Science”。これが“Kyoto Advanced Science University”なら略称が「カス」になってしまう。

 

京都大学は“Kyoto University”、京都工芸繊維大学が” Kyoto Institute of Technology” なので、かぶらない名前を考えたのでしょう。

 

私は、「京都先科学大学」より「京都先科学大学」のほうが、漢字的には良いと思うけど。

 

工業系大学の英語名はMITに倣う

 

有名なマサチューセッツ工科大学は” Massachusetts Institute of Technology”で、MITと略称される。それに倣って、日本の工業系の大学も”(地名)Institute of Technology”と名乗る場合が多い。東京工業大学も”Tokyo Institute of Technology”なので、英語名の略称は”TIT”。しかし、”tit”は「乳首」の意味があるので”tit”は避けたと聞いていたけど、そのまま使っている?

 

私立の東京理科大学は” Tokyo University of Science”。これは、” Tokyo University”の 「Science学部」と受け取られかねないと聞いていたけど?

 

大阪公立大学

 

大阪市立大学と大阪府立大学は統合する予定で、統合した大学は「大阪公立大学」にすると発表された。英語名は“University of Osaka”。 大阪大学が”Osaka University”なので紛らわしいと、大阪大学は「大阪公立大学」にクレームをつけている。確かにややこしい。

 

京都大学が”Kyoto University”、東京大学が”The University of Tokyo”なので、旧帝大も英語名は統一されていない。大阪大学のクレームは当然。

 

「東京都立大」の英語名は”Tokyo Metropolitan University”なので、これに倣っていっそ「大阪都立大」”Osaka Metropolitan University”にしてしまったら? 「大阪都」が実現するかどうかわからないけど、大学だけ先行して英語名だけ”Osaka Metropolitan University”にしてしまえば良いのに! 

 

これに関連して、2020年01月24日のブログ「『首都大学東京』が『東京都立大学』に戻る深い理由」参照。

 

(追加)2021.8.25

日経産業新聞によると、「大阪公立大学」の英語名は”Osaka Metropolitan University”にしたそうです。日本名も「大阪都立大学」にしたかったのでしょうが、大阪都構想が否決されたので仕方がない。

 

京都芸術大学

 

私立の京都造形芸術大学が「造形」を取って、「京都芸術大学」に名称を変更すると発表した。これに対して老舗の「京都市立芸術大学」が大学名変更の差し止めを求めて裁判所に訴訟を起こしている。「市立」が入るか入らないかで区別できるかどうか? 

 

元「造形」の京都芸術大学の英語名は“Kyoto University of the Arts”。一方の京都市立芸術大学の英語名は“Kyoto City University of Arts”と“City”が入って“the”が抜けている。東京芸術大学は“Tokyo University of the Arts”なので、京都芸術大学の英語名はこれに倣ったと思われる。“the”の有無の意味はあるのかな? 

 

日本名も英語名も極似していて、ちょっと無理かなと思う。「京都市立芸術大学」は、「京都芸術大学」の商標登録をしておけば良かったのに。地裁の判決は8月27日に出るので、一次的には決着しそうです。 

 

大学名は、それほど語彙が豊富に無いので、どっかで似た名前が出て来る。

 

2020.07.15

 

 


「首都大学東京」が「東京都立大学」に戻る深い理由

2020年01月24日 | 研究および大学

20180808日に「首都大学が都立大学に戻る? 困った!」というブログを書いている。

 

戻す理由は「首都大学東京」の知名度がイマイチであるし、「首都大学東京」という名前から東京都が経営している大学というイメージが湧かないと書いていたメディアがあった。東京都が経営しているなんて、アホくさ! それより私は、大学名に「首都」と「東京」のように同じ意味の言葉が二つも入っているのは文学的センスが無いと思う。

 

上記ブログの後半は、東急東横線の「都立大学駅」の近くにあった都立大学が多摩丘陵に全面移転して15年もたつのに、いまだに「都立大学駅」を名乗っているのは「ずうずうしい」ので改名を求めている。京王相模原線の「南大沢駅」を「都立大学駅」に改称すべきです。

 

文学的センスのない「首都大学東京」という名称から、「東京都立大学」に戻すのは当然と思うけど、実は深い理由は別にあると思う。

 

それは、10%くらいの低い可能性であっても、「大阪都立大学」の可能性があること。「大阪都」構想の住民投票(二回目)は今年の秋と言われている。一回目は否決されているが、二回目の今回は前回より接戦になるかも?

 

大阪には現在「大阪府立大学」と「大阪市立大学」があり統合計画がある。「大阪都」が実現すれば二つの大学は統合して「大阪都立大学」になる可能性が高い。本家の東京都立大学としては、「大阪都立大学」が出来てから、「東京都立大学」に改名するのも悔しい。しかも、「大阪都立大学」の学生数は「東京都立大学」の約1.5倍で、本家を上回るのも悔しい。

 

「大阪都」になる確率が10%しか無くても、「首都大学東京」の人たちはヤバイ!と思っただろうな。

 

2020.01.24

(追加)2021.08.25

日経産業新聞によると、「大阪府立大学」と「大阪市立大学」が統合して発足する大学の名称は「大阪公立大」とし、英語名は「Osaka Metropolitan University」になるそうです。大阪都構想は否決されたので、「大阪都立大学」にはならないけど、英語名には「 Metropolitan」が入ると言うちぐはぐになってしまった。

 

 

 

 

 


東大は東京の普通の大きな大学

2019年12月31日 | 研究および大学

20191218日のブログ「東大は防災・減災に出遅れた」に、東大が防災・減災に出遅れたことを書いた。しかし最近は他の分野でも影が薄いと感じる。それで今回は久しぶりに東大について考えてみます。

 

先ずは東大の設立の趣旨から。

 

①役人養成

設立時の主目的だった。

 

②学術組織や官庁の諮問機関のトップを務める

これは、東大の最大の強み。他大学は地の利で東大に敵わない。東京にいると、役所や議員、会社との打ち合わせに何かと便利。また、東大の人は管理に向いている人が多いので、この役目は都合が良い。

 

③大規模(国策)科学の取りまとめに強い

研究者数も研究費も日本で一番多い。金のかかる大規模プロジェクトは得意。東大のノーベル物理学賞も同じ。

 

④日本では一番強い文科系

法学や経済分野に強い人材が欲しかった。人数も金も日本で一番豊富。(ただし、本人たちは不足していると言うだろうな) しかし、東大が経済学でノーベル賞は取ったことは無いし、今後も取れるかどうか、あやしい? 文学ではノーベル賞を取っているけど、後が続かない。東大の経済学も文学も、以前は強力だったけど、今ではそうでも無い感じ。他大学が強くなったのか、東大が弱体化したのか? 多分、両方だろうな。

 

次に最近の東大に吹く逆風を考える。

 

①東大の役人離れ

最近の国会の答弁を聞いている受験生は役人を志望するか? 東大の受験生は時流に敏いので、役人を嫌って東大の役人志望者は減少するはず。国家公務員を目指す他大学生にとって有利な状況になっている。

 

②医者に向いていない受験生が合格する医学部は衰退する

20190624日のブログ「東大理Ⅲは富士山か?」に書いたように、理Ⅲ(理科Ⅲ類)は東大医学部に入るために受験しなくてはならない入試の時の分類。しかし最近では、日本で一番難しい入試に合格したという自己満足のため、あるいは自分の経歴に箔を付けるために理Ⅲを受験する人がいる。また、出身高校や受験対策塾は「最難関の東大の理Ⅲに何人入った!」という宣伝文句が欲しくて、受験生の適性を考えずに、理Ⅲを受験するようにそそのかしている。

 

受験の点数が良いから医者の素質があるわけでは無いし、優秀な医師や研究者に成れるわけでもない。理Ⅲに受かる受験生の中に、医者になりたくないし、適性が無いと分かっていながら卒業する学生が相当数いるとしたら、東大医学部と受験生双方にとって不幸です。結局、理Ⅲは受験産業の箔を付けるためだけの存在になり下がった。

 

こんな東大医学部はどんどん弱体化していくので、他大学の医学部はチャンスです。

 

③研究者数、研究費が日本一だけど、成果は上がっていない

これは、データがあるわけでは無い(研究費のデータはあるかもしれないが、成果の評価が難しい)ので私の感想です。自然科学系だけでなく、文系も下り坂という印象。東大は不動産などの資産がダントツに多いし、在籍する研究者数も他大学より格段に多いし、国からの研究費も日本一という記事はよく目にするが、研究成果がダントツで日本一という記事は見たことが無い。

 

大学のもう一つの柱は人材育成だけど、もともと優秀な学生が入って来るので、その評価は難しい。(これは他の有名大学も同じ)

 

④東大は防災・減災に出遅れている

 

このことは前回に書いた。決定的に出遅れている。

 

(結論)

東大は資産を沢山持っているし、人も金もあるのに、結果が付いてこないのはどこかがおかしい。こういう状況なので、学内の大改革をすべきです。

 

大改革しないのであれば、東大は地の利を生かし、

②学術組織や官庁の諮問機関のトップを務める

③大規模(国策)科学の取りまとめに強い

でやっていく大学でしかないと思う。

 

あとは、理Ⅲの入学試験に面接を取り入れて、医者になりそうもない受験生を不合格にして、医学部を再生すること。役人離れはどうしようもない。

 

2019.12.31